マクバーニーのPK弾はプレミアリーグ史上最も「遅いゴール」に [写真]=Getty Images
先週末のプレミアリーグでは少し変わった記録が誕生した。それは、プレミアリーグ史上最も「遅いゴール」である。
今月21日に行われた第21節シェフィールド・ユナイテッド対ウェストハムで、予定のアディショナルタイムを大幅に超えた時間にゴールが生まれたのだ。試合はウェストハムが2-1とリードして90分を迎えると、第4審判が掲げたアディショナルタイムは「6分」。その直後にFWリアン・ブリュースターが危険なタックルをお見舞いしてイエローカード。するとVAR(ビデオアシスタントレフェリー)が介入し、OFR(オンフィールドレビュー)を経て判定がレッドカードに変更されるなど、徐々にアディショナルタイムが足されていった。
数的優位となったウェストハムは、ボールを保持するだけでなく3点目を狙って攻めに出るが、ゴールを奪うことはできない。するとシェフィールド・ユナイテッドの反撃を受け、既にイエローカードを貰っていたウェストハムのDFヴラディミール・ツォウファルが、90+7分に2枚目のイエローカードを出されて退場処分に。そこで得たフリーキックの流れから、ウェストハムのゴール前にクロスボールが放り込まれると、GKアルフォンス・アレオラが飛び出して敵FWオリヴァー・マクバーニーに衝突。これがファウルと判断され、PKとなった。
接触の影響で負傷したGKアレオラがピッチ上で治療を受けることになり、その間にVARのチェックも終わってPKが確定。結局、アレオラはプレーを続行できず、控えGKウカシュ・ファビアンスキと交代した。この時点で予定のアディショナルタイムを5分も上回っており、試合時間は「101分」を迎えていた。
ちなみに、アーセナルでもプレーした経験を持つファビアンスキはPKストッパーとして知られており、プレミアリーグで歴代3位となる11本もPKを止めた経験を持つ。そんな厄介なGKが登場するなか、大役を任されたFWマクバーニーが確実にPKを沈め、ホームチームが土壇場で追いついたのだ。時計の針は「102分8秒」。プレミアリーグの歴史において最も遅いゴールが誕生した瞬間である。現地実況も「プレミアリーグは、試合が終わるまで勝負は終わりません!」と大興奮。結局、試合はこのまま2-2のドローとなった。
もちろん、これまでにも試合終了間際にいくつものゴールが生まれてきた。そこで今回は、プレミアリーグ公式HPが発表している「最も遅いゴール」のランキングを見てみよう。
[写真]=Getty Images
■2位:ディルク・カイト
当時の所属クラブ:リヴァプール
時間:101分48秒
前述のマクバーニーの「102分8秒」は13年ぶりの記録更新だった。それまで記録を保持していたのは元オランダ代表FWディルク・カイト。現在ベルギーのベールスホットを率いる指揮官は、現役時代にリヴァプールで活躍し、2011年4月に行われた第33節アーセナル戦で劇的なゴールを生み出した。
その試合も紆余曲折の連続だった。試合後半、リヴァプールのDFジェイミー・キャラガーの負傷もあって「8分」のアディショナルタイムが発表されると、ゴールレスだった試合が一気に動く。アーセナルがPKを獲得すると、エースのFWロビン・ファン・ペルシが決めて「97分10秒」で均衡を破ったのだ。
これで勝負ありかと思いきや、最後にもう一波乱待っていた。敵陣へ押し込んだリヴァプールがアーセナルのゴール前でフリーキックを獲得。これをFWルイス・スアレスが狙うも、シュートは壁に当たって空高く舞い上がった。そのこぼれ球をめぐって、アーセナルのDFエマニュエル・エブエが背後から覆いかぶさる形でMFルーカス・レイヴァを倒してしまい、PKの判定に。ほとんど接触はないように見えたが、当時はVARもなかったためPKが認められ、これをFWカイトが決めて1-1の引き分け。この「101分48秒」の同点弾がプレミア史上2番目に遅いゴールとなっている。
■3位:ガブリエウ・ジェズス
所属クラブ:アーセナル
時間:100分15秒
3位はアーセナルのブラジルFWガブリエウ・ジェズスが今季の第4節マンチェスター・ユナイテッド戦で決めたゴールだ。本拠地『エミレーツ・スタジアム』での9月の対戦は1-1のまま後半アディショナルタイムを迎えると、コーナーキックからファーサイドのMFデクラン・ライスがニアサイドをぶち抜いて逆転ゴールをゲット。
これで後がなくなったマンチェスター・ユナイテッドが人数をかけて前に出ると、アーセナルのカウンターが炸裂。裏に抜け出したFWガブリエウ・ジェズスが追いかけてきたDFを冷静にかわしてダメ押しの3点目。「100分15秒」のゴールだった。
■4位:レオン・ベイリー
所属クラブ:アストン・ヴィラ
時間:100分9秒
4位も今シーズンのゴールだ。プレミアリーグはFIFAワールドカップカタール2022にならって今季から大幅にアディショナルタイムを増やしており、その影響で「遅いゴール」が激増している。今回のランキングでは、トップ10のうち実に5ゴールが今シーズンに生まれた得点となっている。そして4位は好調アストン・ヴィラのジャマイカFWレオン・ベイリーで、その時間は「100分9秒」だ。
9月に開催されたプレミアリーグ第5節、アストン・ヴィラはクリスタル・パレスをホームに迎えて敗色濃厚だった。後半の立ち上がりに先制点を奪われ、そのまま0-1で負けてもおかしくなかったが、87分にFWジョン・デュランの強烈なボレーシュートで追いつくと、後半アディショナルタイムにPKを獲得。微妙なシーンであったことは事実だが、OFRを経てPKが確定。これをMFドウグラス・ルイスが決めて98分にアストン・ヴィラが逆転した。
さらに、速攻からベイリーが「100分9秒」にダメ押しの3点目を決めて勝負を決定づけた。3-1で勝利をしたアストン・ヴィラは、そこから驚異の快進撃を見せ、現在は優勝争いに絡んでいる。
■5位:フアン・マタ
当時の所属クラブ:チェルシー
時間:100分3秒
歴代5位は、チェルシー時代の元スペイン代表MFフアン・マタのゴールだ。2011年8月に行われた第3節、チェルシーがノリッジをホームに迎えた一戦は、FWディディエ・ドログバの頭部のケガもあって、後半のアディショナルタイムは「11分」。すると、2-1とリードしていたチェルシーが終了間際にダメ押しゴールを奪う。バレンシアからの完全移籍で加わってから、この日がチェルシーでのデビュー戦となったマタが、相手のミスパスを拾って「100分3秒」に得意の左足でゴール隅に流し込んだのだ。
68分に投入されたマタは、ピッチに立ってわずか40分ほどで初ゴールを決めたのだが、それでも「待望のゴール」であった。というのも2011年夏、マタは移籍騒動の渦中にいたのである。バレンシアで活躍していたスペイン代表MFには複数のプレミアリーグ勢が興味を示しており、争奪戦が繰り広げられることに。当時のマタには2500万ユーロ(現在のレートで約40億円)という契約解除金が設定されており、その金額を提示したトッテナムが交渉権を得るも、選手本人がチャンピオンズリーグ(CL)出場を希望しており、“スパーズ”への移籍を断ったのだ。
マタの本命はノースロンドンの“もう1つのクラブ”と言われていた。アーセナル側も退団濃厚だったセスク・ファブレスの後釜としてマタを狙っていたが、セスクのバルセロナ移籍が金銭面などを理由に長引いて手間取ることに。そうこうしているうちに、2500万ユーロに設定されていた契約解除金の期限が切れてしまう。さらに、チェルシーが獲得に乗り出してきて、2700万ユーロ(現在のレートで約43億円)でマタを引き抜いたのだ。このような経緯で加わったマタは、1年目からCL制覇に貢献するなど、“ブルーズ”の一員として大活躍した。
一方で、セスクの後釜を獲り逃したアーセナルは、さらにMFサミル・ナスリまでマンチェスター・シティに引き抜かれて厳しい状況に。そしてマタがデビューゴールを決めた翌日、敵地でマンチェスター・ユナイテッドを相手に2-8の大敗を喫し、慌てて韓国代表FWパク・チュヨンやブラジル代表DFアンドレ・サントス、ドイツ代表DFペア・メルテザッカーなどをかき集めて「パニックバイ」と揶揄されるのだった。
それでも、その時に獲得したMFミケル・アルテタが後に監督としてチームを立て直すのだから、サッカーは本当に何が起こるか分からないスポーツだ。
(記事/Footmedia)
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