優勝争いの鍵を握るかもしれないPK [写真]=Getty Images
今シーズンのプレミアリーグの優勝争いは、勝ち点「1」差の中に3チームがひしめく前代未聞の混戦状態。そうなると、わずかなミスが致命傷になりかねないし、もしかすると1本のPKが優勝トロフィーの行方を左右するかもしれない。
今月10日に行われたプレミアリーグ第28節リヴァプールvsマンチェスター・シティの“天王山”は1-1の引き分けに終わった。先制を許したリヴァプールは、後半開始早々の50分にアルゼンチン代表MFアレクシス・マック・アリスターのPKで試合を振り出しに。そして終了間際にもマック・アリスターが敵陣ボックス内で胸部を蹴られて倒されるシーンがあったが、ファウルを取って貰えずドロー決着に終わった。もしリヴァプールが2つ目のPKを獲得していたら、誰がキッカーを務めていたかも見ものだっただろう。
しかし、今シーズンのリヴァプールはリーグ最多タイとなる8本のPKを獲得しながら、そのうち3本も失敗している。他のチームは多くても1本しか失敗していないため、リヴァプールの3本は気になる数字だ。普段のPKキッカーは“絶対的エース”のエジプト代表FWモハメド・サラー。抜群の得点力を誇る同選手だが、今シーズンはPKで苦労しており、6本のうち2本も止められている。8月19日のプレミアリーグ第2節ボーンマス戦では、GKにセーブされた後にこぼれ球を蹴り込んだが、2本のミスは今シーズンのプレミアリーグにおいて最多の数字。無論、PKが下手なわけではなく、プレミアリーグでの通算PK成功率は80パーセント(24/30)と決して低くはないが、マック・アリスターに比べるとやや見劣りする。
マンチェスター・シティ戦では、サラーがベンチスタートだったため50分のPKはマック・アリスターに任された。同選手は今月7日のヨーロッパリーグ(EL)ラウンド16のスパルタ・プラハ戦でもPKを沈めており、公式戦2試合連続でPKからネットを揺らしている。昨年夏にリヴァプールに加入したプレーメーカーがリーグ戦でPKを蹴るのはブライトン時代から数えて10本目だが、失敗したのはわずか1本だけ。ブライトン時代の2年前にウルヴァーハンプトン(ウルブス)戦でポストを当てた1本を除き、他は全て成功しており、成功率は「90%」となっている。データサイト『Opta』によると、これは10本以上のPKを蹴った選手としてはプレミアリーグ歴代14位の成功率だという。
PK戦までもつれたFIFAワールドカップカタール2022決勝のフランス戦では、116分に途中交代でピッチを去ったが、そのままフル出場していればキッカーを任されていたかもしれない。先日のマンチェスター・シティ戦でも、後半追加タイムに2本目のPKを獲得していれば、今シーズン2度も失敗しているエースではなくマック・アリスターが任された可能性もある。いずれにせよ、ダルウィン・ヌニェスが蹴る可能性は低かっただろう。最近は絶好調のウルグアイ代表ストライカーだが、1月末のチェルシー戦でPKをポストに当てて外しており、プレミアリーグでのPK成功率は「0%」なのだ…。
PKは今シーズンのアーセナルの得意分野だ。現在、リヴァプールを得失点差で抑えて首位に立つ彼らは、「完璧」な数字を残している。ここまでのリーグ戦では8本のPKを獲得し、見事に8本とも成功。しかも、一人の選手に頼っているわけではない。基本的にPKキッカーはノルウェー代表MFマルティン・ウーデゴーアかイングランド代表FWブカヨ・サカのどちらかが務める。主将のウーデゴーアは正確無比の左足を持っており、PK戦までもつれた現地時間12日のチャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16のポルト戦では、コイントスに勝って自ら「先行」を選ぶと、そのまま1番手のキッカーを務めて見事にネットを揺らした。
サカも120分間の死闘となったポルト戦にフル出場し、3人目のキッカーとして力強いシュートを蹴り込んだ。今シーズンのリーグ戦で4本全てを沈めているサカのPKは安心して見ていられるが、こうなるまでには苦悩もあった。2021年7月のEURO2020の決勝戦では、彼のPKが最終的に勝敗を分けた。1-1でPK戦に突入したイタリア代表との決勝戦、5人目のサカが決めれば勝負はサドンデスに突入するはずだったが、放ったシュートはGKジャンルイジ・ドンナルンマに阻まれてしまう。
試合後、初優勝を逃したイングランド代表の一部ファンから誹謗中傷を受けたが、それでも「トロフィーをもたらすことができずに申し訳ない。でも僕らは、必ず今の世代の子供たちが優勝を味わえるように全力を尽くす」と前を向き、「差別や憎しみはフットボール界、そしてどんな社会にも必要ない」とSNSで指摘した上で、最後に「愛は勝つ」と締め括った。辛い経験を乗り越えたサカは、昨シーズン終盤戦のウェストハム戦でPKを失敗するも、プレミアリーグでの失敗はその1回だけ。これまで9本蹴って8本も成功しているのだ。
また、昨年9月のボーンマス戦で2点リードを奪ったアーセナルは、53分に獲得したPKをウーデゴーアでもサカでもなく、当時批判に晒されていた新戦力のドイツ代表FWカイ・ハフェルツに蹴らせた。チェルシーから推定6000万ポンド(約113億円)で加入しながら、なかなか結果を残せていなかったハフェルツのために、サカとウーデゴーアがはPKを譲ったのである。するとサポーターはシャキーラの『Waka Waka(ワカワカ)』に乗せて「6000万ポンドをドブに捨ててもいい、またカイ・ハフェルツが決めてくれる」と替え歌をチャントし、ミケル・アルテタ監督も「このチームにはエゴがないんだ。感動的なシーンだった」と試合後に振り返った。
そのハフェルツはポルトとのPK戦でもネットを揺らしており、アーセナルはプレミアリーグだけでなくCLやFAコミュニティシールドのPK戦を含め、今シーズンは全17本ともPKを成功しているのだ。そのアーセナルに8月のFAコミュニティシールドでPK戦の末に敗れたのが、現在プレミアリーグで3位につけるマンチェスター・シティだ。
前人未到の4連覇を目指すマンチェスター・シティもPKの成功率は悪くない。今シーズンのリーグ戦では5本蹴って4本成功。唯一の失敗はノルウェー代表FWアーリング・ハーランドが第3節のシェフィールド・ユナイテッド戦でポストに当ててしまったものだ。とはいえ、これまで“ノルウェーの怪物”はプレミアリーグでPKを11本蹴り、外したのはその1回だけ。成功率「90.9」パーセントは10本以上のPKを蹴った選手の中で歴代9番目の成功率となっている。
ちなみに、プレミアリーグの歴史において10本以上蹴った選手の中で100パーセントの成功率を誇るのは1人だけ。それがマンチェスター・シティで抜群の決定力を誇った元コートジボワール代表MFヤヤ・トゥーレ氏で、全11本を成功している。
(記事/Footmedia)
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