アーセナルとの契約を2年間延長したヴェンゲル監督 [写真]=The FA via Getty Images
「前人未踏の快挙を達成したことを誇りに思う。特に無敗でのリーグ優勝(2004年)と7度のFAカップ優勝は簡単なことではない。これは信じてもらっていい」
チェルシーを2-1で下し、『FAカップ最多優勝監督』の称号を手に入れたアーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督は、チームとしても通算13度目の同杯優勝を遂げ、単独最多優勝チームに躍り出た。
現在67歳のヴェンゲル監督は1996年10月の就任以来、21年間でリーグ優勝3度、FAカップ優勝7度、コミュニティシールド6度、チャンピオンズリーグ(CL)準優勝1度、UEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)準優勝1度、20シーズン連続CL出場権獲得と、世界屈指のリーグでライバルチームの金満体質化が進む中、及第点の結果を出し続けてきた。今シーズンの勝率を見ても公式戦55試合で63.6パーセントと、同59試合で62.7パーセントだったヴェンゲル監督の強調した『無敗優勝』の時の数字を上回った。
だが今シーズン、ヴェンゲル監督は初めてリーグ5位という成績に終わり来シーズンのCL出場権を逃すと、地元の宿敵トッテナムにも22年ぶりに優位に立たれ、解任論もピークに達した。自身の首もかかる背水の陣で臨んだFAカップ決勝戦だった。
「このチームは困難な状況に苦しみ、団結し、対応してきた。FAカップ決勝でこのチームの真価を見せることができた。我々は2選手ほどの一流選手を補強すれば、リーグ優勝できるチームになる」
そう今シーズンを振り返ったヴェンゲル監督は、この3日後、クラブとの契約を2年延長することで合意した。同監督は元マンチェスター・U監督のアレックス・ファーガソン氏が持つイングランド国内最多記録の810試合まで、あと20試合と迫っており、同氏が持つプレミアリーグ最長在任記録にもあと2年と近づいている。
契約延長を受けてメディアやファンの間でも賛否が分かれた。
元アーセナルOBで『無敗優勝』時のメンバーでもあった元イングランド代表DFマーティン・キーオン氏が、「アーセンはファイターだ。彼は人が想像する以上に負けず嫌いで積極的な人間だ。彼は素晴らしい選手を引き抜き、育てる能力に長けている」と、擁護すれば、同じく『無敗優勝』時の元ドイツ代表GKイェンス・レーマン氏も「アーセンを知る人間は、彼が批判を受ける時こそ持ち前の知性と創造力で状況をひっくり返すことを知っている」と、ヴェンゲル監督続投を支持する。
一方、イギリスメディア『BBC』の解説者で元イングランド代表FWアラン・シアラー氏が「彼はあと2選手の補強でリーグ優勝を狙えると言っているが、それだけでは足りない」と、楽観的な指揮官の言葉に釘を刺せば、同じく『BBC』で司会者を務める元イングランド代表FWガリー・リネカー氏も「アーセナルの前途は多難だ。来シーズン、リーグで4位以内を狙えるかも微妙だ。ヴェンゲルが思っている以上に、他のライバルチームに劣った部分がある」と辛らつな言葉をかぶせた。
「我々はこの夏から、来シーズンのリーグ戦に集中するためのチーム作りをする」
そう前を向くヴェンゲル監督は、早速シャルケ(ドイツ)からボスニア・ヘルツェゴヴィナ代表DFセアド・コラシナツを獲得し、レスターのアルジェリア代表MFリヤド・マフレズへの興味も示した。
果たしてヴェンゲル監督の述べた「2人の一流選手」が彼らのことを指すかどうかは定かではないが、7月1日の移籍市場解禁を待たずしてアーセナルの代表取締役イヴァン・ガジディス氏とともに現地へ赴き獲得交渉に精を出している当たり、今回は本気かもしれない。
文=藤井重隆