今週末はロンドンでマンチェスターの両雄が“青と赤”に分裂する。それでは6月3日に行われるFAカップ決勝をプレビューしよう。
今シーズンのイングランド・フットボール界を締め括るFAカップの決勝戦は、マンチェスターの両雄によるダービーとなった。142年前に初めて剣を交えた両チームがカップ戦の決勝戦で対戦するのは初めてのこと。当然、152年の歴史を誇る世界最古のカップ戦において、史上初の「マンチェスター・ダービー」によるファイナルとなる。
[写真]=Getty Images
■2冠か、それとも3冠へ前進か
今季のマンチェスター・Cが目指すのはFAカップのタイトルだけではない。彼らはアーセナルとの優勝争いを制してクラブ史上初のプレミアリーグ3連覇を果たしたほか、来週末にはインテルとのチャンピオンズリーグ(CL)決勝も控えており、あと2勝で驚異の“トレブル”を達成できるのだ。2018-19シーズンにマンチェスター・Cは史上初の国内3冠(プレミアリーグ、FAカップ、リーグカップ)という快挙を成し遂げたが、今回はCLを含めたトレブルである。
現在マンチェスター・Cを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督は、バルセロナ時代の2008-09シーズンに3冠(ラ・リーガ、CL、コパ・デル・レイ)を達成しているが、マンチェスター・Cにとって“トレブル”はクラブ史上初の快挙となる。イングランド・フットボール界で見ても、過去にCLを含めた3冠を達成しているのは1チームだけ。それが1998-99シーズンのマンチェスター・Uである。
そのマンチェスター・Uも、FAカップ決勝戦には“ダブル”がかかっている。彼らは今季カラバオ・カップ(リーグカップ)の決勝戦でニューカッスルを退けて頂点に立った。国内カップ戦2冠を懸けて、再びウェンブリーのピッチで栄冠を目指す。なお、過去にマンチェスター・Uは“トレブル”の経験もあるが、リーグカップとFAカップの同時制覇は145年のクラブ史において初めての快挙だ。
■下馬評
当然かもしれないが、下馬評は3冠を目指すマンチェスター・Cが圧倒的に有利だ。データ会社『Opta』のスーパーコンピューターの計算によると、90分以内にマンチェスター・Cが勝利する確率は「63.4%」。一方でマンチェスター・Uが勝つ確率はわずかに「16.5%」。残り「20.1%」の確率で試合は延長戦にもつれるという。当たり前ではあるが、延長戦を含めた120分間でも決着がつかない場合はPK戦で勝敗を決する。
優勝オッズを確認しても、マンチェスター・Uの方が優勢と見ている主要ブックメーカーは1つもない。マンチェスター・Cの優勝オッズが1.23~1.30倍に留まっているのに対し、マンチェスター・Uが勝つオッズは2.5~3.5倍となっている。
マンチェスター・UのOBである“闘将”ロイ・キーン氏もYouTubeの試合プレビューでは「マンチェスター・Uが心配だ」といつになく弱気な姿勢を見せた。「マンチェスター・Cの勢いと選手の質を考えるとね…。しかし、今のマンチェスター・Uにはブルーノ・フェルナンデスやマーカス・ラッシュフォードのような、マンチェスター・Cにダメージを与えられる選手がいる。今季のオールド・トラフォードでの対戦のようにマンチェスター・Cが油断すれば、マンチェスター・Uにも少しはチャンスがあるはずだ」
同じくマンチェスター・UのOBであるギャリー・ネヴィル氏も同番組内で「(会場の)ウェンブリーは、良いパフォーマンスを発揮するのが難しい時があるんだ。マンチェスター・Cが200万本もパスをつなぐかもしれないが、気温の高い日のウェンブリーはベストなパフォーマンスを発揮するのが難しい。そうなることを願う」と語り、カゼミーロとフレッジと並べて中盤を厚くすべきだと古巣に助言している。
■対戦成績
今季のプレミアリーグでの対戦は1勝1敗。互いにホームゲームを物にした。昨シーズンはマンチェスター・Cがマンチェスター・Uに対して“ダブル”を達成しており、やはり近年の対戦は実力で勝るシティが圧倒している…と思いがちだが、実はそうでもない。
2016年夏にグアルディオラ監督がマンチェスター・Cの指揮官に就任して以降、確かにマンチェスター・Cはマンチェスター・ダービーで勝ち越しているが、それほど差はついていない。2016-17シーズンからの18回の対戦で、マンチェスター・Cから見た成績は「9勝2分7敗」。わずかに2勝しか差がついていないのだ。これは、同期間の両チームの実績を考えると不可思議だ。
今シーズンを含め、マンチェスター・Cはグアルディオラ監督就任以降の7シーズンでプレミアリーグ優勝が5回。一方でマンチェスター・Uは2位が2回あるだけで、一度もマンチェスター・Cより上の順位でフィニッシュしたことがない。それどころか直近7シーズンの合計勝ち点を見ると、マンチェスター・Uの「489ポイント」に対してマンチェスター・Cは「625ポイント」。実に7シーズンで「136ポイント」も差が生まれたのだが、直接対決になるとわずか「2勝」しか差が開いておらず、やはりダービーは何が起こるか分からないのだろう。
■聖地「ウェンブリー・スタジアム」
舞台はマンチェスター・ピカデリー駅から250km離れたフットボールの聖地「ウェンブリー・スタジアム」だ。両者がロンドンの聖地で対戦するのは3度目のこと。過去2戦はどちらも2011年の試合で結果は1勝1敗だった。
2010-11シーズンのFAカップ準決勝で対戦した際には、ポール・スコールズの退場もあり、マンチェスター・Cがヤヤ・トゥーレのゴールで1-0の勝利を収めた。翌2011-12シーズンの8月には、リーグ覇者であるマンチェスター・UとFAカップ覇者のマンチェスター・Cがコミュニティ・シールドで対戦。壮絶な撃ち合いとなった一戦は、94分にナニが決勝ゴールを決めて3-2でタイムアップ。マンチェスター・Uに軍配が上がった。
■FAカップ決勝
4シーズンぶりのFAカップ制覇を目指すマンチェスター・Cは、これが12度目となるFAカップ決勝戦の舞台だ。これまで決勝戦での戦績は6勝5敗で勝率「55%」。前回の決勝戦である2018-2019シーズンはワトフォードに6-0で快勝したが、その前の2012-2013シーズンは格下のウィガンに足元をすくわれ、“番狂わせ”の餌食になった。
対するマンチェスター・UのFAカップでの成績は圧巻だ。21回目の決勝戦進出はアーセナルと並び歴代最多。優勝回数はアーセナルの最多記録(14回)に次ぐ12回となっている。前回決勝に進出した2017-2018シーズンはエデン・アザールにPKを決められてチェルシーに屈したが、2016年には延長戦までもつれたクリスタル・パレスとの決戦を制している。決勝での戦績は12勝8敗で勝率は「60%」。ただし、決勝で8敗は歴代最多タイのため、この試合に敗れると単独での最多記録となってしまう。
注目すべきはグアルディオラ監督の「国内カップ戦」での成績だろう。バルセロナ時代を含め、国内カップ戦のファイナルでは異様なほどの勝負強さを発揮しているのだ。コパ・デル・レイ(スペイン)、DFBポカール(ドイツ)、リーグカップ(イングランド)、そしてFAカップ(イングランド)と4つの大会で、これまで10回もファイナルに進出し、決勝戦での戦績は「9勝1敗」。バルセロナ時代の2010-11シーズンに、コパ・デル・レイ決勝戦でジョゼ・モウリーニョ監督率いるレアル・マドリードに延長戦の末に敗れたことがあるだけで、他は全て勝っているのだ。
マンチェスター・Cに来てからも、2020-2021シーズンのCL決勝戦ではチェルシーに敗れて苦汁をなめたが、国内カップ戦ではリーグカップで4回、FAカップで1回ファイナルを制している。
一発勝負は何が起こるか分からないものだが、それさえも圧倒的な支配力で制してしまうのがグアルディオラ監督のサッカーなのかもしれない。
(記事/Footmedia)
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By Footmedia