ミルウォールのイアン・ホロウェイ監督 [写真]=Getty Images
文=藤井重隆
イギリスでは毎年、10月の2週目あたりから造花の「ポピー=ヒナゲシ」を身に着ける習慣がある。第一次世界大戦が終結した11月11日の『Remembrance Day=英霊記念日』に向け、戦没者を追悼するためだ。
英国サッカー界では、プロ、アマ関係なく、記念日を迎える前の週末には全国各地の試合会場でセンターサークルを囲み、1分間の黙とうを捧げる慣わしがある。世界各地でテレビ放映されているプレミアリーグで、同週末に行われる試合では全クラブの選手たちが胸の中央にポピーを付けてプレーする。
第一次世界大戦から100周年を迎えた今年、欧州各地でも『終戦100周年』として今後4年間で、悲惨な戦争を繰り返さないよう記念行事や展覧会などが開かれる予定で、サッカー界でも同様のイベントが行われる見通しとなっている。
そんな中、イングランド2部リーグに所属するミルウォールが、軍服をイメージした迷彩柄のホームシャツを1着50ポンド(約8600円)、限定1500着で販売することが話題となった。同収益の20パーセントは、サリー州にある軍務で負傷した兵士のためのリハビリセンター『ヘッドリー・コート』に寄付される予定で、チームは同シャツを11月8日にホームで行う2部のロンドンダービー、ブレントフォード戦のみで着用し、同試合では胸のスポンサーも同リハビリセンターの名前に変わるという。当日はリハビリ中の軍人も招待される。
一方、この限定シャツ販売に合わせて制作された完成度の高いCM広告も話題となっている。
同CMの語り手を務め、故ジョン・マクレー軍医の有名な詩『フランダースの野に』を詠んだイアン・ホロウェイ監督は、大衆紙『サン』に対し、「(詩を詠んだとき)正直、声が詰まり、私の目からは涙が溢れ出ていたと思う」と語った。
その詩は誰もが胸を打たれる内容になっている。
1915年、マクレー軍医は教え子だった同部隊の中尉が戦死し、戦地フランダースの野原に埋葬した際、同じように埋葬された兵士の白い十字架の周りに咲き乱れる真っ赤なポピーの花を見た。その光景を描いた詩を以下に紹介したい。
『フランダースの野に』
フランダースの野にポピーの花が咲く
幾重にも並ぶ十字架の間に
僕たちの場所と印された地に
空には今なおヒバリが勇敢に歌い飛ぶ
銃声の中でその鳴き声がかき消されても
僕らは死者。数日前まで生きていた
朝日を感じ、夕日の輝きを見ていた
愛し、愛され、そして今ここに眠る
フランダースの野に
敵との争いを続けよ
倒れながら君たちに投げ渡すタイマツ
それを君たちの手で高く掲げよ
死んだ僕らとの誓いを破るなら
どんなにポピーの花が咲こうとも、僕らは眠れない
フランダースの野に
この詩は戦争の悲惨さと平和への祈りを象徴するものとして全世界に広まった。
サッカー界でも2011年、記念日の前日にウェンブリー・スタジアムで行われたイングランド対スペインの親善試合で、FIFA(国際サッカー連盟)がポピーを付けることは『政治的象徴を表してはならない』という規則に違反すると通達。だが、FA(イングランド協会)の総裁を務めるウィリアム王子と当時のデービッド・キャメロン首相が国民を代表して抗議文を送ると、FIFAは前言を撤回。「腕章への刺繍なら可」と、ポピー着用を許した。
今シーズンのプレミアリーグでは、11月8日、9日に各地で行われる試合で、追悼式と1分間の黙祷が捧げられる。