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【コラム】レアル・マドリードの伝統をバルセロナも手にした奇跡の夜

2017.03.09

2得点を挙げ逆転突破の立役者となったネイマール [写真]=Getty Images

 ナポリ戦直後のテレビ局のインタビューで、フランス人指揮官は、頑なにこう話した。

「私たちは、勝った。それだけだ」

 インタビュアーは前半は低調で、解決策を見い出せず、セルヒオ・ラモスのヘディングにまたも助けられたことを追求しようとしたが、ジダンは準々決勝進出というミッションを達成したことをひたすら強調した。

 チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦セカンドレグ、アウェーのナポリ戦で地元メディアは勝利したとはいえ、ジネディーヌ・ジダンの采配に疑問を投げかけた。前半のレアル・マドリードはただ選手を並べただけ。好調だった4-4-2から、なぜ4-3-3に配置転換したのか。指揮官の明確な意図は見えず。劣勢になってもベンチから具体的な解決策は提示されなかった。

 選手起用も疑問視された。カリム・ベンゼマ、ギャレス・ベイル、クリスティアーノ・ロナウドの『BBC』は当然のごとくスタメンを飾ったが、なぜ好調なイスコ、アルバロ・モラタを起用しなかったのか。

 タイトルが懸かった強豪との重要なゲーム。ナポリ戦は、ジダンにとって力量が試される絶好の機会だったが、またしてもフランス人は無策だと非難された。
  
 一方でマドリディスタの大半は、満足している。ジダンの冒頭のコメントが端的に示している。レアル・マドリードはプレーに関して、バルセロナのような確固たるコンセプトはない。勝利、結果が最優先される。それがクラブのフィロソフィーだ。だから、彼らにとって低調なパフォーマンスは些細な事でしかない。

 レアル・マドリードが準々決勝進出を決めた翌日、バルセロナは奇跡の大逆転劇を演じ、準々決勝進出を決めた。セルジ・ロベルトの6点目が決まった時、カタルーニャの街のあちこちで雄叫びが上がり、試合が終わると道にはクラクションがあふれた。タイトルを取った時と同じ歓喜と興奮が生まれた。ピケが言うようにこれから9カ月後にカタルーニャに多くの赤ちゃんが誕生してもおかしくない雰囲気だった。奇跡が起きた夜だ。

 歴史に残るゲームで、ネイマールがリオネル・メッシに代わって、正真正銘のエースと呼べる活躍をした。ブラジルの至宝は、奇跡を呼び込んだ。88分に直接FK、続いて90分にはPKも決めた。どちらの場面でもメッシはボールに近づかず、年下のブラジル人に任せた。6点目のアシストもネイマールだ。メッシがいない日には、ネイマールがいる。同僚の10番を立てる、もしくは遠慮するようなプレーをすることも多かったネイマールだが、この夜を境にその姿勢も変わるか。エースが交代した日と後に振り返られるゲームとなるかもしれない。

 終盤での同点劇、もしくは逆転は、レアル・マドリードの伝統だ。最近で言えば、2013-14シーズンのCL決勝93分のセルヒオ・ラモスの同点ゴールが象徴的だろう。決して最後まで諦めず、勝利するという伝統が白いユニフォームには根づいている。CL優勝11回の貫禄だ。

 バルセロナには「スタイル」があるが、レアル・マドリードの持つ勝者の伝統はなかった。しかし、ここ10年でCLを4度制したチームは、レアルにしかない伝統を身につけたことを実証した。奇しくもカタルーニャ語で「セルヒオ」を意味する「セルジ」が94分39秒に決めた6点目は、バルセロナが新たに手にした伝統を示したという点においても歴史的だった。 

文=座間健司

By 座間健司

フリーライター&フォトグラファー。フットサルとサッカーを中心にスペインで活動中。

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