前評判こそ高くないが、堅守速攻を武器に頂点を狙うイタリア代表 [写真]=Getty Images
前回大会の準優勝国イタリアは、スペイン流のパスサッカーとの融合を試みた4年前から一転、堅守速攻に徹したカウンター特化型のチームとして、ユーロ2016に挑む。
番狂わせを狙うアッズーリを率いるのは、2011-12シーズンからセリエA3連覇を果たし、名門ユヴェントスを復活させた闘将アントニオ・コンテだ。代表合宿中、コンテは現チームのコンセプトを熱っぽく説いた。
「守備の文化こそ、我らイタリアの拠り所だ。しっかり守ることがカウンター攻撃の礎になる」
ワールドカップ王者ドイツや前回覇者スペイン、開催国フランスとの間にある戦力差は決して小さくない。彼らに抗うために、弱者の兵法としてのカウンター攻撃を突き詰めたとき、生命線となるのは水も漏らさぬ鉄壁の守備だ。
コンテは、ユーヴェ時代に重用した「3-5-2」を代表にも持ち込み、今シーズンに至るまでスクデット5連覇の立役者となった守護神と3人のセンターバックに全幅の信頼を寄せる。
イタリア紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は、本代表を「Made in Juventus」と言い表した。
代表の歴代最多出場記録を更新し続ける“鉄人”ジャンルイジ・ブッフォンとセリエA最強の防御を誇るBBCトリオ(アンドレア・バルザーリ、レオナルド・ボヌッチ、ジョルジョ・キエッリーニ)を合わせた4人のユヴェンティーノたちこそ、イタリア躍進の鍵を握るキーマンなのだ。
ユーヴェ・ブロックが自陣でボールを押さえた後、アッズーリが速攻に持ち込む手順は2つある。
一つ目は、リベロ役を務めるDFボヌッチが縦へのロングパスを長身FWグラツィアーノ・ペッレ(サウザンプトン)に当てて、中央から攻めるやり方。もう一つは、左右を走るMFマッテオ・ダルミアン(マンチェスター・U)かMFカンドレーヴァ(ラツィオ)にボールを渡して、サイドを一気に崩すパターンだ。
これに、小粒ながらシュート力のあるMFエマヌエレ・ジャッケリーニ(ボローニャ)やMFアレッサンドロ・フロレンツィ(ローマ)による裏からの抜け出しが、攻撃にアクセントを加える。
ただし、大量得点による大勝にはコンテは一切興味がない。“ウノ・ア・ゼロ(1-0)”でも泥臭く勝利をもぎ取る執念こそ、闘将が代表に求めるものだ。
スコットランドとのテストマッチにも、最少スコアと無失点で白星を挙げた。コンテ体制になってから「1-0」の勝利は5つ目だった。
アッズーリにとっての不安材料は、ゲームの組み立てを司る本職レジスタの不在だ。
予選を通してチームの中心となってきたMFクラウディオ・マルキージオ(ユヴェントス)やMFマルコ・ヴェラッティ(パリ・サンジェルマン)といった中盤のパサーが、相次いで故障離脱し、衰えの目立つMFアンドレア・ピルロ(ニューヨーク・シティ)もついに代表から漏れた。穴埋め役はともにベテランのMFダニエレ・デ・ロッシ(ローマ)とMFティアゴ・モッタ(パリ・サンジェルマン)で、本番での運動量に疑念が残る。
さらに、気がかりなのはFW陣の経験不足だ。予選を通じてコンビプレーの練度を深めてきたFWペッレとFWエデル(インテル)の先発2トップだが、所属クラブでの今シーズン後半戦の調子が今一つだったことと、初選出されたメジャー大会本番での緊張は避けられない。
2トップが不発だった場合にリザーブ組で期待したのは、個人技で状況を打開できるFWステファン・エル・シャーラウィ(ローマ)とFWロレンツォ・インシーニェ(ナポリ)の若手アタッカー2人だ。ともにスピードとテクニックを兼ね合わせたドリブルスキルを持ち、4-3-3か4-2-4へ戦術をスライドした際に有効なオプションへ成り得る。
4年前の大会でFWマリオ・バロテッリ(ミラン)とFWアントニオ・カッサーノ(サンプドリア)の“悪童コンビ”を擁し、準優勝を果たしたアッズーリは、二人の勢いをかって2年前のブラジルW杯に臨んだが、あえなく空中分解し惨敗した。智将チェーザレ・プランデッリが選手たちの自主性を過信し、ロッカールームの管理を緩め過ぎた結果、チームの和はボロボロに崩れていた。
“鬼軍曹”コンテは、決して同じ愚を繰り返さないだろう。
彼はU-23イタリア代表とサッスオーロのエースであるFWドメニコ・ベラルディを素行に問題ありと見て招集せず、ナポリ時代からセリエA屈指の3バックのスペシャリストであるDFパオロ・カンナヴァーロ(サッスオーロ)を、過去2年試そうとする素振りすら見せなかった。
代わりにセンターバックのバックアッパーとして招集したのは、かつてユーヴェで自ら鍛え上げたDFアンジェロ・オグボンナ(ウェストハム)だ。闘将は、己の信頼するメンバーで鉄の結束を作り上げ、ユーロを戦いぬく決意を固めているのだ。
カウンターサッカーへ特化したアトレティコ・マドリードやレスターのようなチームが、今シーズンの欧州サッカー界に波乱を起こし、痛快なサプライズをもたらした。ユーロでは、堅守速攻の源流を持つアッズーリが、彼らの成功に続く番だ。
グループEのシード国ベルギーはFIFAランク2位の強豪で、FWズラタン・イブラヒモヴィッチを擁するスウェーデンも侮れない。
だが、「ベスト8に入れれば上出来」と嘯く指揮官コンテの言葉を信用してはならない。野心を秘めたアッズーリ色の伊達男たちは、虎視眈々と上位進出を狙っている。
文=弓削高志
By 弓削高志