プレミアリーグ第9節でチェルシーとアーセナルが対戦した [写真]=Getty Images
今月21日に行われたプレミアリーグ第9節のチェルシーとアーセナルによる注目のビッグロンドン・ダービーは2-2のドローに終わった。それでは「師弟対決」、「同胞対決」といった意地のぶつかり合いが見られた大一番を振り返ろう。
[写真]=Getty Images
■チェルシーが勝つべき試合
アーセナルのミケル・アルテタ監督が勝てなかった試合の後に「複雑な気分だ」とコメントしたのだから、この試合はチェルシーが勝つべきだったのだろう。試合は、ホームのチェルシーが前半15分にMFコール・パルマーがPKを仕留めて先制すると、後半立ち上がりにはFWミハイロ・ムドリクのクロスがゴールに吸い込まれて追加点。このままチェルシーが快勝するかに思われたが、1つのミスがターニングポイントとなる。77分にチェルシーのGKロベルト・サンチェスがクリアミスをすると、これをMFデクラン・ライスがノートラップでゴールに蹴り込んで1点差。勢いづいたアーセナルは84分にFWブカヨ・サカのクロスをFWレアンドロ・トロサールが合わせて追いつき、2-2のドローに終わった。
とりわけ試合前半のアーセナルは何もできず、シュート数は2本だけ。『Opta』にとると、前半のゴール期待値「0.12」というのは、アルテタ体制になってからのリーグ戦143試合で最低の数値だったという。後半に少し盛り返したとはいえ、最終的にゴール期待値は「1.35対0.99」でチェルシーに軍配が上がり、マウリシオ・ポチェッティーノ監督も「勝ち点2を取りこぼして悔しい」と振り返った。
■家族対決
この試合の最大の見どころは、チェルシーのポチェッティーノ監督とアーセナルのアルテタ監督による“師弟対決”…いや、本人たちの発言を踏まえると“家族対決”だった。まだ互いに現役選手だった頃、二人はパリ・サンジェルマン(PSG)でチームメイトとしてプレーした。2001年1月、ちょうど同じ時期にポチェッティーノはエスパニョールから、アルテタはバルセロナからPSGに加入して友情を育んだのである。加入当初は共に3カ月ほどホテル生活を送り、その後も10歳年上のポチェッティーノが当時18歳だったアルテタにプロ選手の“いろは”を指導した。その関係性について、アルテタは「父親」や「兄」のようだったと振り返り、ポチェッティーノもアルテタを「家族の一員」として可愛がった。
そしてアルテタは引退後に「兄」を追うように指導者の道へ進み、今回初めて監督同士として対戦したのだが、ポチェッティーノは「初対戦」だと思っていなかった。この試合に向けた会見で「マンチェスター・シティ時代のアルテタは、ペップ(ジョゼップ・グアルディオラ)と一緒に監督のようだった」とアルテタがマンチェスター・シティでアシスタントを務めていた頃から監督としてのオーラを漂わせていたことを示唆。そして「彼は家族の一員なので不思議な感覚」と万感の思いで大一番を迎えた。
■同胞対決
「家族」とまではいかないが、ピッチ上では至る所で同胞対決が見られた。両チームともゴールマウスを守るのはスペイン人。さらに39歳となったチェルシーのブラジル代表DFチアゴ・シウヴァが同胞のFWガブリエウ・ジェズスと衝突すれば、パルマー、コナー・ギャラガー、レヴィ・コルウィル、そしてブカヨ・サカやライスといったイングランドの若い才能が存在感を示した。
そんな中で、注目はチェルシーのムドリクとアーセナルのオレクサンドル・ジンチェンコによる“ウクライナ対決”だった。今月の代表戦ではチームメイトしてEURO予選を戦った2人が、その4日後に敵同士として対戦したのである。やはり互いを意識していたようで、今月17日のEURO予選でムドリクがハーフウェイラインから一人で持ち込んで見事なゴールを決めると、試合後にジンチェンコは「同じことを土曜日の試合でもやろうとしたら、金玉を引っこ抜くぞ!」と冗談で警告した。
その発言についてチェルシーのポチェッティーノ監督は「それは無理だね。ムドリクの方が強いからね!」と笑っていたが、ムドリクも全く気にしていなかったようで、前半に相手のハンドを誘発してPKを獲得すると、後半にはスタンフォードブリッジでの自身初ゴールを決めて2点に絡む活躍を見せた。一方、ジンチェンコは右ウィングのラヒーム・スターリングに手を焼き、ハーフタイムに日本代表DF冨安健洋と交代させられてしまった。選手採点を付けたロンドン紙『Evening Standard』もムドリクには両チーム合わせて最高タイの「8点」を与えたが、ジンチェンコには「5点」という厳しい評価を下した。
ちなみに、ムドリクは今年1月にシャフタールからチェルシーに加入したが、その前にアーセナルが獲得に動いていたのは周知の事実。ムドリク本人もSNSでアーセナル移籍を匂わせており、相思相愛と見られていたがチェルシーが横取りした。そんな因縁のあるアーセナルとの試合で、ホームでの初ゴールを決めたのだ。エクアドル代表MFモイセス・カイセドだって過去にアーセナル移籍が噂された選手である。
一方、アーセナルはムドリクを逃した代わりに獲得したトロサールが値千金の同点弾を決めたことになる。それからアーセナルの1点目を決めたのは14歳で放出されるまでチェルシー下部組織に所属していたMFライスだし、FWエディ・エンケティアも同じくチェルシーのアカデミーに在籍経験がある。MFジョルジーニョ、MFカイ・ハフェルツにとってもチェルシー戦は古巣対決だった。見ていて困惑するくらい、両チームにゆかりのあるプレーヤーがピッチを埋め尽くしていた。
■不安な守護神
両チームとも守護神には悩まされるだろう。前述通り、チェルシーはGKサンチェスのクリアミスにより勝利を逃した。対するアーセナルのGKダビド・ラヤも、ムドリクの“クロス”で失点したほか、ビルドアップで敵にボールを奪われてあわや失点という危ない場面もあった。前節マンチェスター・シティ戦に続いて2度目となるため、GKアーロン・ラムズデールとの正GK論争はさらに過熱するはずだ。
PKによる失点は仕方ないのだが、これでラヤはブレントフォード時代から数えてプレミアで全7本ともPKを決められたことになる。あと2本でプレミアでのデビューからのPK連続失点記録に並んでしまうというのだ。一方ラムズデールは、PK戦にもつれた8月のマンチェスター・シティとのコミュニティシールドでPKを止めて勝利に貢献しているほか、リーグ戦でもアーセナルに加入してからすでに3本もPKを防いでいる。セーブではなく相手選手が外してくれたのだが、それでも失点を防いだことには変わりない。ラヤもラムズデールも一流のGKだが、運があるのは妻の出産のためチェルシー戦はベンチ入りしなかったラムズデールの方かも…?
いずれにせよ、アーセナルは敗戦を免れて今季プレミアで無敗をキープ。実は、8節(前節)を終えた時点では「6勝2分け0敗、16得点6失点」で、勝敗だけでなく得点や失点まで無敗優勝した2003-04シーズンの同時期と全く同じで話題になっていた。当時も9戦目はチェルシー戦で、その時は2-1で勝利してそのまま無敗で栄冠を手にすることに。今回は勝てなかったが、それでも無敗を維持しており、20年ぶりのリーグ優勝に期待が寄せられる!
(記事/Footmedia)
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By Footmedia