バルセロナの勢いは、この1週間で急にぴたりと止まった。
チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦セカンドレグ、パリ・サンジェルマン戦で奇跡の大逆転を演じた後は、リーガ・エスパニョーラ、CL、そしてコパ・デル・レイの3冠達成も夢じゃないとバルセロナニスタは胸を躍らせた。パリ・サンジェルマン戦後のデポルティーボ戦で敗れても、「あれだけの逆転劇の後だからしょうがない」、「彼らも人間だ」と珍しく地元メディアもサポーターの誰もが敗戦の後にも関わらず、リーガ制覇に悲観的にならなかった。カンプ・ノウにはリオネル・メッシがサポーターと共にセルジ・ロベルトの6点目を喜ぶ横断幕が貼られ、英語で「WELCOME TO THE CAMP NOU HISTORY HAPPENS HERE(カンプ・ノウにようこそ ここで歴史は生まれた)」と記されていた。バルセロナ寄りのメディアは、歴史的なゲームをDVDにし、ダウンロード配信もした。誰もがまるでタイトルを獲ったかのように世紀の逆転劇に酔ったが、今はすっかり覚めている。
第31節、バルセロナはマラガに敗れた。パリ・サンジェルマン戦以降「ネイマールは成熟した」と誰もが称えていたブラジル人アタッカーは、愚かな退場でチームを窮地に追い込み、一転して批判が集まっている。マラガはレアル・マドリードのレジェンドであるミッチェルが監督として率いており、マドリード寄りのメディアはミッチェルを祀り上げた。またバルセロナの下部組織出身でトップチームで出場機会が少なく放出されたサンドロ・ラミレスに得点を決められたのも、敗戦の痛みを増幅させた。その黒星から3日後に行われたCL準々決勝ファーストレグ・ユヴェントス戦ではアウェイとはいえ、0-3と完敗を喫した。「パルク・デ・プランスの惨劇、再び」である。
敗戦後の話題はひとつに絞られている。
「バルセロナは再び逆転できるのか?」
地元メディアのインターネットアンケートでは、「No」と答える人が多い。大半の人が奇跡は2度も起こらないと考えている。ユヴェントスはパリ・サンジェルマンでない、という声が多い。今シーズンはCL9試合で2失点と堅守を誇る。また時間もない。パリ・サンジェルマン戦ではパリで大敗してから約1カ月の時間があった。その間にルイス・エンリケは3-4-3を導入し、成熟させた。また選手のメンタリティを入れ替え、逆転の下地を作ってきた。今回は敗戦からわずか1週間しか時間がない。
逆転に期待する人は「世界最高の選手メッシがいて、世界最高のストライカー、ルイス・スアレスがいて、さらにネイマールとアンドレス・イニエスタがいる。この陣容ならばユヴェントス相手でも4点を決められる」と語る。それに対して「前線の彼らにボールを届ける人がいないので、チームとして機能していない」と反論が挙がるが、「トリノではセルヒオ・ブスケツがいなかった。カンプ・ノウでは彼がいるから攻撃の組み立てには問題ない」というように、地元メディアでは毎日のように様々な意見が飛び交っている。だが、パリ・サンジェルマン戦前ほどバルセロナの街の期待が膨らんでいないのは確かだ。
3月8日に起こった奇跡は、4月19日にカンプ・ノウで再び起こるのか。
文=座間健司