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現状維持=後退…変化を恐れぬ指揮官ペップ、“トレブル達成”のシティで打つ次なる一手とは

2023.07.14

[写真]=Getty Images

 当代随一の名将と言っても異論はあるまい。何しろ、昨シーズンは世界最高峰のイングランド・プレミアリーグで3連覇を達成。さらにはFAカップ優勝に加え、マンチェスター・シティの宿願でもあった初のUEFAチャンピオンズリーグ制覇へと導いた。

 もっとも、このスペイン人監督の一大特徴はトレブル(三冠)に代表される華やかなタイトルコレクションではない。絶えずフットボールの大地を開拓し続けるイノベーターとしての顔にある。大きな戦果の上にあぐらをかかず、常に改善の一手を探り続ける。生き馬の目を抜く苛烈な競争市場において、現状維持は後退とイコールだと知っているからだ。そうした姿勢は成功者がとかく陥りやすい慢心やマンネリの罠をやすやすと回避し、勝ち続ける集団を生み出すための源となっている。

 当代の常識を次々と塗り替え、時代を先取りする精神は師匠譲り。故ヨハン・クライフから受け継いだものだ。現役時代、このオランダ人に率いられたバルセロナで功成り名を遂げ、やがて指導者に転じると、師の教え(思想や哲学)を太い幹にして名将への階段を駆け上がった。事実、ペップはクライフを盛期ルネサンスの三代巨匠の1人になぞらえ、自らの立場をこう位置づけている。

「ラファエロの作品が数多くの弟子たちの手によって完成したように、クライフの仕事を私たちが受け継いでいる」

 もっとも、ペップの影響力の大きさは師匠のそれをはるかにしのぐものだ。世界中の至るところで、続々と追随する者たちが現れるフットボール界きってのインフルエンサーでもあるのだ。その哲学は言うに及ばず、それをピッチ上で鮮やかに具現化する革新的な戦術への興味や関心は、いささかも衰える気配がない。ポジションとポゼッションに基づくクライフの流儀をアレンジした《ポジショナルプレー》という概念はペップを介して、いまや全世界へと広まった。トップチームの指揮官として最初に手掛け、空前の成功を収めた最強バルセロナ(2008-2012)は、そのロールモデルと言ってもいい。これに付随して『偽9番』や『偽ウイング』などの一策を試み、対戦相手を煙に巻いたのは、このバルサ時代である。また、古巣の監督を退任し、新たに指揮を執ったドイツ随一の名門バイエルン(2013-2016)では、新手の『偽サイドバック』を実装。さらには攻撃時のポジショニングと密接なつながりを持つハーフスペースを含めた『5レーン理論』がにわかに広がるのもこの頃だ。

 こうした《ペップ流》の広がりはクラブレベルに留まらなかった。その強い影響下にあったスペイン代表(2010年南アフリカ大会)とドイツ代表(2014年ブラジル大会)が、それぞれワールドカップを制している。いわゆる『ペップ・エフェクト(効果)』と呼ばれる現象だ。スペインにしてもドイツにしても、チームの主軸を担っていたのはバルサやバイエルンでペップの薫陶を受けた選手たちだった。

 そして、2016年の夏から今日まで長期政権を築くマンチェスター・シティでも、トレンドセットの第一人者として新たなアイディアを次々と打ち出していく。その一つがライン裏に狙いを定めた攻撃の手筋。『ポケット』と呼ばれるハーフスペースの先端へ人を送り込み、そこからの鋭いロークロスでフィニッシュに持ち込む方法である。聡明なる指揮官は、このポケットを守備側の泣き所と見抜いたわけだ。こうして次々と新作を送り出し、就任1年目からの6シーズンで計4度のリーグ制覇へと導いている。だが、不思議なことにビッグイヤーとは縁がなかった。当初はベスト8の壁すら破れず、初めて勝ち上がった2020-2021シーズンの決勝では、同じイングランドのチェルシーの軍門に下っている。

 ようやく負の歴史にピリオドを打ったのが、昨シーズンだったわけだ。ビッグイヤーをたぐり寄せる引き金はいくつかある。マンツーマンのハイプレスを回避する手立ての一つとなったターゲットマン(=アーリング・ハーランド)の活用、ディフェンス陣をより強固なものとする『4センターバック』の導入、攻撃に転じるや最後尾から離れ、中盤の一角として立ち回る『偽センターバック』(=ジョン・ストーンズ)の採用などがそうだ。これらの策から読み取れる企図は攻守のバランスを念頭に置いたリスクヘッジだろう。徹底攻撃を信条とするペップにしては珍しく、冒険心よりもむしろ、手堅さが際立った。その見返りが宿願のCL制覇を含むトレブルだったのだから、英断と言っていい。

 マンCの指揮官に就任して以来、最大の戦果を収め、来たる新シーズンに挑むことになる。ゲームキャプテンを担ったMFイルカイ・ギュンドアンの移籍に伴うMFの再編をはじめ、新たに取り組むべき要素はいくつもある。もっとも、変化を恐れぬペップにとっては望むところだろう。果たして、どんな新手を編み出し、常勝軍をアップデートさせるか。いま、この瞬間にも無数のアイディアが彼の脳内を駆けめぐっているかもしれない。

文=北條聡

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