(上段左から)アザール、スターリング、チェフ、(下段左から)シュヴァインシュタイガー、吉田、岡崎 [写真]=Getty Images
文=藤井重隆
2015-16年シーズンのプレミアリーグが8月8日にいよいよ開幕する。
今夏のプレシーズンでは20チーム中18チームが国外遠征を敢行し、イギリス国内で調整を行ったのはマインツから移籍した日本代表FW岡崎慎司が所属するレスターと、ヨーロッパリーグ1次予選から参戦しているウェストハムのみとなった。
8月1日までに20チームに移籍した選手の総数は83選手に上っており、昨シーズン4強の中ではバイエルンからマンチェスター・Uへ電撃移籍したドイツ代表MFバスティアン・シュヴァインシュタイガーと、チェルシーからアーセナルというライバル間移籍を果たしたチェコ代表GKペトル・チェフが目玉となっている。
スカイスポーツの解説者で元イングランド代表DFガリー・ネビル氏は国外遠征を行うチームについて、「プレシーズンで遠距離の遠征を行うチームは疲労と準備不足が懸念される。遠征距離が長ければ長いほど、シーズンに悪影響を及ぼす傾向がある」と語る。同氏は過去3シーズンのマンチェスター・Uを例に挙げ、次のように説明する。
「デイヴィッド・モイーズが指揮した2013-14シーズン、ユナイテッドはタイ、オーストラリア、日本、中国、スウェーデンの5カ国を渡り歩き、7位と不振だった。そして昨シーズン、ルイス・ファン・ハール体制に引き継がれると、遠征先をアメリカのみに絞り、チャンピオンズリーグ出場権獲得圏内の4位をモノにした」
「アレックス・ファーガソンが最後に率いた2012-13シーズン、彼らは南アフリカ、中国、ノルウェー、スウェーデン、ドイツの5カ国を渡り歩いたが、モイーズやファン・ハール体制と違っていたのは、遠方からすぐにヨーロッパへ戻り調整したことと、序盤から主力選手たちを固定して強固なチーム基盤を構築していたことだ。ファーガソンは同シーズン、チャンピオンズリーグで16強、FA杯とリーグ杯でも敗退したが、最優先としていたプレミアリーグ優勝を成し遂げた。彼は長年の経験と統率力、先を読む力で、商業目的のプレシーズン遠征という過酷な日程を克服していた」
G・ネビル氏は、こうしたプレシーズンの日程から今シーズンの優勝候補を読み解くと、昨シーズンの4強の中で上々の仕上がりを見せているのは、遠征先をアメリカのみに絞った昨シーズン覇者のチェルシーとマンチェスター・U、同じくシンガポールのみに絞ったアーセナルであると言う。
「遠征先を一つに絞ったことは非常に賢明なことだ。マンチェスター・Uは昨シーズンもアメリカ遠征を行ったが、2年連続で同じ場所に行くのはチームにとっては大きなプラスであるし、インターナショナル・チャンピオンズ・カップでもパリ・サンジェルマンに敗れはしたものの、終盤にかけて優勝した昨年以上に勝利へのこだわりとチームの仕上がりを見せていた」
「同じくシンガポールでバークレイズ・アジア・トロフィーに参戦したアーセナルも、まずは国内で練習をスタートさせ、4日間で2試合という日程でシンガポールで地元のオールスターチームとエヴァートンを破って優勝した。彼らは早々に帰国し、2日の日程で行った本拠地開催のエミレーツ・カップでもリヨンとヴォルフスブルクを下し、カップを手にした。2日にウェンブリーで行われるチェルシーとのコミュニティ・シールドでも勝利すれば、開幕から勢いに乗るだろう」
「昨シーズン王者のチェルシーも、商業目的だったタイとオーストラリアへの遠征をシーズン終了直後に行ったことが賢明だった。インターナショナル・チャンピオンズ・カップでは序盤から試験的な試合をしつつも、パリ・サンジェルマンとバルセロナとの試合では相手の脅威となる攻撃力を見せていた。特にエデン・アザールには昨シーズン以上の活躍が期待できそうだ」
一方、G・ネビル氏は不振に陥る可能性のある上位チームとして、夏の間にオーストラリアと東南アジアを含む最多4カ国へ遠征したマンチェスター・C、リヴァプール、トッテナムを挙げており、「チームがまだ仕上がっていない」と解説。対照的に上位に食い込む可能性が高いチームとして、プレシーズン終盤にヨーロッパリーグ予選3回戦を戦っている日本代表DF吉田麻也が所属する昨シーズン7位サウサンプトンと同8位スウォンジーを挙げた。
昇格組(ボーンマス:昨シーズン2部優勝、ワトフォード:同2位、ノリッジ:同3位→プレーオフ昇格)の中で最も残留する可能性が高いチームとして、すでに10選手をユヴェントスやローマなどから補強しているワトフォードを挙げ、降格候補として、昨シーズン2部降格ラインから勝ち点3差で残留を果たしたサンダーランドを挙げている。
なお、スカイスポーツでは、イングランド北部のクラブが史上最少の7チーム(ニューカッスル、サンダーランド、エヴァートン、リヴァプール、マンチェスター・C、マンチェスター・U、ストーク)に減少したことが議論され、過去5年間でイギリス最大の都市ロンドンを本拠地とする1部と2部の5クラブ(ウェストハム=2010年、QPR=11年、ブレントフォード=12年、フルアム=13年、チャールトン=14年)が次々と買収されている背景からも、今後そうしたチームが地方クラブに代わって世界最大の資金力を誇るプレミアリーグに昇格する可能性も指摘されている。