優秀なセットプレーコーチたち [写真]=Getty Images
近年のサッカー界で注目を集めるのが、セットプレーコーチの存在だ。貴重な得点源である一方で、失点は可能な限り減らしたいセットプレー。各チームの分析力も進化しており、名キッカーの存在だけでゴールを量産できる時代は終わった。専任コーチを雇用するチームが増えるのは当然の流れと言えるだろう。そこで今回は、プレミアリーグを代表するセットプレーコーチにスポットを当てる。
[写真]=Getty Images
■アーセナル:ニコラス・ジョヴァー(42歳)
ジョゼップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティでセットプレー革命を起こしたと賞賛されたニコラス・ジョヴァーは、“セットプレーコーチ”界のトップランナーと呼べる存在だ。ベルリン生まれのフランス人は、28歳の時にモンペリエでビデオアナリストとしての仕事を開始。2011-12シーズンに同クラブ史上初となるリーグ制覇に貢献した。2013年には兼業で短期間だけクロアチア代表でも仕事をし、2016年にブレントフォードのコーチに就任。マンチェスター・シティが、クラブ史上初のセットプレーコーチとして同氏を招聘したのは、リーグ連覇を成し遂げた直後の2019年夏だった。
効果は即座に表れた。2019-20シーズンのマンチェスター・シティはセットプレーから得点が前年度の「11」から、リーグ最多の「17」に増加。一方で、セットプレーからの失点率は、前年度の39パーセントから20パーセントも激減したのだ。このシーズンの途中にミケル・アルテタはマンチェスター・シティのアシスタントからアーセナルの監督にステップアップ。ジョヴァーも2021年夏にアーセナルに加わり、ロンドンでもセットプレー旋風を巻き起こしている。
今季プレミアリーグで最多となる17ゴールをセットプレーから決めているアーセナル。5-0の大勝を収めた1月20日クリスタルパレス戦の後には、先制点となったコーナーキックからのプレーをプレミアリーグ公式Xが徹底分析。「戦術をさらすな」とファンの怒りを買うほど、アーセナルのセットプレー及び、ジョヴァーの存在は注目を集めている。
■アストン・ヴィラ:オースティン・マクフィー(44歳)
ウナイ・エメリ監督と共にアストンヴィラの再生の立役者として評価されているのが、44歳のスコットランド人、オースティン・マクフィーだ。
選手としてのキャリアは異色だ。スコットランドでプロになることができずに、1999年にアメリカに渡ったマクフィーは、ノースカロライナ大学のUNCウィルミントン・シーシャークスで3年プレー。ルーマニアの下部リーグを経由し、2003年に当時JFLのデンソーサッカー部(現・FC刈谷/東海社会人サッカーリーグ)に加入すると、引退までの3年間を日本で過ごした。
帰国後にコーチ業に着手し、セント・ミレン、北アイルランド代表、ハーツ、デンマークのミッティラン等で実績を作ると、2021年夏にアストン・ヴィラのセットプレーコーチに就任。その直後にスコットランド代表のアシスタントコーチ職も手に入れた。
アストン・ヴィラはその後、ディーン・スミス、スティーヴン・ジェラード、エメリと指揮官が変わったが、マクフィーのポジションは揺るがず。ここまで25試合を終えて4位の同クラブは43年ぶりのチャンピオンズリーグ(CL)出場権も現実味を帯びてきた。スコットランド代表もEURO2024の出場権を獲得済みであり、マクフィーのキャリアにとって2024年が大きな一年になることは間違いなさそうだ。なお、日本語も堪能だというマクフィーは、2019年に当時アシスタントコーチを務めていたハーツに食野亮太郎が加入した際には同選手のサポートも行ったそうだ。
■マンチェスター・ユナイテッド:エリック・ラムゼイ(32歳)
選手としての実績は皆無だが、プレミアリーグで指揮を執る日はそう遠くないかもしれない。イギリス国内でスポーツ分野が高い評価を受けるラフバラー大学のスポーツサイエンス学部を首席で卒業したエリック・ラムゼイ。ロンドン五輪で組織委員会会長を務めたセバスチャン・コーも卒業生だという同校でラムゼイは、後にマンチェスター・ユナイテッドのアシスタントコーチを務めたキーラン・マッケンナ(現イプスウィッチ監督)と共に在学中はサッカー部のアシスタントコーチを務めていたという。
スウォンジーの下部組織で監督を務めた後、シュールズベリーのコーチ職を経て、2019年にチェルシーのリザーブチームのコーチに就任。イギリス屈指の若手指導者の一人だという評価を引っ提げて、2021年夏にマンチェスター・ユナイテッドと契約。セットプレーを担当することが発表された。
オーレ・グンナー・スールシャール当時監督は、「幸運にもエリック・ラムゼイを口説くことができた。若くて新しいアイディアを持っており、以前から注目していた革新的なコーチだ」と喜びを露わに。エリック・テン・ハフ監督からも厚い信頼を寄せられており、現在はセットプレーに留まらずトレーニングセッション全般に関わっている。
2023年の3月にはウェールズ代表のアシスタントコーチも兼任することが発表されたが、マンチェスター・ユナイテッドでの仕事の負担の大きさや、第二子の誕生を理由にわずか半年で退任している。過去にブラックプールやスウォンジーの新監督候補として名前が報じられたラムゼイ。19日にはミネソタ・ユナイテッドがアプローチをしていると報じられた。裏方に徹する期間は残りわずかかもしれない。
■ブライトン:ニック・スタンレー(34歳)
グレアム・ポッター前監督の下、クラブとしての目標をプレミアリーグ残留から欧州カップ戦の出場圏内にレベルアップさせたブライトン。それを陰から支えていた一人がセットプレーコーチのニック・スタンレーだ。
2010年からボーンマスでアナリストを務め、2012年夏にインターンとしてブライトンのアカデミーでパフォーマンスアナリストとしての仕事に着手。ソレント大学でスポーツサイエンスの学士号を取り、さらにスポーツパフォーマンス分析の修士課程も終えたスタンレーは、実力を評価されてトップチームに昇格。ポッターが監督に就任した2019年夏に、クラブ史上初のセットプレーコーチの役職を与えられた。
「野心家で非常に賢く努力家」とスタンレーを絶賛していたポッターがチェルシーの監督に就任後は、暫定的に主要コーチングスタッフの一人としてトレーニングを任されたスタンレー。ロベルト・デ・ゼルビ現監督からも厚い信頼を得ている。
■ノッティンガム・フォレスト:サイモン・ラスク(42歳)
ノッティンガム・フォレストがクラブ史上初となるセットプレーコーチの就任を発表したのは、スティーヴ・クーパー前監督を解任する1週間前だった。攻撃面と守備面のどちらにおいてもセットプレーの改善を急務としていたノッティンガム・フォレスト。夏から専任コーチの人選にあたり、昨季までトッテナムで同職を務めていたジャンニ・ヴィオの招聘を望むも失敗。白羽の矢が立ったのは、イングランドU-19代表監督のサイモン・ラスクだった。
2012年から2021年1月まで10年近くに渡ってブライトンの下部組織で監督を務めていたラスクは、アーロン・コノリー、ベン・ホワイト、ソリー・マーチの育成に尽力した人物だ。2021年1月から10月までストックポートの監督を務め、2022年2月からFAに加わるまではダンディーFCでマーク・マクギー監督のアシスタントを務めていた。
FAのコーチングスタッフに加わったのは2022年の夏だったが、わずか1年半でクラブ業務に復帰することに。ただ、セットプレー指導を専門的に行うのはラスクにとっても初めての経験であり、その手腕は未知数だ。
(記事/Footmedia)
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By Footmedia