2002年5月、約1年半前にプロサッカー選手としてのキャリアを終えた中西哲生氏は、スポーツライターの戸塚啓氏とともに、現役時代の恩師であるアーセン・ヴェンゲル監督についてつづった『ベンゲル・ノート』(幻冬舎)を出版した。世界的名将のトレーニング術やロンドンのクラブハウスへの潜入取材など、ヴェンゲル監督の“哲学”が詳細に記された同書は、サッカーファンのみならず、多くの指導者からも絶賛された。それから約14年。改めて中西氏と戸塚氏に出版の舞台裏を語ってもらいながら、“アーセン・ヴェンゲル”という人物の素顔に迫った。
文=戸塚啓
写真=野口岳彦
■中西「世界のトップクラブが、僕の知っている練習をしている」
戸塚啓(以下、戸塚) 2002年5月に僕らの共著書として出版した『ベンゲル・ノート』にまつわるエピソードから、話を始めましょうか。アーセン・ヴェンゲルさんが名古屋で監督を務めていた当時の軌跡と、そののちにイングランドで成功を収めた彼の軌跡をたどった一冊……というのが本のあらましで。
中西哲生(以下、中西) 僕はヴェンゲルが日本で指揮していた時に選手としてプレーしていて、「現役を引退したら、あなたが監督をしているクラブの練習を見に行っていいですか?」と話をしていたんです。2000年の12月に現役を引退したとき、当時の会話が記憶のなかで立ち上がりました。彼が日本で仕事をしていたクラブに連絡先を聞き、ファックスを送りました。返事は来なかったけれど、とにかく行ってみようと。
戸塚 そのときは、指導者になるつもりで行った?
中西 いえ、メディアで仕事をする気持ちは固まっていて、そのための準備もしていたけれど、これからサッカーを伝える仕事をしていく上でも、ヴェンゲルの下で学んでおきたい、という気持ちが強かったですね。彼が率いるクラブには世界のトップクラスの選手がそろっていましたので。
戸塚 世界的なプレーヤーに対して、ヴェンゲルがどういう練習メニューを用意するのか、という興味があったわけですね。
中西 現地には2週間ほど滞在しました。ファックスを見てくれていたので、「大丈夫だよ」と。イングランドのクラブは、基本的に練習を観ることができません。リーグ戦とか欧州のカップ戦の前日に、定例会見があるぐらいじゃないですか?
戸塚 フリーパスで練習を見学できるのは、超VIP待遇ですよ。
中西 練習を見学するのはもちろん、「やりたければ一緒にどうぞ」っていうスタンスで。「えっ、いいの」って。戸惑いました。
戸塚 それはそうですねえ。
中西 「ナカは引退したばかりでしょう」ってヴェンゲルが言ってくれて。そういうところも彼の優しさだと思うんです。実際に練習に加わると、見ているだけでは分からない気づきがあるので。
戸塚 そうだ、そうだ。当時の記憶が、だんだんとよみがえってきましたよ(笑)。
中西 いざ練習が始まると、日本でやっていたものとほぼ同じなんです。プレーの質はものすごく高いけれど、練習の目的は同じものばかりで。名古屋時代からヴェンゲルの右腕だったボロ・プリモラツというコーチが、「ナカ、イツモ、オナジネ」って言うんです。世界の最先端をいくクラブが、僕の知っている練習をしている。これは日本全国の指導者の方に、自分が見聞きしたものを伝えるべきだと思ったのが、『ベンゲル・ノート』を出版したきっかけですね。
戸塚 それにしても、練習メニューからミーティングの内容まで、事細かに書いていましたね。それも、一日もサボらずに!
中西 彼が名古屋にやってきた1995年当時、僕が所属するクラブはまったく結果を残すことができていなかった。ところが、前年までとほぼ同じメンバーで、驚異的な進化を遂げていった。「いったい何があったんだ?」と、なるわけです。ヴェンゲルが就任2年目を迎えるにあたって、恩師でもある道家歩さんが「記録をしておいたほうがいいよ」と助言をしてくれたんです。
戸塚 なるほど。
中西 彼が英語を使い、僕が英語を理解できたのは幸運でした。ヴェンゲルは母国語のフランス語のほかにドイツ語も話しますが、通訳の関係で日本では英語がコミュニケーションツールだった。それによって僕自身も、彼が言っていることをダイレクトに理解できていたし、英語のトレーニングのためにも日本語ではなく英語で記録していきました。彼の言葉はそのとおりに書き留めて、分からない単語は辞書で調べて。
戸塚 通訳が体調を崩したときは、中西さんが通訳をしたこともあったんですよね。
中西 練習は必ず攻撃と守備に分かれるんですが、通訳はひとりしかいません。ヴェンゲルがいない場面では、僕が練習の意図を説明したり、ミーティングで通訳をしたりということがありましたね。
■戸塚「こだわったからこそ、参考にしてくださる指導者がいる」
戸塚 『ベンゲル・ノート』の制作にあたっては、第二章の練習メニューの再現に苦労していましたよね。編集者さん、デザイナーさんのやり取りに、膨大な時間を費やしていました。
中西 構想から完成までで言えば、半年くらいかかっています。95年はノートを取っていなかったので、当時のチームメイトやスタッフに話を聞いたり。戸塚さんにも取材をしてもらいましたよね?
戸塚 僕は主にスタッフの方々に話を聞きました。ヴェンゲルの話をすると、誰もがうっとりとしたような表情を浮かべるんですよ。ヴェンゲルへの厚い信頼がうかがえました。
中西 実は『ベンゲル・ノート』を作る以前に、英語でメモしたノートを日本語に訳していたんです。何人かの知り合いから、「欲しい」と言われて。結果的にそれが、出版の準備になりました。もしゼロからのスタートだったら……。
戸塚 2002年5月末開幕の日韓大会までに出版するという編集者との約束を、守れなかったかもしれませんね(苦笑)。
中西 図版の話をすると、アイコンには徹底的にこだわりました。プレーヤー、マネキン、ボールの動きを示す矢印、ボールを持っていない選手の動きを示す破線の矢印などの位置、角度、向きとかは、ほぼ完璧に再現できたと思います。選手の身体の向きを短い棒線で表しているんですが、「12時の方向じゃない、11時55分だ」とか、それぐらい細かく作り込みました。
戸塚 そこまでこだわったからこそ、参考にしてくださる指導者がいるんでしょう。
中西 発売からこれだけ時間が経っても、「参考にしている」と言われることがあります。嬉しいですよね。手倉森誠監督も、取材でお会いしたときに「あれはいい本だよね」と言ってくれました。
戸塚 手倉森監督は、ロンドンまで行って練習を見ています。練習後にクラブハウスで食事をしながら、ヴェンゲルと話をしたと聞きました。
中西 クラブハウスを含めた施設は必見ですよね。ヴェンゲルは設計から携わっていて、クラブハウスは日本の文化を取り入れて土足厳禁です。室内は採光にこだわっていて、明るい空間作りがなされている。驚かされるのは選手の動線でしょう。トップチームとユース以下の選手は、レストランで一緒になることがありつつも、それ以外は明確に区別されている。ユースの選手は「早くあっちに行きたい」と思うだろうし、トップの選手は「若い選手の見本にならなきゃいけない」と思う。そういう意図があると、ヴェンゲルも話していました。
戸塚 レストランも豪華! テーブルセッティングからもう、一流ホテルですよね。
中西 シェフはヴェンゲルが連れてきた人で、味付けにもヴェンゲルの意見が反映されています。月曜日と木曜日では、味付けが微妙に違うんですよ。
戸塚 えっ? それは気づかなかったですね。
中西 週末の試合に向けて、だんだんと塩分を落としていくんです。ヴェンゲルにとってはミーティングのスペースにもなっているようで、スカウトと話しながら食事をとったりもしていました。
■戸塚「ヴェンゲルはビジネス・パーソン」
戸塚 『ベンゲル・ノート』の出版後も、中西さんはロンドンへ行っていますね。
中西 ロンドンでも、日本でも会っています。2002年の日韓大会で、ヴェンゲルはテレビの解説者として来日していました。彼が滞在するホテルに僕も仕事で泊まっていたので、朝食の時間を一緒に過ごしたりしました。
戸塚 最近は?
中西 2013年にイギリスからアジアツアーで来日したときに、ヴェンゲル監督当時の名古屋の選手によるOBマッチが開催されました。それが久しぶりの再会でした。「今度はロンドンでこの試合をやりたいね」と、笑っていました。一緒に仕事をしていた当時と、変わらない雰囲気でしたね。
戸塚 変わらないヴェンゲルの雰囲気とは? 彼はどんな人です?
中西 僕の印象では監督というよりも、チームを総合的にオーガナイズする監督兼ゼネラルマネージャー、ですね。日本でもそういう仕事ぶりで、大学まで足を運んで選手を獲りに行ったりしていました。食事へのこだわりは日本でも同じで、遠征ではどんなホテルに泊まるのか、いつどうやって移動するのか、ということまで計算していて。僕ら選手に対しては、ピッチのなかという見えるところだけでなく、彼が見えないところ──。
戸塚 インビジブル・ワークが大事だ、と。
中西 と、同時に、練習から「見られているな」というのはいつも感じたものです。疲れている選手がいると、「今日は練習をしないで帰りなさい」と言いますから。選手というより人として見ているから、そういう言葉が出てくるんでしょうね。
戸塚 「疲れていても練習をするのがプロ」、という考えではないわけですよね。
中西 言葉の選び方もうまいんです。たとえば、「クリエイティビティを出せ」ではなく、「フリーマインドでやれ」と指示します。そう言われたら、「よしっ、自分がやりたいようにやるぞ」っていう気持ちになりませんか?
戸塚 確かに。
中西 こうしろ、ああしろ、とは絶対に言いません。
戸塚 戦術家、戦略家としてのヴェンゲルは?
中西 組織が到達すべきところから逆算して、チームを持っていきますね。サッカーの指導者というより、企業の経営者のイメージです。
戸塚 ビジネス・パーソンですよね。
中西 あまり知られていないところでは、彼はプログラミングに積極的です。1996年あたりにはもう、選手のパフォーマンスを数値化していましたよ。
戸塚 いまで言う走行距離とか、スプリントの回数とか?
中西 そう、そう。ソフトを独自に作っていました。いまでは当たり前のことを、15年以上前から取り入れていたんです。
戸塚 イングランドのクラブで、もう20年以上も監督をしています。マンネリ化は押し寄せないものでしょうか?
中西 まったくないとは言えないでしょう。でも、選手は変わりますからね。選手たちとのジェネレーション・ギャップは、右腕のボロ・プリモラツがいますから。ヴェンゲルと選手の間で、彼が調整役をこなしています。それもまた、組織を円滑に機能させるための、ヴェンゲルのマネジメントだと思います。
■中西「彼の言葉はいまでも僕のコアエンジンになっている」
戸塚 ここ最近のゲームを観た印象は? 日本でやっていた当時と変わらない? それとも変わっていますか?
中西 いつも変わっていますね。選手の特徴を最大限に引き出すために、彼はどういう組み合わせや並びがいいのかを考えます。必然的に、手持ちのコマによってサッカーは変わります。
戸塚 「おっ、面白いな」という使い方もしますよね。ウインガーだったティエリ・アンリを、センターフォワードにコンバートしたり。
中西 既存の考え方に、とらわれないからでしょう。「この選手はこのポジションだ」ではなく、「こっちもできるだろう」と。名古屋でも、左サイドバックだった大岩剛をセンターバックで使い、僕も本職ではないサイドハーフで起用されました。彼自身もフリーマインドで、選手を見ているのでしょうね。
戸塚 選手と良く話しているイメージがあります。向こうでの練習でも、練習の合間に選手に声をかけていました。
中西 日本でも同じでしたよ。それによって信頼関係が生まれて、ヴェンゲルへのリスペクトが深まり……彼と一緒に仕事をした元選手たちは、引退後に色々な形で仕事をしているでしょう?
戸塚 監督になったり、クラブの要職に就いたりしていますね。ヴェンゲルとの出会いが、大きな財産になっているのでしょうね。
中西 それはもう、間違いないですよ! ヴェンゲルが世界のトップであり続けていることは、僕らの自信になっているんです。僕が一番感銘を受けたのは、「日本という国が持っているポテンシャルはすごい。世界で唯一無二の国だ」と断言していたことですね。その言葉によって、僕は「代表が世界一になる可能性はある」と考えることができているし、日本の優勝に向けて切磋琢磨できています。
戸塚 ヴェンゲルがそこまで日本を評価する根拠は?
中西 日本人が潜在的に備える献身性とか他者への気遣いといったものは、世界でも稀有なものだと。もうひとつ忘れられない言葉をあげると、「Pass should be future, not present, not past」ですね。
戸塚 パスは未来へ出すものだ。
中西 過去でも、現在でもない──サッカー選手だけでなく、ビジネスマンにも当てはまる人生の真理ですよね。このふたつの言葉は、いまでも僕のコアエンジンになっています。
戸塚 ヴェンゲルはかねてから、「日本に恩返しがしたい」と話しているじゃないですか。その言葉をどうやって、実現するのか。個人的にはぜひ、日本の監督をやってほしいんですよ。代表監督は年を取ってからやるものだと話していましたから、そろそろ……。
中西 可能性がないわけではないでしょう。代表チームの監督をやるならば、世界チャンピオンになったことのある国よりも、日本のほうが野心的なチャレンジだと話していますし。世界のサッカー界をけん引してもらいたい、という気持ちもありますけどね。
戸塚 ヴェンゲルのマネジメントを、もう一度間近で見たい。日本で仕事をしてほしいんです。
中西 契約金は『ウイニングイレブン』さんに負担してもらって(笑)、ぜひ日本で仕事をしてほしいですね。
ヴェンゲル監督から大きな影響を受け、『ベンゲル・ノート』を出版した中西氏と戸塚氏。同書につづられたトレーニング術などは、指導者たちだけでなく、一般のサッカーファンにも大きな衝撃を与えた。そして、「ヴェンゲル監督のように自らの“哲学”を持ってチームを率いてみたい」というサッカーファンの希望を叶えるアプリが、『ウイニングイレブン クラブマネージャー』だ。このアプリは、戦況データを確認しながら、戦術・指揮を楽しむことができるほか、選手の獲得・育成や、クラブ施設の発展・拡充など、監督と経営の両方を楽しむことができる。今すぐ、アプリをダウンロードして、中西氏がヴェンゲル監督から教えを受けた数々の“マネジメント哲学”を実践してみよう!
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By 戸塚啓