イングランド・フットボールの歴史と常識がひっくり返ったシーズンだった。ミラクル・レスター、まさかのリーグ制覇。クラブ創設132年目の初優勝は、未来永劫語り継がれる歴史的快挙にして、世界中の話題をさらう世紀のサプライズとなった。
一方では、完全崩壊でジョゼ・モウリーニョ更迭に踏み切ったチェルシーが前年王者の歴代ワースト順位となる10位に沈み、真逆の意味で常識を覆した。チェルシーほどではないにせよ、マンチェスターの2強にアーセナル、リヴァプールとビッグクラブはいずれも不完全燃焼のシーズンに。その間隙を縫うように、先鋭的なプレッシング戦術で観る者を楽しませたトッテナムが、最後までレスターと優勝争いを演じて大きなインパクトを残した。
中小クラブではサウサンプトンとウェストハムが好補強と高品質なパフォーマンスで爽やかな風を吹かせ、初めて残留を勝ち取ったワトフォード、プレミア初挑戦ながら志の高さを見せたボーンマスと昇格組の健闘も光った。こうしたクラブの躍進に気圧される形で降格の憂き目に遭ったのが、アストンヴィラとニューカッスルという歴史ある名門2クラブ。優勝争いから残留争いまで、漏れなく波乱と驚きに満ちた、記憶に残るシーズンだった。
■優勝:レスター(120点)
昨季の大半は最下位。選手の人件費は20チーム中18番目。開幕前の優勝オッズは「5001倍」。そもそもの目標は「残留」だった。そんな絵に描いたような弱小クラブが、マネーゲーム全盛のプレミアリーグで頂点に立ってしまったのだから、採点するなら「100点」では足りないだろう。
プレミア新記録の11戦連発を含む24ゴールを叩き出したジェイミー・ヴァーディと、17得点11アシストをマークしたリヤド・マフレズがチームの“飛車角”だった。ただ、決して彼らのツーマンチームだったわけではない。前線から守備のスイッチとなった岡崎慎司、リーグ最多タックル&インターセプトのエンゴロ・カンテに、ヴァーディとのホットラインが光ったダニエル・ドリンクウォーター、粘り強くボールを跳ね返し続けたウェズ・モーガン&ロベルト・フートのCBコンビ……ピッチに立つ全選手が持ち味を存分に発揮することで、チームに“奇跡のバランス”が育まれた。
選手が最も生きるカウンター戦術と、その最適解となるイレブンの並びを見つけ出したクラウディオ・ラニエリ監督の手腕も見事のひと言。選手のフィットネス維持に尽力したコーチングスタッフ、チームに合う個性を見極めて獲得してきたスカウト陣も含め、まさにチームを構成するすべての歯車が奇跡的に噛み合ったのが、今季のレスターだった。
■2位:アーセナル(50点)
今季のアーセナルの評価は、見る人や、見方によって大幅に変わるだろう。どんな形であれ、最終的に2004-05シーズン以来の2位に入ったことは評価できる。チェルシーやマンチェスター・U、リヴァプールなどがチャンピオンズリーグ出場権を逃すなか、19シーズン連続となるCL本戦出場を確定させたのは立派だ。しかし無冠に終わったのも事実である。リーグカップでは2部のクラブに完敗し、2連覇中のFAカップでもワトフォードに足元をすくわれた。リーグ戦については、例えどんなに頑張っても、今季はレスターの“奇跡のリーグ制覇”が運命付けられていたのかもしれない。だが、最大限に努力したと言えるか? 昨夏の移籍市場では、欧州5大リーグで、唯一フィールドプレーヤーの補強を怠ったのがアーセナルだった。
毎度のことだが怪我にも泣かされた。序盤戦から酷使し続けたアレクシス・サンチェスが11月末に負傷。さらにサンティ・カソルラもシーズンの半分以上を離脱。それでも首位で新年を迎えていたのだ。そしてバレンタインデーには、ダニー・ウェルベックの土壇場の逆転弾で首位のレスターを下し、12年ぶりのリーグ制覇を期待させた。しかし、そこから大失速で今季も監督交代待望論が囁かれることに。最後は帳尻合わせでスパーズの上に立ったが、「もし……」と言いたくなる悔しいシーズンだった。
■3位:トッテナム(75点)
優勝トロフィーはレスターに譲り、最終節のニューカッスル戦に敗れたことで2位の座も宿敵アーセナルに奪われた。若さゆえの脆さを露呈した形でシーズンを終えたが、彼らが未来を感じさせるチームであったのは間違いない。
リーグで最も若いメンバーで構成されたチームは、よく走り、よく繋ぎ、よく攻め、よく守った。得失点差「+34」はリーグトップ。プレミアNo.1を誇る攻守のバランスで、シーズン途中には14試合無敗というプレミアでのクラブレコードを樹立した。“2年目のジンクス”をものともせずに得点王に輝いたハリー・ケインを筆頭に、デレ・アリ、エリック・ダイアーら国産の若手がめきめきと頭角を現したことも、イングランドサッカー界にとっては嬉しい出来事だった。
もちろん、最大の功労者は就任2年目にして優勝を狙えるチームを作り上げたマウリシオ・ポチェッティーノ監督になるだろう。単に若手を伸ばすだけでなく、エリック・ラメラやウーゴ・ロリスのように移籍が囁かれた選手たちのやる気を刺激して、再びトップパフォーマンスを引き出した手腕も高く評価されて然るべきだ。5月には、2021年までの契約延長を発表。尊敬するサー・アレックス・ファーガソンのように長期政権を築き上げることは、決して夢物語ではない。
■4位:マンチェスター・C(50点)
リーグカップ制覇、そしてチャンピオンズリーグではクラブ史上初のベスト4進出。無冠に終わった昨シーズンと比較すれば、今シーズンは確かな結果を残した。しかし、プレミアリーグでは王座奪還が期待されながら、4位フィニッシュ。特に、8位以内のチームとの対戦では1勝(4分け9敗)しか挙げられず、勝負弱さばかりが目立った。主将のヴァンサン・コンパニを筆頭にケガ人が絶えず、かといってピッチ上で展開されるサッカーは、良く言えば「王道」、悪く言うなら「平凡」なものに終始。それ故、ファンやメディアからの評価は決して芳しいものではなかった。
昨夏の移籍市場では、ケヴィン・デ・ブライネの獲得に100億円以上、ラヒーム・スターリングの獲得に80億円以上を投じて、欧州サッカー界で最も多くの金額を使ったクラブに。そして冬の移籍市場では、期限最終日にジョゼップ・グアルディオラの来シーズンからの監督就任を発表し、話題を総なめにした。しかし皮肉にも、ピッチ外での派手な振る舞いがピッチ内での成果に物足りなさを感じさせることになった。
マヌエル・ペジェグリーニ政権3年間でクラブが得たモノは、決して少なくない。しかし、そのフィナーレはあまりにも寂しいものだった。
■5位:マンチェスター・U(40点)
「終わりよければすべて良し」という諺は、少なくとも今シーズンの彼らには当てはまらない。プレミアリーグ最終節では、不審物発見によるテロ騒ぎで、まさかの試合延期。またFAカップ決勝では、サー・アレックス・ファーガソンの監督退任以降で初の主要タイトルを獲得したにも関わらず、試合後の会見ではルイ・ファンハール監督の去就に関する質問が相次いだ。その2日後、噂どおりにオランダ人指揮官の退任が発表されたものの、本人はその事実を“弟子”のジョゼ・モウリーニョからの電話でまず知ったという。締りの悪さは、全20チーム中で間違いなくワーストだった。
シーズン49得点は、プレミア発足以降でのクラブ最低記録。“各駅停車”のパス回しにファンは苛立ちを募らせ、「アタック、アタック、アタック」というチャントを耳にすることはお馴染みの光景となった。ダビド・デ・ヘアの好守がなければ、さらに最悪のシーズンとなっていた可能性もある。
それでもチームには、アントニー・マルシャルやマーカス・ラッシュフォードら、ダイヤの原石が数多く転がっている。強烈なキャラクターが故に、途中からは“四面楚歌”の状態だったルイ・ファンハールだが、もしかすると数年後にはその功績を称えられる日も訪れるかもしれない。
■6位:サウサンプトン(90点)
例年通りビッグクラブの草刈り場となり、今季も開幕前にトビー・アルデルヴァイレルト、ナサニエル・クライン、モルガン・シュネデルランと主力をごっそり引き抜かれた。しかし、ロナルド・クーマン監督の采配力と抜け目ない補強で、昨季に続いてセインツは甦った。
序盤から中盤戦にかけてはやや不安定だったが、12月の“クーマン・マジック”が流れを変えた。不調だったグラツィアーノ・ペッレをベンチに下ろして最前線をシェーン・ロングにチェンジすると、そのロングが2発を叩き込んでボクシングデイにアーセナルを4-0で撃破。以降、ターゲットマンを置かず、走れるロングがサディオ・マネ、ドゥシャン・タディッチとうまく絡む流動的かつ効率的な攻撃がハマり、チームは一気に加速した。時を同じくして新戦力のフィルヒル・ファン・ダイクがフィットしてみるみる存在感を高め、長期離脱していた守護神フレイザー・フォースターも復活して守備も安定。結果、シーズン後半戦19試合で12勝3分け4敗とレスターに次ぐ好成績を収め、前年の7位をさらに上回るクラブ歴代最高の6位で充実のシーズンを締めくくった。
■7位:ウェストハム(95点)
優勝したレスターを除けば、最も充実したシーズンを送ったのが彼らかもしれない。成功のカギは開幕前の準備段階にあった。オリンピック・スタジアムへの移転を1年後に控え、絶対に降格の許されない状況で、ハマーズは残留請負人のサム・アラダイスに代えて、監督としてはプレミア初挑戦のスラヴェン・ビリッチを招聘。とても大胆な策だが、これが吉と出ることに。
ヨーロッパリーグ予備戦では主力を温存して敗退するも、その3日後のプレミア開幕戦でアーセナルに快勝。優先順位を明確にしたことで、過去最高のスタートを切り、開幕10試合を終えた時点で3位に。躍進の原動力となったのは、夏に加入したMFディミトリ・パイェだ。正確無比の右足で幾度となくチャンスを演出。最終的に9得点12アシストで、唯一ウェストハムからPFA年間ベストイレブン入り。実は、パイェが欠場したリーグ戦8試合では1勝しかできなかったのだ!
パイェ以外にも、2部から加入したマイケル・アントニオや、欧州初挑戦のマヌエル・ランシーニも大当たり。過去13年で最高成績となる7位でフィニッシュ。マンチェスター・UがFAカップを制してくれたおかげで、棚ボタ的にヨーロッパリーグ予備戦出場権まで獲得。胸を張って、112年過ごした本拠地アップトンパークに別れを告げることができた。
■8位:リヴァプール(50点)
ルイス・スアレスが退団して以降、長らく懸案事項だった攻撃の火力不足に対する答えを見つけ出せないまま、10月にブレンダン・ロジャーズが解任された。混迷を極めたクラブにやってきた救世主がユルゲン・クロップ。豪快かつエネルギッシュなカリスマ指揮官は、名門を取り巻いていた暗いムードと、行き詰まっていたチームのスタイルを一変させた。
クロップはすぐに「組織的ハイプレス」と「カウンタープレス」の哲学を選手に叩き込んだ。プレーの約束事も、トレーニング方法もガラリと変わったことでケガ人も増えたが、それでも新監督の熱にあてられた選手たちは意欲を持って新スタイルに取り組み、よく走り、戦える集団に変わっていった。まだまだ一貫性には乏しく、格下にあっさり敗れるケースも多いため順位こそ大きく改善はされなかったが、強敵を圧倒して完勝した10月のチェルシー戦、11月と3月のマンチェスター・C戦など、新生リヴァプールを象徴する好ゲームも見られた。タイトルには届かなかったが、リーグカップ、ヨーロッパリーグで2つのファイナルに進出したのも大きな成果。来季に向け、チームはたしかな手応えをつかんだと言えるだろう。
■9位:ストーク(60点)
3シーズン連続の9位は立派とも言える。しかし、ジェルダン・シャキリやイブラヒム・アフェライ、グレン・ジョンソンといった一線級を補強してクラブ史上最強のメンバーをそろえ、本気でヨーロッパを狙う気概を見せていたことを考えれば、月並みな出来だったと言わざるをえない。
躍進を妨げたのは、計14試合でわずか1勝しかできなかった最初と最後の7試合だろう。序盤はニューフェイスの適応に手間取り、終盤は大ブレークした守護神ジャック・バトランドの負傷離脱が響いての失点増がその原因だった。
とはいえ、“脱・空中戦”を掲げて3年目を戦ったマーク・ヒューズ監督のチーム作りが間違っているわけではない。マルコ・アルナウトヴィッチやボージャン・クルキッチが違いを生み出す攻撃陣は、ハマれば強豪をも圧倒するパフォーマンスを見せつけた。マンチェスターの両雄を立て続けに2-0でねじ伏せた12月の2試合がその好例だ。
プレミア初挑戦で戸惑いも見え、ケガもあったシャキリがより大舞台で力を発揮できるようになれば。そして主力をしっかり残留させることさえできれば……。来季は「永遠の9位」を抜けて、さらに上を目指せるはずだ。
■10位:チェルシー(20点)
今シーズンのプレミアリーグを史上最も予測できない1年にした張本人と言える。まさか、最終節で“新王者”をホームに迎え入れることになろうとは、一体誰が予想しただろうか。その点では、チェルシー・ファンを除く我々日本人は、彼らに感謝しなければならない。チェルシーの大スランプがなければ、岡崎慎司の活躍、そしてレスターの奇跡の優勝が実現することはなかったのだから。
とはいえ、今シーズンの総括でポジティブな要素を挙げる方が難しいのも、また事実だ。前年度覇者としては、プレミア史上ワーストの10位。シーズン途中からチームを託されたフース・ヒディンク監督も、ホームではわずか1勝(8分け1敗)に終わり、チームを蘇らせることはできなかった。
ただし、オランダ人指揮官は火中の栗を拾ったに過ぎない。またしても“3年目のジンクス”に嵌ったジョゼ・モウリーニョ、補強費の捻出を渋ったフロント、そして“王者”の称号にあぐらをかいた選手たち――。大スランプに陥った原因は、三者それぞれにある。
欧州カップ戦出場権すら逃したクラブはこの先、既存選手の引き留めと新戦力獲得という二重のタスクをこなさなければならない。この夏は例年以上に長いものになりそうだ。
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By Footmedia