今冬の移籍市場で新天地を求めた橋岡(左)とブロヤ(右) [写真]=Offside via Getty Images、Getty Images
今冬の移籍市場は驚くほど地味だった。欧州各国で目立った動きがなく、2月1日に閉幕したプレミアリーグの移籍市場も最後まで大人しかった。
サッカー情報サイト『Transfermarkt』によると、今冬にプレミアリーグ勢が獲得した選手の数はレンタル移籍を含めて計29名。ルートン・タウンが日本代表DF橋岡大樹を獲得したほか、フルアムがチェルシーからアルバニア代表FWアルマンド・ブロヤをレンタル移籍で連れてくるなど、少しは動きが見られたのも事実。だが、例年に比べるとあまりにも静かだった。
昨シーズンの冬の移籍市場と比べると顕著である。昨冬は62名もの選手がプレミアリーグで新天地を見つけており、移籍期限の最終日だけでも19名もの選手を獲得した。それが今年はあまりにも活気のない移籍市場だったため、移籍市場の最終日(2月1日)に主役となったのは、サッカー選手ではなくF1のドライバーだった。イギリス人ドライバーのルイス・ハミルトンが、現所属のメルセデスAMG F1から2025年にスクーデリア・フェラーリに移籍することを発表。イギリス紙『デイリーメール』は「F1界では『ルイス・ハミルトンが移籍市場の話題をさらった』という冗談が飛び交っている」と伝えていた。
F1に話題を奪われた形となったプレミアリーグの今冬の移籍市場だが、さまざまな理由が推測されている。今冬にプレミアリーグ勢が費やした金額を確認するとともに、“静かな冬”となった要因の一部を紹介しよう。
■全クラブの総額でもE・フェルナンデスは買えず?
今冬、プレミアリーグの20クラブが補強に費やした資金は総額1億ポンド(約187億円)。大金ではあるが、冬の移籍市場の記録を更新した昨冬の8億1500万ポンド(約1500億円)のおよそ8分の1に過ぎない。一年前は、チェルシーだけで3億ポンド(約561億円)もの大枚を叩いており、ベンフィカから連れてきたアルゼンチン代表MFエンソ・フェルナンデスの移籍金には英国記録となる1億700万ポンド(当時のレートで約170億円)が支払われた。
しかし、今冬は20チームが費やした移籍金の総額でもエンソ・フェルナンデスを買えないという計算になる。今冬の「1億ポンド」というのは、コロナ禍の影響を受けた2020-21シーズン(6000万ポンド)を除くと、過去13年間の冬の移籍市場において最も低い額となるのだ。
今冬の移籍市場の最高額はジェノアからトッテナムに加入したルーマニア代表DFラドゥ・ドラグシンで、移籍金は推定2500万ポンド(約47億円)。次いでクリスタル・パレスがブラックバーンから連れてきたU-20イングランド代表MFアダム・ウォートンの2200万ポンド(約41億円)となっている。
ちなみに、シント・トロイデンからルートン・タウンへ完全移籍加入した橋岡大樹の移籍金は170万ポンド(約3億円)ほど。これは今冬にプレミアリーグ勢が獲得した29名の中で18番目の額と伝えられている。
欧州5大リーグで見ると、この冬に最もお金を使ったのはフランスのリーグ・アンで、総額は1億6200万ポンド(約302億円)。次いでプレミアリーグの1億ポンド。プレミアリーグが欧州で最高額ではないのは2011年以来、実に13年ぶりのことだという。
■大人しかった理由
今冬の移籍市場が静かだった理由として、イギリスメディア『BBC』は主に5つの要因を挙げている。
まずはファイナンシャルフェアプレー(FFP)の存在だ。今季プレミアリーグでは、エヴァートンが2021-22シーズンの決算でFFPに抵触したとして、異議申し立てをしてはいるものの、現時点では勝ち点「10」のはく奪処分を受けている。さらに、2022-23シーズンの決算に関してもエヴァートンとノッティンガム・フォレストにFFP違反があったと発表されている。マンチェスター・シティやチェルシーも疑惑を持たれており、各クラブがFFPを意識したことで財布の紐が堅くなったという。
財政管理が厳しくなったのはプレミアリーグだけではない。UEFA(欧州サッカー連盟)も、従来の規則に加えて今季から新たな規制を設けており、UEFAの大会に出場するクラブは収入の「90%」までしか選手やコーチの人件費(移籍金を含む)に予算を充てることができない。来季はこの割合が80%に下がり、2025-26シーズンからは70%に定着する。欧州カップ戦を目指すクラブは、UEFAの規則も意識しないといけないのだ。とりわけ、プレミアリーグ勢は昨夏の移籍市場で過去最高となる総額25億ポンド(約4680億円)もの移籍金を支払っており、今冬は慎重にならざるを得なかったと見られる。
2つ目の理由は、その昨夏の“爆買い”だ。アーセナルのイングランド代表MFデクラン・ライス、チェルシーのエクアドル代表MFモイセス・カイセド、マンチェスター・シティのクロアチア代表DFヨシュコ・グヴァルディオールなど、プレミアリーグ勢は夏に記録的な大型補強を行った。さらに昨シーズンも冬の移籍市場における記録を更新。2度の移籍市場で連続して記録的な“爆買い”を続けたことで、どのクラブもそれなりに戦力が揃っていたため、新たな補強が必要なかったのだ。
3つ目は監督交代だという。昨季は1月末までに7クラブが監督交代に踏み切ったが、今季は現時点で2クラブ(シェフィールド・ユナイテッドとノッティンガム・フォレスト)しか監督を交代していない。政権交代は積極的な補強のきっかけになるため、『BBC』は監督交代の少なさも要因に挙げられると指摘している。
4つ目は若手の台頭だ。今年に入ってから、リヴァプールでプレミアリーグデビューを果たした20歳の北アイルランド代表DFコナー・ブラッドリーが大きなインパクトを残しているほか、ニューカッスルでは17歳のU-19イングランド代表MFルイス・マイリー、マンチェスター・ユナイテッドでは18歳のU-19イングランド代表MFコビー・メイヌーといった若い才能が結果を出している。高額の補強よりも、まずは「自前の若手」という流れが生まれるのかもしれない。
最後に、他国の動きだ。FFPに縛られたプレミアリーグ勢が大枚を叩くためには、先に選手を売る必要があった。仮にサウジアラビアのクラブが昨夏のように買い漁っていれば、それをきっかけに移籍市場の経済が動いたはずだが、今冬はサウジ勢も大人しかったため欧州の移籍市場は活気を欠いたという。
というわけで、今冬はF1に話題をさらわれてしまったプレミアリーグの移籍市場だが、夏には活気が戻ってくるはず。昨年の夏のように大物の移籍にも注目したい。
(記事/Footmedia)
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