バーンリーを破り、103年ぶりの快挙を達成したリンカーン [写真]=Getty Images
「リンカーンが歴史を作った」
イギリス中のテレビやラジオの実況アナウンサーが口を揃えて発した言葉だった。
136年目を迎えた世界最古のFAカップで、アマチュアクラブが103年ぶりに8強へ進出するという奇跡が起こった。アマチュアリーグの頂点、5部リーグで首位を走るリンカーンは来シーズンのプロ昇格有力候補だが、16強で対峙した相手は順位にして81位差も離れた格上、プレミアリーグのバーンリーだった。しかも集客数21000人のスタジアムを持つ敵地に乗り込んでの対戦。勝算は薄いとの見方が強かった。
ボール支配率ではバーンリー60パーセント、リンカーン40パーセントとやや拮抗したものの、シュート数では17対5と大きく下回り、リンカーンは試合を通して防戦を強いられた。だが、ゴール前での堅守が試合終了間際の89分に実を結んだ。それまで放った4本のシュートはすべて枠内を捉えることができなかったリンカーンだが、右CKからファーサイドへボールを供給すると、そこからファーポストへのヘディングの折り返しをDFショーン・ラゲットが頭で決めた。そのシュートはゴールラインを20センチほど割ったところで相手GKにかき出され、正面からの映像ではゴールと判断しがたいものだったが、ゴールライン・テクノロジーの判定にも助けられた。
リンカーンのダニー・カウリー監督は試合後、2013-14シーズンから国内ではプレミアリーグのスタジアムでしか使用されていないゴールライン・テクノロジーについて、「テクノロジーのおかげだった。5部リーグにはないシステムだから、うちのリーグであのゴールが認められたかどうかは分からない」と、満面の笑みを浮かべるとともに、次のように試合を振り返った。
「まさにアマチュアチームが8強入りするという奇跡が起こった。選手たちはプレミアリーグのチームを相手に最高のプレーを見せた。我々は常に現実的にプレーしている。できないことは決して選手たちには求めないが、戦術通りに進めれば互角に戦えると思った。おそらく、相手の若い守備陣はロングボールからの肉弾戦に慣れていなかったのかもしれない」
この歴史的番狂わせのニュースは欧州中で話題となり、イタリア紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は、「今週の欧州ベストイレブン」にて、バーンリーを無失点に抑えて決勝ゴールを決めたラゲットに対し、アトレティコ・マドリードのフランス代表FWケヴィン・ガメイロ(9点)に次ぐ2位タイとなる8.5点の高得点を付けた。
そんな時の人となっているラゲットは、奇跡の勝利を独特なユーモアとともに次のように振り返っている。
「言葉にできないほど狂気に満ちた瞬間だった。まだ信じられない。僕のゴールセレブレーションを見たら分かるけど、どう喜んでいいか分からなかったんだ。バーンリーはトップレベルのチームだし、先週はプレミアリーグで現在首位のチェルシーと引き分けたばかりだったから、そんな相手を無失点に抑え、倒せたことは本当に驚きだ。僕らは試合を楽しみに来たんじゃなく、本気で勝ちに来たし、実力を示せた。現代サッカー界でアマチュアチームがFAカップで8強入り? 狂気の沙汰だよ」
リンカーンの次なるカードは、敵地でのアーセナル戦に決まった。相手は順位にして88位差。アーセナルは16強でリンカーンと同じ5部のサットン・ユナイテッドに敵地で2-0と勝利したものの、アーセン・ヴェンゲル監督は試合後に「万全な状態でなければ負けていたかもしれない」と、手を焼いたことを認めたほどだ。
アーセナルは今シーズン、すでに無冠がチラつき、ヴェンゲル監督の退任報道も過熱している。それだけに、リンカーンが再び奇跡を起こせば、プレミアリーグの名将の首を取るほどの衝撃を与えることは間違いなさそうだ。
文=藤井重隆