ファンの間ではヴェンゲル監督の退任を望む声が強まっている [写真]=Getty Images
アーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督が、キャリア史上最大級の重圧にさらされている。
3月18日に行われたプレミアリーグのウェスト・ブロムウィッチ戦を1-3で落とすと、過去リーグ5試合の戦績が1勝4敗となり、順位も暫定6位に転落。いよいよ後がなくなった。
連日のようにチーム内の不協和音を報じる地元メディアや、それに反応して監督解任をSNS上で後押しするファンなど、プレミアリーグ現役最年長監督への糾弾は留まるところを知らない。しかし一方で、クラブOBからは同情の声も上がり始めている。
アーセナルOBでイギリスメディア『スカイスポーツ』の批評家、元イングランド代表MFポール・マーソン氏は、あと1年は留任するとした上で、同クラブの英雄が後任監督に就任することを予想している。
「私の予想では、彼が契約を1年延長し、諦めずに大きな栄冠を狙いに行くと思う。そのあとは、パトリック・ヴィエラが引き継ぐのではないか。ヴィエラはニューヨーク・シティFCで監督としてのキャリアをスタートしており、マンチェスター・Cの2軍でも監督を務めた経験がある。彼は勝者のメンタリティの持ち主であり、失敗を嫌う人間だ。彼はアーセナルの英雄であり、彼が栄光をもたらした当時のチームのようなスタイルをクラブにもたらすと思うし、それこそが今のアーセナルが必要としていることだ。監督交代は数年以内に起こると思うが、ファンも喜ぶものになるはずだ。」
一方、ヴィエラ氏とともにアーセナルで2003-04シーズンにリーグ無敗優勝を達成した元ブラジル代表MFジウベルト・シウバ氏(現パナシナイコス強化部長)も恩師ヴェンゲル監督に同情の声を寄せる。
「過去数カ月間の彼に対する重圧は、今まで見たことがない史上最大級のものになっている。多くの人が彼に批判の声を向けているのを見るのは私もつらい。ファンの欲求不満は理解できるが、それは監督だけのせいではない。チームに関わる一人一人が責任を負うべきだし、選手たち自身が監督やクラブのために立ち上がらなくてはならない」
「正直、彼の進退については分からないが、感情的に判断する監督ではないし、熟考したうえで幹部の人間と話し合って決断すると思う。もし本当に去るなら、周囲の重圧に押し出されるのではなく、もっといい状況で退任してほしい。私は彼が少なくとも1年は留まると思っている」
さらに同氏はリーグ無敗優勝を達成した当時のチームと今のチームを比較し、次のように語っている。
「2つの世代を比較するのは非常に難しいことだが、当時の我々は常に最大限の力を発揮していた。ティエリ・アンリ、パトリック・ヴィエラ、アシュリー・コール、ソル・キャンベルなど、各選手がそれぞれのポジションで確固たる地位を築いていた。それはピッチ上だけでなく、練習場やミーティングの場でもそうだった。試合中、試合後、練習場でも、勝利のために我々は厳しい言葉をかけ合っていた。」
「我々は監督のやり方に敬意を払い、常に勝利への欲をもってプレーしていた。練習場でも常に勝気だったし、みんな毎試合に勝つ気持ちで臨んでいた。相手が戦術的に来ようが、フィジカル的に来ようが、常に準備ができていた。あのチームにしかない特別なものが備わっていたよ」
「今のチームにも質は備わっているから、あとは勝利に対する欲、責任感を向上させることで状況は好転すると思う。それができるかどうかは選手たち次第だ」
ウェスト・ブロムウィッチ戦直後、ヴェンゲル監督は自身の去就について「近日中に発表する」としたが、2日にホームで行われる次節は3位の強敵マンチェスター・Cとの大一番。勝てば5位に浮上する一方、負ければ7位転落のおそれがあるだけに、同監督の運命を左右する重要な分岐点となりそうだ。
文=藤井重隆