エスパニョールでプレーするアセンシオ(左)とヒホンでプレーするハリロヴィッチ(右) [写真]=Real Madrid/VI Images via Getty Images
ダイヤモンドは磨かなければ光らない。それと同様にいくらタレントがあっても実戦で磨かれなければ、才能は開花しない。バルセロナは19歳のアレン・ハリロヴィッチをスポルティング・ヒホンに、レアル・マドリードは19歳のマルコ・アセンシオをエスパニョールにレンタル移籍させた。2人は将来を嘱望されるタレントだが、“世界選抜”と呼んでも決して大げさではない所属するチームのトップで、常時出場機会を得る経験も実力もない。ゆえにクラブは実戦で経験を積ませようとレンタル移籍に出した。
ただレンタル移籍に出しても、移籍先で出場できなければ同じだ。そこで2人のレンタル移籍には地元メディアによれば、ある条件がつけられているという。
バルセロナはクロアチア人アタッカーをスポルティング・ヒホンへレンタル移籍させる際に、全公式戦の60パーセント以上出場させなければいけないという条件をつけた。もし60パーセントに達していなければ、違約金が発生する。また、アセンシオは公式戦に30試合以上スタメンで起用されれば、エスパニョールはレアル・マドリードに何も払う必要はない。このように確実に試合で使われる条件を承諾するクラブに選手をレンタルさせた。なぜなら彼らのレンタル移籍の目的は、実戦経験を積ませることだからだ。
2人の若き才能はともにスペイン1部のクラブにレンタルされた。バルセロナはスペインのサッカーに馴染んでもらうという意図もあり、レンタル先は国内のクラブに絞っていたという。一方、ギリシャで行われたU-19欧州選手権で優勝したスペインをエースとしてけん引したアセンシオには欧州の多くのクラブがレンタル移籍先として手を挙げた。だが、本人がエスパニョールを選択し、スペイン1部で経験を積むことになった。
受け入れる先のクラブとしても、いい話であることは間違いない。両者は決してリーガ制覇を狙うクラブではない。昇格組のスポルティング・ヒホンは残留が当面の目標で、エスパニョールにしても残留、あわよくばヨーロッパリーグの出場権を得られる順位で終えたいと考えている。しかし、両クラブには選手を補強する資金がない。そこに才能ある選手のレンタル移籍の申し出があった。しかもほとんど無償で提供を受けることになる。無償で戦力を上積みできるのだ。レンタルに出すクラブと受け入れるクラブの思惑は見事に合致する。
ただ、サポーターは複雑だろう。仮に彼らのパフォーマンスが秀でていて、チームが好調の時にバルセロナ、もしくはレアル・マドリードという強豪と対戦したら、若きエースを欠くことになるからだ。なぜならレンタル元と対戦する時には出場できないという条項が契約に含まれているからだ。ベストメンバーでは挑めない。
レンタル元との対戦で起用するにはレンタル先のクラブが違約金をレンタル元に払わなければならない。強豪チームが自分のレンタルに出した選手に対戦相手としてプレーされ、負けたら元も子もないからだろう。飼い犬に噛まれては、自分たちの判断ミスを公にするようなものだ。
実際に第6節でアトレティコ・マドリードは、レンタルに出した選手に決勝点を奪われて負けた。決勝点を決めたビジャレアルのレオ・バチストンはアトレティコ・マドリードからレンタル移籍している選手だった。ただ彼はアトレティコ・マドリード戦に出場できないという条項はなく、またシーズン後にビジャレアルは彼を買い取れるオプションを手にしている。レオ・バチストンを構想外にし、ジャクソン・マルティネスの獲得に3500万ユーロ(約47億円)、ルシアーノ・ビエットの獲得に2000万ユーロ(約27億円)を払ったアトレティコ・マドリードのディレクター、またディエゴ・シメオネ監督は何を思ったのだろうか。
ハリロヴィッチとアセンシオはそのタレントをレンタル先で示している。アセンシオは第5節、強敵のバレンシア戦でチームを勝利に導き、ハリロヴィッチは第7節エスパニョール戦でリーガ初得点を決めた。実戦経験を積んだ彼らは1年後、自分のチームに戻った時に出場機会を得られる戦力に変貌しているだろうか。
レンタル移籍先のビジャレアルで昨シーズン、11アシストと大活躍したロシア代表MFデニス・チェリシェフはレアル・マドリードに戻ったが今シーズン、リーガ第7節終了時点で、15分の出場時間しか手にしていない。
文=座間健司
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By 座間健司