今季のプレミアリーグではGKの足元のミスが頻発 [写真]=Getty Images
GKはパスが不得意なのだろうか?
そんな疑問を抱いてもおかしくないほど、最近のプレミアリーグではGKが自らのミスでピンチを招くシーンが多い。こうした現状の背景にはどのような事情があるのだろうか? イギリスメディア『アスレティック』が最後尾からのビルドアップについて特集しているので今回はそれを紹介しよう。
先週末に行われたプレミアリーグ第13節でも、GKが原因の“危ないシーン”は何度も見られた。注目を集めたマンチェスター・シティvsリヴァプールの首位攻防戦では、リヴァプールのブラジル代表GKアリソンが自陣ボックス内で相手MFフィル・フォーデンにパスを渡してしまう場面があった。フォーデンのシュートが正面に飛んできたためアリソンは難を逃れたが、先制ゴールを許してもおかしくはない場面だった。
ブレントフォードとのアウェイ戦に臨んだアーセナルでは、約2カ月ぶりにプレミアリーグで出番を得たイングランド代表GKアーロン・ラムズデールが自陣ゴール前でボールを奪われ絶体絶命の危機を迎えた。戻ってきたMFデクラン・ライスがライン上でブロックしたため失点を免れたが、これも極めて危ないシーンだった。ニューカッスルのイングランド代表GKニック・ポープも、チェルシー戦で不用意に敵MFにパスを奪われるシーンがあった。
同日、シェフィールド・ユナイテッドはイングランド人GKウェズ・フォデリンガムがボールを奪われて失点した。同選手はゴールマウスを飛び出しDFラインの背後に送られたボールをトラップするも、処理にもたつきボーンマスのFWジャスティン・クライファートに奪われて追加点を許した。クライファートにとってヨーロッパの全5大リーグでの得点となる記念すべき瞬間だったが、GKが簡単にクリアしておけば生まれることはなかっただろう。
「フットボールにはミスがつきものなので仕方ない」と片付けることもできるが、実は数年前までは状況が違ったという。以前はこれほど頻繁にGKのミスから敵にシュートを放たれることはなったというが、ここ5年間でそうした現象は倍増しているのだ。
今シーズン、GKが自らの足元のミスで相手選手にシュートを許した回数は1試合平均で「0.16回」。先週末は代表ウィーク明けやビッグゲームのプレッシャーなど様々な要素も加わり特別に多発したが、開幕からおよそ6試合に1回のペースでGKのミスからシュートが生まれている。それが5年前の2018-19シーズンのプレミアリーグでは1試合平均「0.09回」。およそ11試合に1回のペースだったというのだ。
理由は単純明快だ。決してGKが下手になったわけでなく、単にパスをつなぐ機会が増えたため相対的にミスの回数も増加しているのだ。5年前はGKがショートパスをつなぐ回数は1試合平均「11回」だったが、それが今シーズンは「21回」まで増えている。GKからビルドアップする戦術が日常化し、自ずとGKの“足元のミス”も増えている。先週末のようにゴール前でドタバタ劇が相次ぐ背景には、このような背景があるのだ。
無論、5年前だってGKからパスを繋ぐ意識は持っていたはずだ。だが、当時はロングキックに逃げることが許されていた。ジョゼップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスター・シティがプレミアリーグ2連覇を達成した2018-19シーズン、GKのパスのうち42%は40ヤード(約36m)を超える、いわゆるロングキックだった。それが今シーズンはロングキックの割合が25%まで低下し、ショートパスが増えている。以前なら試合中に聞かれた「Get rid of it(蹴り出せ)」「Safety first(安全第一)」というフレーズも、今のプレミアリーグでは“死語”になっているのかもしれない。
『アスレティック』はヒートマップを用いてショートパスの“行き先”についても触れている。短いパスが増えただけでなく、GKはよりリスクの高いパスを選択するようになったというのだ。2018-19シーズン、GKは前方へのロングキックを使っていたが、2020-21シーズンにはサイドバック(SB)やサイドハーフへ迂回するようなパスが増えた。そして2021-22シーズンはゴール前でショートパスを繋ぐ機会が増え、今シーズンに関してはボランチやインサイドハーフといったピッチ中央にいる仲間にパスを出す割合が明確に増えているという。
まさに最もリスクの高いパスである。手前で相手のアタッカー陣にインターセプトされる可能性もあるし、ボールの貰い手が背後から激しいプレッシャーを受けて奪われる危険もある。それでも、パスが通れば最初からサイドに展開するよりも、そこからの組み立ての選択肢が格段に広がる。そんな攻撃の初手となるパスを狙うからこそ、GKがボールを奪われるケースが飛躍的に増加しているのだ。
この戦術の変化により、時にはGKが下手に見えてしまうことがあるのだ。プレミアリーグで、GKの役割を変えるきっかけを作ったのはグアルディオラ監督だろう。このスペイン人指揮官は2016年にマンチェスター・シティの監督に就任した際、当時のイングランド代表の守護神ジョー・ハートがいたにもかかわらず、足元の技術に不安を感じてバルセロナからチリ代表GKクラウディオ・ブラボ(現:ベティス)を連れてきた。
昨シーズンは、ブライトンのロベルト・デ・ゼルビ監督がスペイン代表GKロベルト・サンチェス(現:チェルシー)に代えてイングランド人GKジェイソン・スティールを優先して起用するようになった。パス精度だけでなく、状況によってショートパスと中盤へのミドルパスを蹴り分ける状況判断を求めたからだと言われている。そして今シーズンは対戦相手の戦術によってスティールと新加入のオランダ代表GKバルト・フェルブルッヘンを使い分けているのだ。
アーセナルのミケル・アルテタ監督も、絶対的な守護神として昨シーズンの躍進に大きく貢献したラムズデールでは物足りず、足技に長けたスペイン代表GKダビド・ラヤを連れてきた。そしてトッテナムのアンジェ・ポステコグルー新監督も「恐らく最優先のポジション」として、いち早くエンポリからイタリア代表GKグリエルモ・ヴィカーリオを獲得。開幕前のプレシーズンから戦術浸透に努めてきた。そしてマンチェスター・ユナイテッドも、最近はかなり批判されているがカメルーン代表GKアンドレ・オナナという“手袋をはめたパサー”を獲得している。
『アスレティック』は「今のGKは以前よりもリスクを負ったプレーを求められる」ため、“足元のミス”が目立つと結論付けている。果たしてGKが自らピンチを招く機会は次第に減っていくのか? それとも増え続けるのか? 今後も守護神たちの“足元”に注目だ。
(記事/Footmedia)
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By Footmedia