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【ユーロ制覇の条件】イタリア代表:堅守速攻に徹したアッズーリが“サプライズ”のシーズンを締めくくる

2016.06.13

前評判こそ高くないが、堅守速攻を武器に頂点を狙うイタリア代表 [写真]=Getty Images

 前回大会の準優勝国イタリアは、スペイン流のパスサッカーとの融合を試みた4年前から一転、堅守速攻に徹したカウンター特化型のチームとして、ユーロ2016に挑む。

 番狂わせを狙うアッズーリを率いるのは、2011-12シーズンからセリエA3連覇を果たし、名門ユヴェントスを復活させた闘将アントニオ・コンテだ。代表合宿中、コンテは現チームのコンセプトを熱っぽく説いた。

「守備の文化こそ、我らイタリアの拠り所だ。しっかり守ることがカウンター攻撃の礎になる」

 ワールドカップ王者ドイツや前回覇者スペイン、開催国フランスとの間にある戦力差は決して小さくない。彼らに抗うために、弱者の兵法としてのカウンター攻撃を突き詰めたとき、生命線となるのは水も漏らさぬ鉄壁の守備だ。

アントニオ・コンテ

コンテ監督は古巣ユヴェントスの守備陣に抜群の信頼を寄せている [写真]=Getty Images

 コンテは、ユーヴェ時代に重用した「3-5-2」を代表にも持ち込み、今シーズンに至るまでスクデット5連覇の立役者となった守護神と3人のセンターバックに全幅の信頼を寄せる。

 イタリア紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は、本代表を「Made in Juventus」と言い表した。

 代表の歴代最多出場記録を更新し続ける“鉄人”ジャンルイジ・ブッフォンとセリエA最強の防御を誇るBBCトリオ(アンドレア・バルザーリ、レオナルド・ボヌッチ、ジョルジョ・キエッリーニ)を合わせた4人のユヴェンティーノたちこそ、イタリア躍進の鍵を握るキーマンなのだ。

レオナルド・ボヌッチ ジャンルイジ・ブッフォン

主将のブッフォン(右)とボヌッチ(左)を中心とする守備陣が最大の武器 [写真]=Getty Images

 ユーヴェ・ブロックが自陣でボールを押さえた後、アッズーリが速攻に持ち込む手順は2つある。

 一つ目は、リベロ役を務めるDFボヌッチが縦へのロングパスを長身FWグラツィアーノ・ペッレ(サウザンプトン)に当てて、中央から攻めるやり方。もう一つは、左右を走るMFマッテオ・ダルミアン(マンチェスター・U)かMFカンドレーヴァ(ラツィオ)にボールを渡して、サイドを一気に崩すパターンだ。

 これに、小粒ながらシュート力のあるMFエマヌエレ・ジャッケリーニ(ボローニャ)やMFアレッサンドロ・フロレンツィ(ローマ)による裏からの抜け出しが、攻撃にアクセントを加える。

 ただし、大量得点による大勝にはコンテは一切興味がない。“ウノ・ア・ゼロ(1-0)”でも泥臭く勝利をもぎ取る執念こそ、闘将が代表に求めるものだ。

 スコットランドとのテストマッチにも、最少スコアと無失点で白星を挙げた。コンテ体制になってから「1-0」の勝利は5つ目だった。

 アッズーリにとっての不安材料は、ゲームの組み立てを司る本職レジスタの不在だ。

予選を通してチームの中心となってきたMFクラウディオ・マルキージオ(ユヴェントス)やMFマルコ・ヴェラッティ(パリ・サンジェルマン)といった中盤のパサーが、相次いで故障離脱し、衰えの目立つMFアンドレア・ピルロ(ニューヨーク・シティ)もついに代表から漏れた。穴埋め役はともにベテランのMFダニエレ・デ・ロッシ(ローマ)とMFティアゴ・モッタ(パリ・サンジェルマン)で、本番での運動量に疑念が残る。

マルコ・ヴェラッティ クラウディオ・マルキージオ

ヴェラッティ(中央)とマルキージオ(右)の離脱がチームに大きな影響を与えた [写真]=VI Images via Getty Images

 さらに、気がかりなのはFW陣の経験不足だ。予選を通じてコンビプレーの練度を深めてきたFWペッレとFWエデル(インテル)の先発2トップだが、所属クラブでの今シーズン後半戦の調子が今一つだったことと、初選出されたメジャー大会本番での緊張は避けられない。

 2トップが不発だった場合にリザーブ組で期待したのは、個人技で状況を打開できるFWステファン・エル・シャーラウィ(ローマ)とFWロレンツォ・インシーニェ(ナポリ)の若手アタッカー2人だ。ともにスピードとテクニックを兼ね合わせたドリブルスキルを持ち、4-3-3か4-2-4へ戦術をスライドした際に有効なオプションへ成り得る。

イタリア代表

4年前のユーロでは目の前で優勝カップをかげられた [写真]=Getty Images

 4年前の大会でFWマリオ・バロテッリ(ミラン)とFWアントニオ・カッサーノ(サンプドリア)の“悪童コンビ”を擁し、準優勝を果たしたアッズーリは、二人の勢いをかって2年前のブラジルW杯に臨んだが、あえなく空中分解し惨敗した。智将チェーザレ・プランデッリが選手たちの自主性を過信し、ロッカールームの管理を緩め過ぎた結果、チームの和はボロボロに崩れていた。

“鬼軍曹”コンテは、決して同じ愚を繰り返さないだろう。

 彼はU-23イタリア代表とサッスオーロのエースであるFWドメニコ・ベラルディを素行に問題ありと見て招集せず、ナポリ時代からセリエA屈指の3バックのスペシャリストであるDFパオロ・カンナヴァーロ(サッスオーロ)を、過去2年試そうとする素振りすら見せなかった。

 代わりにセンターバックのバックアッパーとして招集したのは、かつてユーヴェで自ら鍛え上げたDFアンジェロ・オグボンナ(ウェストハム)だ。闘将は、己の信頼するメンバーで鉄の結束を作り上げ、ユーロを戦いぬく決意を固めているのだ。

 カウンターサッカーへ特化したアトレティコ・マドリードやレスターのようなチームが、今シーズンの欧州サッカー界に波乱を起こし、痛快なサプライズをもたらした。ユーロでは、堅守速攻の源流を持つアッズーリが、彼らの成功に続く番だ。

クラウディオ・ラニエリ

レスターでサプライズを起こしたラニエリ監督はイタリア人 [写真]=Getty Images

 グループEのシード国ベルギーはFIFAランク2位の強豪で、FWズラタン・イブラヒモヴィッチを擁するスウェーデンも侮れない。

 だが、「ベスト8に入れれば上出来」と嘯く指揮官コンテの言葉を信用してはならない。野心を秘めたアッズーリ色の伊達男たちは、虎視眈々と上位進出を狙っている。

文=弓削高志

By 弓削高志

1973年生まれ宮崎県出身。地元の出版社を経て、2001年に単身イタリアへ渡る。以降、セリエAやチャンピオンズリーグ、イタリア代表を中心に取材している。イタリア在住スポーツライター。現地暮らしは23年目、『Sports Graphic Number』『SOCCER KING』等でサッカーから社会全般まで幅広く寄稿。

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