レアル・マドリードにフリーで加わった選手たち [写真]=Getty Images
レアル・マドリードは3日、2023ー24シーズン限りでパリ・サンジェルマン(PSG)からの退団を発表していたフランス代表FWキリアン・エンバペの加入を発表した。
モナコを経て加入したPSGで世界のスーパースターへ変貌を遂げたエンバペは、かねてよりレアル・マドリードへの憧れを公言していた。2022年夏には加入目前に迫ったこともあったが、当時は実現せず。“白い巨人”の一員となる道は閉ざされたかに思えたが、2年後の今年夏、遂にスペイン行きが実現する形となった。
なお、エンバペはレアル・マドリードと2029年6月末までの5年契約を締結。フランスメディア『レキップ』やイギリスメディア『スカイスポーツ』など大手メディアの情報を総合すると、エンバペの年俸はグロス(総額)で3000万ユーロ(約51億円)から3500万ユーロ(約60億円)ほどの見込みだという。通常の年俸1500万ユーロ(約26億円)に加えて、契約金が総額1億ユーロ(170億円)以上と報じられており、この契約金を契約期間で分割した金額が年俸総額として大手メディアが報じている金額だ。
文字通り“大型契約”となったが、今回エンバペはPSGを退団した上での加入となるため、フリートランスファーの形となる。つまり、移籍金は発生しない。現在、『transfermarkt』でのエンバペの市場価格は1億8000万ユーロ(約306億円)となっているが、これに準ずる移籍金が発生しなかった分、レアル・マドリードはエンバペとの契約金に大金を投じることができたとも言える。
移籍金が年々高騰する傾向にある現在の欧州の移籍市場において、エンバペのようなスーパースターが“0円”で移籍をするのはレアケースだ。レアル・マドリードは“銀河系軍団”と呼ばれた時代から、スター選手の獲得に多くの資金を投じてきたクラブであるため、クラブの歴史に名を刻むような活躍を見せる選手がフリーで加わることは少ない。
とはいえ、フリートランスファーによってクラブに加入し、成功を収めた選手も存在はする。今回、1995年12月に「ボスマン判決」が認められ、フリー移籍が一般化した後の時代において、レアル・マドリードに0円で加わった選手たちを振り返ってみよう。
[写真]=Getty Images
■フェルナンド・モリエンテス
アルバセテでデビューを飾り、レアル・サラゴサで頭角を現したストライカーは、1997年夏にレアル・マドリードへ加わった。当時のクラブには元ユーゴスラビア代表のプレドラグ・ミヤトヴィッチやダヴォール・シューケルが在籍していたため、加入直後こそベンチを温める日々が続いたものの、モリエンテスは限られた出場時間でアピールに成功。ラウール・ゴンサレスとの2トップは国内屈指の破壊力を備え、3度もチーム内の得点王に輝くなど、その得点嗅覚を遺憾なく発揮した。
だが、2002年夏には“元祖”のブラジル代表FWロナウドが加入したことで、ポジション争いは一層激しくなり、2003年夏にはモナコへのレンタル移籍を決断。モナコではチャンピオンズリーグ(CL)の決勝進出に貢献する活躍を見せ、シーズン終了後にスペインへ戻ったが、FWマイケル・オーウェンの加入などもあって、なかなかポジション争いに絡むことはできなかった。スター選手を次々と獲得する“ギャラクティコ政策”のなかで、徐々に居場所を失い、2005年1月にはリヴァプールへ完全移籍している。レアル・マドリードでは、2度のラ・リーガ制覇や3度のCL優勝に貢献した。
■スティーヴ・マクマナマン
リヴァプールで活躍したサイドアタッカーのマクマナマンは、1999年夏にレアル・マドリードへフリーで完全移籍加入した。右サイドの2列目を主戦場として、加入1年目は多くの出場機会を獲得。CLでも決勝のバレンシア戦で、モリエンテスやラウールとともにゴールを決めるなど、“欧州制覇”に貢献した。
だが、MFルイス・フィーゴやMFジネディーヌ・ジダンといったスター選手が次々に加入してきたことで、徐々にベンチを温める機会が増えていく。“スーパーサブ”としての立場が続くなかでも、ピッチに立てば得意のドリブルで存在感を示したが、なかなか序列は上がらなかった。モリエンテスと同様に、“ギャラクティコ政策”の陰に隠れた選手となり、2003年夏、2度のラ・リーガ&CL優勝を置き土産にマンチェスター・シティへ旅立った。
■ダヴィド・アラバ
21世紀に突入してから、レアル・マドリードは前記の“ギャラクティコ政策”によって、資金を注入してスター選手を連れてくる時代が続いた。2000年代前半はフィーゴ、ジダン、ロナウド、MFデイヴィッド・ベッカム、オーウェンなどが毎夏の移籍市場ごとに加入。2006年2月にフロレンティーノ・ペレス会長が離れてからは、これほどまでに派手な補強が続いたわけではないが、ペレス会長が帰還した2009年夏の移籍市場では、FWクリスティアーノ・ロナウド、MFカカ、FWカリム・ベンゼマ、MFシャビ・アロンソなど、“新銀河系軍団”のはじまりと称されるような大型補強が施された。
その裏で、フリートランスファーで加入した選手も存在するにはしていた。2007年夏には、リヴァプールで活躍したGKイェジー・ドゥデク、ドルトムントで活躍したDFクリストフ・メッツェルダー、バルセロナで活躍したFWハビエル・サビオラらが0円で加わったが、彼らは“ピーク”を過ぎた選手でもあり、バックアッパーとしての起用がほとんど。メッツェルダーに関しては加入当初こそ定位置を確保したが、ケガに悩まされる期間が多く、気が付けばベンチを温める日々が続いていた。
その後もハミト・アルティントップのように、フリーで加わった選手もいたが、主力となった多くは移籍金を費やして獲得した選手、カンテラ(育成組織)出身の選手、もしくは若いうちに手頃な移籍金で獲得し、レアル・マドリードで育て上げた選手だった。
このような状況が続いており、2000〜10年代に0円で加入した選手が輝かしい実績を残したケースは少なかったが、2021年夏にフリーで加わったダヴィド・アラバは、そのような傾向を覆した選手と言える。バイエルンで数々のタイトル獲得に貢献した後、ドイツの“絶対王者”との契約満了に伴いレアル・マドリードへ加入すると、かつて本職としていた左サイドバックではなく、センターバックとしてレギュラーに定着。DFセルヒオ・ラモスが去った後の最終ラインを支えるリーダーに君臨し、初年度から公式戦46試合出場3ゴール4アシストを記録。同シーズンラ・リーガ&CL制覇に貢献した。
以降も不動のセンターバックに君臨し、チーム状況によっては左サイドバックも任されるなど、まさに最終ラインの柱として活躍。セットプレーにおけるキックの質も高く、印象的な直接フリーキックも決めてきた。2022-23シーズンはFIFAクラブワールドカップ、コパ・デル・レイ(スペイン国王杯)、そしてUEFAスーパーカップのタイトル獲得に貢献。ラ・リーガとCLの2冠を達成した2023-24シーズンもシーズン前半戦は期待通りの活躍を見せたが、左ひざ前十字じん帯断裂の大ケガにより後半戦を棒に振った。来季は個人として“復活”を期するシーズンとなる。
■アントニオ・リュディガー
アラバが加入した1年後、同じく最終ラインの主力として期待され、レアル・マドリード加入を果たしたのが、アントニオ・リュディガーだ。高さ、強さ、速さを兼ね備えたドイツ人センターバックは、1年目から公式戦53試合に出場するなど主力の座を確保。アラバ、DFエデル・ミリトンとともに強固な最終ラインを構築した。
2023-24シーズンはアラバとミリトンが長期離脱を強いられた関係で、シーズンを通して“フル稼働”。主に相方となったDFナチョ・フェルナンデスだけでなく、本職が中盤のMFオーレリアン・チュアメニとも最終ラインでコンビを組み、DFリーダーとして活躍した。今季のラ・リーガ、そしてCLのタイトルは、リュディガーなしには成し遂げられなかった。こう表現しても差し支えないほど、大きな貢献を果たした。
■久保建英
最後に紹介するのは番外編。2019年夏、FC東京からレアル・マドリードへ移籍した久保建英も、移籍金の発生しないフリートランスファーだった。久保はレアル・マドリードではシーズンを通して戦ったことはなく、マジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェとレンタル移籍を繰り返し、2022年夏には完全移籍の形でレアル・ソシエダへ加入した。
上で紹介してきた4人とは異なり、レアル・マドリード在籍期間に成功を収めたわけではない。だが、レアル・ソシエダでの活躍は周知のとおりで、今後“白い巨人”への復帰が実現する可能性も0とは言い切れないだろう。
ここまで、レアル・マドリードにフリートランスファーで加入し、大きな活躍を披露した選手たちを紹介してきた。レアル・マドリードは、クラブの補強戦略の面からもわかるように、0円で加入する選手の母数自体があまり多くはない。それでも、近年ではアラバやリュディガーのような“成功例”が存在している。今回加入が決まったエンバペは、彼らをも凌駕するパフォーマンスで、レアル・マドリードのクラブ史に名を刻む活躍が期待される。
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