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偏愛クロストーク “クイズ王”伊沢拓司×サッカーキング編集長 トッテナムへ注ぐ愛

2024.07.25

[写真]=須田康暉

 7月27日に東京・国立競技場で、『明治安田Jリーグワールドチャレンジ2024 powered by docomo』として、プレミアリーグのトッテナムが昨季のJ1王者ヴィッセル神戸と対戦する。

 33年ぶりの来日となるトッテナム。人気としてはプレミアリーグでもマンチェスター勢やリヴァプール、“お隣さん”のアーセナルやチェルシーに正直、劣っているかもしれない。でも“偏愛”を届ける人間は日本にもいる。

 その“偏愛”ぶりをXでも示しまくっている“クイズ王”伊沢拓司さんと、サッカーメディアの中で働きながらも特定クラブへの愛情を発信している『サッカーキング』編集長である小松春生が、“偏愛”対談を実施。公私で交友関係にある2人のクロストークをお届けする。

[写真]=須田康暉

小松 改めて、伊沢さんはなぜトッテナムを好きになったんですか?

伊沢 小学生の頃にロビー・キーンが好きだったんです。前転するゴールパフォーマンスがなぜか好きで(笑)。真似までしていて。あとは初めて会った海外サッカー選手がユルゲン・クリンスマンで、サッカースクールに来てくれたんですけど、サインまでもらって。その時点ではトッテナムのことは知らなかったけど、運命かもしれないですね(笑)。そしてアーロン・レノン、ギャレス・ベイルと足が速い選手がいたこともあって、ゲームで使うようになって。本格的に見始めたのは2015-16シーズンで、ミラクルレスターが注目されていましたけど、トッテナムも最後まで優勝争いをしていて、若い選手も多く、「こっちもいいチームだぞ」と。それでハマっていきましたね。

小松 ゲームから入るのはあるあるですね。僕もそうで、レノンやベイルからなんです。足が速い選手はゲームで重宝されるし、中央にはロマン・パヴリュチェンコやピーター・クラウチがいたりした時代で。そのまま好きになったので、2009年くらいから見るようになりました。伊沢さんはレスターというみんなが応援しているチームよりも、“ヒール”の立ち位置だったトッテナムに魅力を感じたということですけど、天邪鬼的な性格もあるんですかね?

伊沢 性格ですね。プロ野球は親の影響もあって巨人ファンですけど(笑)。でも、「王道のチームはファンがたくさんいるので、面白くはない」気持ちは純然とあります。2015-16シーズンのトッテナムは力があったし、これからさらに上がっていくと思っていたら、3位、2位、3位と連続で上位フィニッシュだったので、青田買いした感覚です。

小松 確かに天邪鬼的な性格の人が多い気はします(笑)。僕は才能ある選手を獲得しても、なかなかチームで生かしきれないところに愛おしさを感じていったんです。ロンドン拠点のクラブであることの優位性や移籍金で手に入れた資金で獲得した選手たちをうまく組み込めないもどかしさに。でも、キャラクターが立っている選手も多かったので、その魅力もありますね。「左サイドバックのアフロヘアーの選手、いつも目立つな」みたいな。

[写真]=須田康暉

伊沢 (ブノワ)アスー・エコト(笑)。プレーをちゃんと見たことはあまりないですけど、印象は超強いですね。当時から愛すべき集団ですよね。

小松 思い入れのある選手について聞いておきたくて。歴代の中で強いて挙げるとすれば誰ですか? ちなみに僕はベイルで。下部組織出身ではなく、サウサンプトンから加入した選手ではありますが、当初は「ベイルが出ると勝てない」などと言われつつ、ハリー・レドナップの下で大事にされながら、ポジションをコンバートして、大きく花開いて、多額の移籍金も残してくれた。そして、帰ってもきてくれた。プレーでチームを勝たせてくれたのはもちろんですが、“名伯楽”レドナップと歩んだ成長ストーリーが乗っかってくるので、思い入れも変わりますね。

伊沢 いまだに「心のクラブはトッテナム」と言ってくれている。気持ちをずっと発信し続けてくれているし、トッテナムのファンも「君のことは本当に大好きだ」という気持ちですよね。ベイル以前、ベイル以後でクラブのスタイルも変わって、育てて売るクラブから、ちゃんと育てた選手で勝つクラブになっていった。時代の経過を見ていると、クラブがちゃんと進歩をしている、ステップアップしている。それも楽しいところですね。

 僕は一人と言われると、ムサ・デンベレなんです。見始めた頃に「トッテナムのサッカーが面白いな」と思えた一番のポイントは、たぶん彼の存在でした。アンドレ・ビラス・ボアス監督の最大の貢献がデンベレを1列下げたこと。ボールを持てて、とにかく離さない。スローテンポになって大変なところもありましたけど、ボールは奪われないし、見ていて楽しい選手だったんです。周りの選手からも「一番サッカーがうまいのはデンベレ」と言われていたけど、世間的には過小評価だとも思っていて。天邪鬼からするとたまらないですよね(笑)。デンベレはサポーターみんな好きだと思います。

[写真]=須田康暉

小松 手の使い方が抜群でしたよね。ボールキープしているときに相手をコントロールするための手の使い方がうまくて、懐も深いから奪われない。そこの部分では歴代でもベストの選手の一人だと思います。

伊沢 スピードは速くないけど、体を低くして重心を落としたり、ボディフェイクが絶妙で。サッカーって面白いなと思わせてくれたのはデンベレでしたね。

小松 自陣の深い位置でデンベレが持ったときのハラハラ感もありましたよね(笑)。「なんで今持つんだよ」みたいな。もちろん相手を剥がしてくれるとは信じているんですけど。今のチームでもそれをイヴ・ビスマがやったり。

伊沢 そして、うまくいかない(笑)。2020-21シーズン、加入2年目のタンギ・エンドンベレにデンベレが重なったんです。序盤はすごく良かった。ケインの4アシストからソン・フンミンが4得点したサウサンプトン戦、タンギがめちゃくちゃ良かったんです。そこにデンベレの影を見てしまいました。結局、何も残さずに出て行ってしまいましたけど。

小松 印象的な出来事や試合、シーンは?

伊沢 ベタですが、“アムステルダムの奇跡”になりますね。2018-19シーズン、チャンピオンズリーグ準決勝のアヤックスとのアウェーでのセカンドレグ。ルーカス・モウラの3ゴールですよ。スポーツバーでやっていた観戦会で、トッテナムサポーター20人くらいと一緒に見ていたんですけど、絶望的な2点ビハインドでケインもいない。チームの調子も悪そう。という中で、後半に3点。選手たちが必死にボールを追って、3点取らないといけないのに全然みんな諦めていない。その姿がとても印象的だったので、強烈なバウンスバックも含めて、一生の思い出です。今見返しても涙が出ますよ。デレ(アリ)が陰でいい仕事をして、走りまくってアシストもして。準々決勝はソニーが素晴らしかったけど、ここではまた別の選手が頑張ってくれて。

[写真]=須田康暉

小松 そして、CL決勝へ進む。

伊沢 決勝も思い出深い。このときも観戦会をやっていたので、敗戦後、泣いている人もいっぱいいる中でしんみりと机を片付け、始発で帰るという悲しい決勝でした。

小松 でも、それが歴史になって、もしCL決勝まで進んだときが来たら「あの時はあんな思いをしたけど」という結果を得るかもしれないし、「あの思いをまた味わうのか」という結果になるかもしれない。それ以前にどちらの気持ちを味わうことも、もうないかもしれない。でも、サッカーの魅力はそこにありますよね。

伊沢 それが良いですよね。当時の映像とか残していますけど、スポーツバーでの盛り上がりもすごかったし、めちゃくちゃ楽しかった。忘れることはない一瞬です。

小松 僕は2014-15シーズンのヨーロッパリーグ、アステラス・トリポリスFC戦なんです。

伊沢 (エリク)ラメラがラボーナを決めた試合?

小松 ですです。初めて現地で見たトッテナムの試合がそれで。旧スタジアムのホワイト・ハート・レーンで、ラメラのラボーナミドルがあり、ケインがプロで初めてハットトリックした日。しかも(ウーゴ)ロリスが退場になって、ケインは最後にキーパーをやって、キーパーのユニフォームのまま、ハットトリックの記念ボールを持って帰るという(笑)。ミッドウィークのELで相手も有名クラブではなかったので、満員でもない。だから生で見ている人も限られている分、さらに思い出深い試合です。

[写真]=筆者提供

伊沢 確かに貴重ですよね。面白い試合で。サポーターの中で語り継がれていく試合の一つでもある。ケインの得点も別に綺麗なパターンではなかったけど、点取り屋としての覚醒がその頃から始まっているわけで。それがいいですよね。

小松 18歳で背番号は18番。この先トップチームでどこまでやってくれるのか。当時はまだそんな存在でしたけど、まさかここまでの選手になるとは。

伊沢 どんどんと魔改造されて、どんどん何でもできる選手になっていった。ケインの成長を見守ることがここ10年のトッテナムの面白いところでもあったかもしれないですね。

小松 昨シーズンから“脱ケイン”をしていく中、今のチームの推しはどうですか?

伊沢 正直リッチー(リシャーリソン)が好きなんです。ケガがあったり、精神的に苦しんだときもあったり、トッテナムに来てからすでに波乱万丈の2年を送った。毀誉褒貶というか、愛されも、貶されもする選手ですけど、エンブレムへの思いは強い選手ですし、今は移籍するかどうかも含めて注目している、そして偏愛している、他の人が愛していなくても「俺はリッチーを応援するぞ」という気持ちが強くあります。昨シーズンの頭くらいはだいぶ実力を疑っていましたけど(笑)。

小松 ピッチ上ではカッとなることもあるし、相手を煽ってしまうこともある。一方でピッチを出ると慈善活動も積極的ですし、ブラジル国民の人気もありますね。

[写真]=須田康暉

伊沢 心優しいんです。まっすぐで、ちょっと心細いところもあって。応援したくなる選手ですね。(クリスティアン)ロメロや、ラメラもそうでしたけど、とにかく熱い選手が多いチーム。なのに、モウリーニョからは「良い子の集団」と言われてしまったりして。集団になるとその熱さがうまく出ず、ムラっ気があるのはトッテナムだからこそでもあるのかなと。

小松 勝ち負けに対してどれだけ突き詰めているか、要求し合っているのか、という部分でモウリーニョがそれまで率いていたクラブと比べて物足りなさは感じたのかもしれません。

伊沢 そうですよね。ウーゴ・ロリスもケインもソニーも“リーダー感”は少し足りないかもしれない。例えばジョン・テリーやハビエル・サネッティと比較したら、モウにとっては不満かもしれない。そういった選手が出て来てくれること、もしくはみんなでそういう集団になっていくことがトッテナムの最後の一歩を進めてくれるところだと思います。

小松 ソニーもキャプテンになって、試合前の円陣をサポーターの近くにズラしてやってみるようにするなど、みんなで戦おうという空気を作ろうとはしていますけど、引き締め役は必要かもしれませんね。

伊沢 数年後、アーチー・グレイがそういった存在になってほしいですね。最近の若手はすごく楽しみです。ルーカス・ベリヴァル、ルカ・ヴシュコヴィッチ、アーチーといった選手を獲得しているし、すでに加入しているパペ・サールやデスティニー・ウドジェ、ミッキー・ファン・デ・フェンと若い選手の補強を当て続けている。ファビオ・パラティチ(元マネージング・ダイレクター)の目利きの良さもあったと思います。

小松 クラブの強化部門やビジネス部門の人たちも個性的なキャラクターがあって、そういう楽しみ方もありますよね。会長のダニエル・レヴィは2001年からオーナーになって、プレミアリーグでは最も長くオーナーを務めている。トッテナムの大ファンでありながら、スーパービジネスマンというのもキャラクターとしていいですね。伊沢さんは“レヴィ推し”ですもんね。

伊沢 レヴィはミーハーだし、ミスもするし、惚れた選手に入れ込んでしまうところはあるけれど、修正力がある人だと思っていて。うまくいっていないとわかったときの修正力はすごい。ホワイト・ハート・レーンからスタジアムをイーストロンドンに移転しようと考えたときもあるけれど、批判されたら撤回して、元々の場所に建て直した。監督もモウリーニョやアントニオ・コンテといった言ったビッグネーム招聘からアンジェ・ポステコグルーに舵を切って。リクルーティングがうまくいかなかったら、パラティチとヨハン・ランゲを連れてきて、自分は権限を手放す。PCDAを回せる、頭のいい、交渉力のある会長です。ノーサンバーランド開発計画(トッテナム・ホットスパー・スタジアムを中心とした都市開発計画)もうまくいってきているので、ここから5年くらいでレヴィの先見性がすごいと思えるような出来事はますます増えてきそうですね。

[写真]=筆者提供

小松 5月に現地へ行ってきましたけど、メガストアはやはり随一ですし、新スタジアムのおかげで最寄り駅の駅舎も新しくなり、ホワイト・ハート・レーン時代の駅は薄暗くて古く、道もガタガタで街灯も少なくて暗いかった雰囲気が解消されましたね。街灯はもう少し増やしてほしいですけど、大型スーパーもできていたり。加えて、サッカー以外の用途も見据えて建設されているので、NFLの試合も簡単にできるし、コンサートもどんどん誘致している。この夏もピンクやトラヴィス・スコットがライブをしていて、普段のメガストアをアーティストグッズ売り場に一瞬で切り替えることもできる。さらにF1と契約したことで、敷地内にミニカートのコースもあれば、スタジアムの屋上に昇る『THE DARE SKYWALK』なんていうアトラクション体験もできちゃう。今はスタジアム併設のホテルを建設中ですし、まだまだ伸びしろがあります。そのあたりにもレヴィのビジネスマンとしての才覚を感じます。で、何よりもレヴィ本人が幼少期からの大のトッテナムサポーター。

伊沢 そうなんですよ。1960年代からのファンがケンブリッジ大学を出て、そのまま会長をやっている。しかも、経営は万全。こんなにいいことないですから。

小松 サポーターズトラスト(サポーターがクラブ経営に参画するための組織)とはしばしば揉めていますけどね(笑)。

伊沢 サポーターズトラストも過激ですし(笑)。レヴィの安心感で応援できるし、時折出てくるミーハー過ぎるところ、良くないところも含めておもしろいと思っています。

小松 さて、我々の愛するトッテナムが33年ぶりに日本にやってくるということで、最後の来日は伊沢さんが生まれる前です。今回、日本で見られるチャンスということで、僕らとしてはいろいろな人にSPURSPLAY(トッテナムの各チームの試合などを配信するOTTサービス)に加入するくらいのめり込んでもらいたいと思っていますけど、まずはどう楽しんでもらいたいですか?

伊沢 今回は将来を担ってくれるイングランドの若手、そしてプレミアリーグを代表する選手になるポテンシャルを秘めた選手たちが来ると思うので、まずはそこを見てほしいです。中盤のアーチー・グレイやルーカス・ベリヴァルといった18歳の新加入組に注目してほしいです。

小松 マイキー・ムーアやジェイミー・ドンリー、タイリース・ホール、ウィル・ランクシャーといったアカデミーの選手にも注目ですね。

[写真]-須田康暉

伊沢 ですね。そしてもちろんソン・フンミンがいる。アジア人選手がいることも、アイコニックな存在であることも、注目を集める上ではとても大きいことですよね。昔は衛星放送でトッテナムの中継があるのか一喜一憂していたチームが日本に来るなんて最高じゃないですか。僕もちゃんとチームを見始めて約10年ですが、いよいよいろいろなものが結実する気がして、とてもワクワクしているので、試合当日はスタンドで泣いているかもしれないです(笑)。

 あとは覚えやすいチームの歌もあるので、みんなでしっかり歌って、また来日してもらえるようにしたい!『聖者の行進』は皆さんメロディーを聞いたことがあると思うし、基本的なチャントも覚えやすいので、3、4つ覚えてもらい、歌っているうちに涙が出てくると思うので、みんなで泣きましょう。小松さん的には見所はどこですか?

小松 サッカーメディアの中の人で、ここまで一つのクラブへの愛情を口にしている人は、なかなかいないと思います(笑)。でも、大きな前提として“サッカーが好き”ということは皆さんと一緒です。なので、トッテナム目当てで見に行く人は、チームを全力で応援してもらいつつ、ヴィッセル神戸の魅力、Jリーグの魅力にも改めて気付いてもらいたいですね。大迫勇也や武藤嘉紀といった代表経験者もいますし、佐々木大樹や宮代大聖といったこれからもっと大物になる可能性を秘めた選手もいる。逆もまたしかりで神戸サポーターにも海外サッカーの魅力も感じてほしいです。トッテナムをきっかけでプレミアリーグを見るようになって、その結果アーセナルやチェルシーが好きになっても、それはそれで素晴らしいことだと思っていて。

伊沢 ここをきっかけにしてサッカーに対する愛がより広がっていけば、本当にうれしいことですよね。

小松 あとは、イギリスに興味を持つとか、サッカーも歴史のあるスポーツですし、そこから世界史に興味を持つとか、サッカーを起点にしていろいろなことに関心を広げてもらい、サッカーにまた戻ってくるような還流を繰り返すようになれば理想ですね。伊沢さんも根本はそういった興味の枠の広がりもあるから、今のお仕事をされていると思います。

伊沢 派生の面白さはありますよね。トッテナムをきっかけにヨーロッパやいろいろなサッカーの面白さに気づいてもらえるとうれしいので、まずはぜひこの試合を見に来てもらいたいですね。

試合チケット購入はこちらから

試合情報
日付:7月27日(土)
キックオフ時刻:19時
会場:国立競技場

放送予定
Lemino(無料生配信)

By 小松春生

Web『サッカーキング』編集長

1984年東京都生まれ。2012年よりWeb『サッカーキング』で編集者として勤務。2019年7月よりWeb『サッカーキング』編集長に就任。イギリスと⚽️サッカーと🎤音楽と🤼‍♂️プロレスが好き

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