不祥事の発覚により、就任からわずか1試合の指揮でイングランド代表監督を解任されたアラダイス氏 [写真]=Getty Images
『不祥事を起こし、1試合で電撃解任』
イングランドサッカー界に衝撃が走った。世界一の軍資金を誇るイングランドサッカー協会(FA)が、同国代表で指揮を執っていたサム・アラダイス監督を解任した。試合数はもちろんのこと、監督に就任してから67日間での解任劇も史上最短となった
6月に行われたユーロ2016でベスト16で敗退し、7月からロイ・ホジソン前監督に代わってイングランド代表監督に就任したアラダイス氏。就任当初には「念願だったイングランド代表監督に就任したので、うれしさで笑いが止まらない」と話していたが、イギリス紙『テレグラフ』による“おとり調査”に引っかかり、あっさりと退任の道を歩んだ。
おとり調査の内容はこうだった。
8月初旬、アラダイス氏がロンドンとマンチェスターにて、イングランドの選手獲得に乗り出す東アジアの投資企業関係者に扮したおとり調査の取材で、40万ポンド(約5200万円)と引き換えに不正ルートでの選手移籍を助言。さらに同取材でアラダイス氏はホジソン前監督や一軍コーチのガリー・ネビル氏を批判したほか、FAが総工費8億7000万ポンド(約1144億円)で建て替えたウェンブリー・スタジアムについても非難した。この映像が26日にテレグラフによって報じられ、FAが翌日緊急会合を開き、アラダイス氏の解任に踏み切った。
この解任劇についてイギリスメディア『BBC』の解説者で元イングランド代表FWのアラン・シアラー氏は、「イングランドはサッカー界の笑いの種」と評し、次のように話している。
「腹立たしく、悲しく、そして愕然としている。『代表監督になるのが夢だった』と語った男のお粗末な判断が大失敗を招いた。ユーロでの失敗を下回ることはないと思っていたが、世界の嘲笑の的になってしまった」
さらに、同『BTスポーツ』の解説者で元イングランド代表DFのリオ・ファーディナンド氏は、「イングランド代表監督という役職は笑いを誘うものになっている。その役職を勝ち取ろうと情熱を燃やしていた男がイングランドサッカー界に失望をもたらした」と非難した。
一方、FA前会長のグレッグ・ダイク氏は、「年俸300万ポンド(約4億円)という契約を手にした男が40万ポンド(約5200万円)の欲に溺れた。FAの下した決断は当然の結果だ」と痛烈に批判している。
かくして、U-21(21歳以下)イングランド代表のガレス・サウスゲート監督が暫定的にA代表に就任することとなったが、7月のアラダイス氏の就任前に候補者として挙がっていたクリスタルパレスのアラン・パーデュー監督、ボーンマスのエディー・ハウ監督、今夏ハル・シティを退任したスティーヴ・ブルース氏らが有力候補として再浮上。その一方で毎度のように候補者として噂されるアーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督やアメリカ代表のユルゲン・クリンスマンなどの外国人監督も話題として挙がっている。
イングランドは今後、2018 FIFAワールドカップロシア 欧州予選を控えており、10月8日にホームでマルタ代表、同11日には敵地でスロヴェニア代表と対戦する。同予選グループはこのほか、スコットランド代表、スロヴァキア代表、リトアニア代表と、イングランドにとっては比較的楽な対戦相手で構成されているが、今回の史上最低と称される状況に、多くの批評家は「難しい戦いを強いられることになる」と口を揃える。
イングランド代表には、16カ月間という史上最短就任期間を保持していたスティーヴ・マクラーレン監督が2007年に招いたユーロ予選敗退という屈辱的過去があり、それに現状を照らし合わせながら自国に重圧をかけるメディアも少なくない。ゴシップ好きのサッカー大国イングランドでは、自虐的な報道ばかりが目立ち、それが主要国際大会で勝てない原因とも言われているが、地元ファンは負の連鎖が起こらないことを願うばかりだ。
文=藤井重隆