ユーロ2016で史上初の3連覇を目指すスペイン代表 [写真]=Getty Images
5月17日、スペイン代表のビセンテ・デルボスケ監督がユーロ2016の出場メンバー23人の決定に先駆けた、25人の直前合宿招集メンバー発表した。
この時点でジエゴ・コスタ、パコ・アルカセル、サンティ・カソルラ、フアン・マタら常連組に加え、当落線上にいたマリオ・ガスパール、長期離脱を経て復活したハビ・マルティネス、シーズン終盤の復調により待望論が高まっていたフェルナンド・トーレスらが落選。一方でアリツ・アドゥリス、ブルーノ・ソリアーノら世論の後押しを受けていたベテラン、相次ぐケガで代表から遠ざかっていたチアゴ・アルカンタラ、そして初招集となるサウール・ニゲス(後に落選)とルーカス・バスケスの2人が滑り込んだ。
レアル・マドリーで貴重なバックアッパーとして重用されているルーカス・バスケスの抜てきも驚いたが、一番のサプライズはアルカセルの落選だ。
いまだ戦力として計算できないD・コスタが外れ、35歳にしてキャリア最高のパフォーマンスを維持しているアドゥリスが呼ばれたのは予想通り。だがバレンシアで不本意なシーズンを送ったとはいえ、彼は2年前のブラジル・ワールドカップ以降アルバロ・モラタとともに次代のラ・ロハを担うストライカーとして常に招集され、ユーロ予選を通してチーム最多の5ゴールを決めてきた。チームが低迷する中、バレンシアでもリーガだけで13ゴールを決めている。今回呼ばれたFWの中で彼を上回ったのは同20ゴールのアドゥリスだけだったのだ。
それにデルボスケはこれまで率いた計6回のコンフェデ杯、W杯、ユーロの全てでセンターフォワード(CF)を3人招集してきたのに、今回はまだ2人削らなければならない段階で2人(モラタとアドゥリス)しか呼んでいない。そして純正のウイングであるL・バスケス、サイドを主戦場としながら高い得点力を持つペドロ・ロドリゲスとノリートら、タイプの異なるアタッカーをこれほど多く組み込んだのも初めてのことだ。
これは恐らく、2014年W杯の反省を踏まえての選択だったように思える。同大会でグループステージ敗退に終わった要因の1つは、フェルナンド・ジョレンテの高さやヘスス・ナバスのスピードやドリブル突破といった、パスワークをベースとしたスペインの攻撃にアクセントを加えられる「プランB」の欠如だったからだ。そう考えると、空中戦の強さという他のFWにはない武器を持つアドゥリスは確定で、もう1枠にはボックス内のフィニッシャーであるアルカセルより機動力やスピードに優れたモラタを選んだと考えることができる。
それでも僅かなスペースを見つけてボールを引き出し、どんな態勢からでもゴールを奪えるアルカセルの得点能力は、ダビド・ビジャ以降コンスタントにゴールを決められるストライカーがいなかったラ・ロハに必要な武器だったと思う。国内最高の決定力を持つストライカーを手放したことで、スペインの得点はアドゥリス、モラタ両ストライカーに加え、セルタ躍進の原動力となったノリートの両足に大きく依存することになりそうだ。直前合宿で行われたボスニア・ヘルツェゴヴィナとの親善試合で2ゴールを挙げた後、地元紙に「ユーロの先発はノリート+10人」とまで言われた彼には、4-3-3の左ウイングとしてプレーしながら5ゴールを挙げた2010年大会のビジャのような活躍が期待されている。
その他の先発も大体は想像がつく。基本システムは4-3-3で、3トップは左ノリート、CFは相手や状況に合わせてアドゥリスとモラタを使い分け、右はダビド・シルバがファーストチョイスとなる。中盤のアンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケツと4バック(フアンフラン、ジェラール・ピケ、セルヒオ・ラモス、ジョルディ・アルバ)は確定。不確かなのは中盤のもう一枚とGKくらいだ。中盤はセスク・ファブレガス、コケ、チアゴと駒数が豊富で、4-2-3-1や4-4-2のバリエーションも含めて多彩な選択肢がある。
GKの先発はデルボスケが何を重視するかで決まる。これまでと同様、過去の実績を重んじるなら今大会が最後の大舞台となるイケル・カシージャスを使うだろうが、現時点でのパフォーマンスで選ぶならダビ・デヘアだ。2年前のW杯ではレアル・マドリードでプレー機会を失っていたカシージャスが致命的ミスを連発しただけに、今回は贔屓なしの采配に徹することが望まれている。
2位だとイタリアやベルギー、3位では開催国フランスと決勝トーナメント1回戦で当たってしまうだけに、グループステージの首位通過は必須だ。チェコ、トルコ、クロアチア。地味ながら手強いライバルが揃ったが、いずれも特別守備が硬い相手ではないため、相性は悪くない。オランダ、チリに連敗した2年前のW杯と比べればなおさらだ。
グループステージ敗退に終わった2年前のW杯では、悲願のチャンピオンズリーグ(CL)制覇を果たした直後のレアル・マドリード組に緩慢なプレーが目立ち、決勝で敗れたアトレティコ・マドリード組はケガと疲労で満身創痍、準々決勝で敗れたバルセロナ組もクラブでの不調を代表に持ち込んだ。そして奇しくも今回のCLでも同じ2チームが決勝に勝ち進み、120間の死闘を繰り広げている。その代償としてダニエル・カルバハルがケガで招集を辞退し、S・ラモスやフアンフラン、コケら中心選手が休む暇なく大会を迎えることになった。
それでも出番が少なかったL・バスケスはフレッシュで、バルサ勢も軒並み好調。ケガ明けのD・コスタやカソルラ、J・マルティネスらの招集を見送ったのも、2年前の失敗を繰り返さぬようコンディションが計算できる選手を優先した結果である。
選手の質は申し分なく、指揮官の人選には2年前の経験に学んだ跡が窺える。世代交代を進めてW杯やユーロの優勝を経験していない選手が増えたことで、2年前に指摘された野心の欠如もなさそうだ。これでアルカセルの不在を埋める得点源さえ出てくれば、史上初の3連覇もあるのではないか。
文=工藤拓