4月24日、ホームにスウォンジーを迎えたレスターは、ジェイミー・ヴァーディを出場停止で欠くシーズン終盤の山場を4-0の大勝で乗り越え、またひとつ奇跡の優勝に近づいた。
選手たちが気持ちのこもったプレーを見せた影で、実はレスターの裏方スタッフも気合い十分だったことにお気付きだろうか。試合が行われた本拠地キングパワー・スタジアムのピッチを注意して見てみると、他のスタジアムではまず見られない複雑な幾何学模様が描かれていたのである。
実は、しばしば“新作”がお披露目されるキングパワー・スタジアムの美しい「芝目模様」は、最近のレスターでちょっとした名物となっている。サッカーピッチの芝目模様といえば、ハーフウェイラインと並行に走るストライプ柄が一般的。ちょっと凝ったスタジアムだとダイヤモンド型だったり、サウサンプトンのように斬新な円形にトライしたクラブもあったが、それらと比べてもレスターのアバンギャルドさは群を抜いている。SNS上ではしばしば「芸術」と賛美され、ちょっとでもゲーム内容が退屈になろうものなら「ピッチの模様を見ている方が面白い」とまで言われるほどだ。
芝目模様は、刈りこみの方向を変えることで付けられる。芝刈り機が倒した方向によって光の当たり方が変わり、見た目に濃淡がつくことを利用するのだ。つまり、複雑なデザインを作ろうとすれば、様々な幅で、様々な方向に、何度も繰り返し芝刈りをしていかなければならない。もちろん、シンプルなストライプと比べれば何倍も時間と労力がかかる。それでも、レスター自慢のグラウンドキーパー・チームが「見た目の美しさ」に対する美学を貫くのは、ひとえに試合を観戦するファンに楽しんでもらうためだ。
15歳からこの道で働き、コベントリーやアストンヴィラでの仕事を経て2年前からレスターへ“移籍”し、現在は30歳の若さでヘッド・グラウンズマンを任されているジョン・レドウィッジさんは地元紙のインタビューでこう語った。
「ギャリー・リネカーがピッチを褒めてくれたときは嬉しかったよ。デザインに気付いてくれる人がいるんだってね。(SNSの)いろんな声も楽しく見ているよ」
その一方で、彼は「ピッチ状態だって最高だ」と胸を張る。現に、彼が率いる8人の職人たちは、昨年11月に“夢の劇場”オールド・トラッフォードのチームを抑えて英国最高のフットボール・グラウンド・チームとして表彰されている。これはもちろん芝のクオリティーや整備の水準など総合的な評価に基づくもの。選手に優しい“高品質”を維持して業界ナンバーワンと言われるレスターのチームは、その上で“遊び心”も忘れない。
今季のホームゲームはあと1試合。5月7日、第37節エヴァートン戦を残すのみだ。ここで優勝が決まる可能性も十分にあることから、レドウィッジさんのチームは一世一代の晴れ舞台にも最高のピッチを用意してくるだろう。そして、そこにはどんなアーティスティックなデザインが施されているのだろうか。バーディーやリヤド・マフレズ、岡崎慎司らのスーパープレーだけでなく、レスターが世界に誇るピッチの“アート”にもぜひ注目してみてほしい。
(記事/Footmedia)