メッシの活躍も実らず、今季のバルセロナはコパ・デル・レイ獲得のみにとどまった [写真]=VI Images via Getty Images
ルイス・エンリケ監督にとって最後となる試合であり、今シーズンのラストマッチで、またも実証されてしまった。
「バルセロナ=メッシ」
この方程式は「歴代最高のサッカー選手は誰か?」という不毛な議論で常に名前が挙がるアルゼンチン人選手の引退までずっと消えることはないだろう。
バルセロナはメッシの活躍もあり、コパ・デル・レイに勝利したが、半数以上のバルセロニスタはこのタイトルとスーペル・コパを獲得したシーズンに満足していない。最大のライバルであるレアル・マドリードがリーガ・エスパニョーラを制し、さらにはチャンピオンズリーグ(CL)連覇に王手をかけているという状況だ。もはやスペイン国内だけではなく、欧州の舞台でも常勝を義務づけられたクラブのサポーターが満面の笑みを浮かべているはずがない。
地元テレビ局やラジオ局は「新監督エルネスト・バルベルデに期待することは?」とバルセロナで街頭インタビューを行っていたが、大半の人の返答は「タイトル獲得」だった。彼らが口にする「タイトル」とはコパ・デル・レイでも、スーペル・コパでもない。リーガであり、CLのことだ。さらにそこにはある条件がつく。
昨シーズン、バルセロナはリーガとコパ・デル・レイの2冠を達成したが、バルセロニスタは素直に喜べなかった。なぜなら宿敵レアル・マドリードがCLを制したからだ。黄金期しか知らない若い世代は分からないかも知れないが、1992年のウェンブリー・スタジアムでロナルド・クーマンが決めたフリーキックで感涙した世代は、レアル・マドリードに対して強烈な劣等感にも似た嫉妬心があり、かつ悲観主義者だ。ゆえに彼らにとっての「タイトル獲得」は、バルセロナがリーガかCLを勝ち取り、かつレアル・マドリードが無冠、もしくはバルセロナよりも話題性がないタイトルを獲得したシーズンのことを指す。だからこそ、3冠を達成したジョゼップ・グアルディオラとルイス・エンリケはクレにとって忘れがたい監督となっているのだ。
今シーズンのバルセロナに最も納得していないのは、メッシではないだろうか。
昨シーズン、レアル・マドリードはCLを手にし、クリスティアーノ・ロナウドはポルトガル代表でのユーロ2016制覇もあり、バロンドールを獲得した。メッシは今シーズン、再度バルセロナを欧州王者に導き、バロンドールを獲得し、自分が世界最高の選手であることを改めて実証しようと強く望んでいたはずだ。公式戦59試合のうち52試合に出場し、出場時間は4452分とチームでも最も長く、54得点17アシストという文句のつけようがない結果を残した。リーガでは得点王となり、欧州のシーズンで最も得点を決めた選手に贈られるヨーロッパ・ゴールデンシューを獲得した。彼自身は得点やアシストだけでなく、チームが悪い時間帯を迎えると中盤に下がり、ゲームメイクに参加した。決して独りよがりではなく、チームの一員としても最高のパフォーマンスを示した。
だが、バルセロナはタイトルを勝ち取れなかった。CL敗退後には、メッシがチームメイトのクオリティを不満に思っており、力を発揮できない何人かの選手の放出を要求しているというニュースが報道された。本当かどうかは別にして、そのニュースは彼の気持ちを多少は代弁しているのかもしれない。今シーズンのバルセロナの総括で「最高のメッシがいながら、バルセロナはリーガもCLも勝ち取れなかった。彼の同僚はそんなシーズンを恥ずかしいと思うべきだ」と意見するコメンテーターもいたほどだ。
メッシとバルセロナは契約延長に向けて交渉を進めているようだが、もしかしたら彼は自身の年俸アップよりも、クラブに「勝てる陣容」を揃えるように要求しているのかもしれない。
文=座間健司
By 座間健司