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【プレミア開幕展望】リヴァプール クロップ体制の真価が問われるシーズン

2016.08.14

 シーズン途中からの就任だったにも関わらず、昨季終盤戦のリヴァプールは紛れもなくよく走り、よく戦う“ユルゲン・クロップのチーム”になっていた。強豪に完勝したかと思えば格下を崩しきれないこともあったし、前後半で正反対のパフォーマンスを見せて逆転負けを喫したセビージャとのヨーロッパリーグ決勝に象徴されるように、一貫性には欠けていた。それでも、ゲーゲンプレスとフォアチェック、タテに速いショートカウンターといったクロップ流のフルスロットル・フットボールの基礎はしっかり叩き込まれた。

 初めてのプレシーズンとなった今夏、クロップはまず、戦力の刷新を図る。FWサディオ・マネ(サウサンプトン)、MFジョルジニオ・ワイナルドゥム(ニューカッスル)の獲得に計5500万ポンド(約72億円)の大枚をはたいて中盤より前を強化し、守備陣には勝手知ったるブンデスリーガからDFジョエル・マティプ(シャルケ)、DFラグナル・クラヴァン、GKアレックス・マニンガー(ともにアウクスブルク)、ロリス・カリウス(マインツ)を獲得。一方でMFジョーダン・アイブやMFジョー・アレン、DFマルティン・シュクルテルらを売却し、FWクリスティアン・ベンテケやFWマリオ・バロテッリも8月末までに放出予定だ。

 その一方で、日々の3部練習と1カ月で9試合のテストマッチというハードな夏を過ごし、スタイルの完成度を高めるとともに新戦力は実戦を通じて素早くチームに馴染むことができた。インターナショナル・チャンピオンズカップではバルセロナに4-0で完勝するなど、コンディションを含めたチーム状態はプレミアのビッグクラブの中で最も仕上がっていると言っていい。

プレシーズンマッチではバルサに4-0で快勝するなどチーム力は確実にアップしている[写真]=Getty Images

プレシーズンマッチではバルサに4-0で快勝するなどチーム力は確実にアップしている[写真]=Getty Images

 それもすべて、序盤の厳しい対戦カードを見据えたもの。アンフィールドのメインスタンド改築工事の遅れから開幕3試合連続でアウェーゲームを戦い、しかもアーセナルとの開幕戦を皮切りに最初の5試合でトッテナム、レスター、チェルシーとも対戦しなければいけないのだ。ただ、逆にここでスタートダッシュを決めることができれば、欧州カップ戦がない今シーズンの絶対目標である「トップ4返り咲き」、そしてあわよくばその先の優勝争いも見えてくる。

 シーズンを通してカギとなりそうなのは、クロップのチームマネジメントだ。

「今いる選手の中で、私が不要だと思う選手はもういない。私が望まないような補強はひとつもなかったし、私が売りたくない選手を売ることもなかった」

 クロップはそう胸を張り、たしかに余剰気味だった人員はかなり整理されたが、とはいえ保有選手はまだ飽和気味だ。その中で、ドイツ人指揮官は選手個々の特徴を最大限に引き出し、それでいて自身の哲学を最大限に体現できる配置やメンバーを見出さなければならない。だが、現時点でそれにはいくつかのジレンマがある。

 たとえば前線では、FWダニエル・スタリッジというリーグ屈指の決定力を持つゴールマシーンを有するが、クロップ流のプレッシングゲームにより適しているのは、しばしば“偽9番”で起用されるMFロベルト・フィルミーノであり、それぞれ身体能力と献身性を生かしてチームの歯車になれるFWディヴォック・オリジやFWダニー・イングスだ。大黒柱である10番のMFフィリペ・コウチーニョ、プレシーズンから圧巻のスピードと飛び出しで猛威を振るうマネは“レギュラー当確”だが、その周囲をどう固めるかはまだ模索段階。テストマッチでは4-3-3でコウチーニョ、フィルミーノ、マネの前線トリオが最も収まりがよかったが、昨シーズンより試合数が大きく減る中で、我が強いスタリッジなどをベンチに座らせておくことがチームの一体感に悪影響を及ぼしやしないか、心配だ。

モチベーターとして知られるクロップのチームマネジメントがタイトル獲得のカギとなる[写真]=Getty Images

モチベーターとして知られるクロップのチームマネジメントがタイトル獲得のカギとなる[写真]=Getty Images

 同様のことは他のポジションにも言える。中盤では、ダイナミックな“ボックス・トゥ・ボックス”であるワイナルドゥムや、1月に契約してこの夏から合流したセルビア代表MFマルコ・グルイッチといった新顔が積極的にゴール前へと飛び出す姿勢を見せ、昨シーズンの課題だった決定力不足解消に寄与できる可能性を垣間見せている。

 ただし、彼らが活躍すれば主将のMFジョーダン・ヘンダーソンや副主将のMFジェームズ・ミルナー、スキルと走力を兼ね備えたMFアダム・ララーナらの出場機会は自ずと限られる。ドレッシングルームでの影響力が強く、ファンの人気も高い国産組がモチベーションを落とせば、チーム全体の士気にも関わってくる。名モチベーターとして知られるクロップといえど、バランスよく出場機会を与えながら健全な競争を保ち、それでいて結果を出し続けるのはなかなか骨が折れる仕事だろう。

 また、戦力バランスがあまりよくない守備にも懸念材料がある。今夏のチーム構成に「満足」と言うクロップだが、唯一いい補強ができていないのがサイドバックである。特に左は、攻撃は一級品だが守備が不安でコップの信頼を勝ち取れていないDFアルベルト・モレノの地位を脅かす選手がおらず、クロップは“便利屋”ミルナーをコンバートする苦肉の策を打とうとしている。右のDFナサニエル・クラインは盤石だが、そのバックアップも若手しかいない状況で層は薄い。

各ポジションに課題はあるものの、クロップ流のフルスロットル・フットボールの基礎は確実に浸透している[写真]=Getty Images

各ポジションに課題はあるものの、クロップ流のフルスロットル・フットボールの基礎は確実に浸透している[写真]=Getty Images

 センターバックも第一ペアがハッキリしない。新加入のマティプは、プレミアを戦う上で不可欠な“高さ”を担保した上で、パス出しやボールの持ち運びもなかなかでヒット補強になりそうだが、新しいリーグの水に慣れるまでは時間を要する。同じく新加入のクラヴァンも、中央と左をこなす融通性やブンデスリーガでの経験値は魅力だが、名門の守備の柱になれる器かと言われれば微妙なところ。既存戦力のDFデヤン・ロヴレンとDFママドゥ・サコに頼りたいところだが、ドーピング疑惑が晴れて心機一転、のはずだったサコはキャンプで遅刻を繰り返してクロップに“強制送還”を命じられる大失態で信用を失いつつある。さらにGKシモン・ミニョレのチャレンジャーとなるはずだったGKロリス・カリウスが手を骨折して開幕前に長期離脱を強いられたのも痛い。GKを含めた守備陣の安定も、クロップにとってはシーズン序盤で必ず答えを出さなければいけない宿題である。

 わずか半年強の仕事ぶりで早くもクラブから契約更改のオファーをもらうなど、クラブはクロップを信頼している。とはいえ、悩める名門にこれ以上の後退を受け入れる余裕はなく、エクスキューズが多かった1年目とはガラリと変わって、2年目は厳しい目で見られる。パフォーマンス内容のさらなる向上はもちろん、最低でもチャンピオンズリーグ出場権獲得か、ブレンダン・ロジャーズ前監督が達成できなかったカップタイトル獲得が最低ノルマ。クロップ体制の真価が問われるシーズンだ。

(記事/Footmedia

By Footmedia

「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まったグループ。

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