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【ユーロ制覇の条件】ドイツ代表:世界王者に課せられた優勝という使命…リーダー不在を埋められるか

2016.06.21

ポーランド戦を戦ったドイツ代表 [写真]=ムツ カワモリ

 現役ワールドチャンピオンという看板を引っ提げたドイツの目標――それは優勝以外にありえない。

 10日に開幕したユーロ2016。優勝候補の一角と目されるドイツと同じグループCには北アイルランド、ポーランド、ウクライナが同居している。ドイツは初戦でウクライナ相手に危なげなく白星を収め、第2戦のポーランドとはスコアレスドローに終わったものの、しっかりと勝ち点1を獲得した。開幕前、チームマネージャーのオリバー・ビアホフ氏、ヨアヒム・レーヴ監督、選手の誰もが「どの相手も油断できない」と話してはいるものの、元イングランド代表FWマイケル・オーウェン氏がスポーツ情報サイト『Sport1』に「ドイツはトーナメントに強いチームだ。少なくともワールドカップを制した時のような強さを備えている。多くの人はC組を『難しい組』と見ているけれど、ドイツは楽に首位通過を決めると私は予想している」と話したように、北アイルランドにしっかりと勝つことができれば、首位で決勝トーナメントへ進出する可能性は高い。

 昨年からレーヴ監督は従来の4バックだけでなく、本格的に3バックにも着手し、今年3月29日のイタリア戦ではその新システムで約21年ぶりに同国から白星を収めるなど、戦術の幅は広がりを見せている。また、FW陣にストライカータイプのマリオ・ゴメスが復帰したことで、MFトーマス・ミュラー、もしくはMFマリオ・ゲッツェを最前線に配置する0トップだけではなくなった。これら複数のオプションがきちんと機能し、使いわけることができれば、優勝へまた一歩近づくことになるだろう。ただし、レーヴ監督は前回大会準決勝で、それまで良い試合運びを見せていた陣容を突如変更し、自らの策に溺れてしまったという苦い過去がある。W杯を制し、名実ともに名将の仲間入りを果たした同監督が4年前と同じ轍を踏むとは考えにくいが、選手の力を信じて、真正面からぶつかっていってほしい。

マリオ・ゴメス

マリオ・ゴメスの復活が、チームにオプションをもたらした [写真]=Bongarts/Getty Images

 唯一気になる点といえば、それは大黒柱の不在だ。元主将DFフィリップ・ラーム、DFペア・メルテザッカー、FWミロスラフ・クローゼら3選手が、ワールドカップ・ブラジル大会後にドイツ代表からの引退を表明。本来であれば、ラームの後を継いでキャプテンとなったMFバスティアン・シュヴァインシュタイガーがチームをまとめるべきところだが、あいにく同選手は3月下旬に負った怪我からの復帰途中であり、コンディションはまだ完全ではない。すでにレーヴ監督はシュヴァインシュタイガーの代理として、同選手が試合に出ない場合、ユヴェントスに所属するMFサミ・ケディラ、またはバイエルンのGKマヌエル・ノイアーにキャプテンマークを巻かせる予定だそうだが、長らく同代表の支柱であった先述の3選手抜きで迎える初めてのビッグトーナメントにおいて、この「確固たるリーダーの不在」がどれだけチームに影響を及ぼすのか、一抹の不安を覚えてしまう。

ペア・メルテザッカー ミロスラフ・クローゼ フィリップ・ラーム

メルテザッカー(左端)、クローゼ(右から2人目)、ラーム(右端)らの穴を埋められるかがカギ [写真]=Bongarts/Getty Images

 さて、登録メンバーに目を移すと、しつがい骨脱臼を負ったMFイルカイ・ギュンドアン、恥骨炎を患っているMFマルコ・ロイスというドイツ代表常連の大会不参加が決まった一方で、レーヴ監督はシャルケからFWレロイ・サネ、ドルトムントからMFユリアン・ヴァイグル、そしてバイエルンからMFヨシュア・キミッヒら若手3選手を23人に加える決断を下した。サネはサイドを主戦場とし1対1の局面を打開することが可能で、ヴァイグルはボランチのバックアッパーを務める予定。また、キミッヒはジョゼップ・グアルディオラ監督のおかげで、本来得意とするボランチだけでなく、4バックのセンターバックや、3バックの右ストッパーを務めることもできるようになったユーティリティさが武器だ。代わり映えがさほどないドイツ代表にあって、彼ら若い選手が大会のラッキーボーイとなることができれば、優勝の可能性はより膨らむことだろう。

ヨシュア・キミッヒ

ユーティリティ性が武器のキミッヒ [写真]=Bongarts/Getty Images

 ドイツ紙『ヴェルト』とのインタビューに応じた元オランダ代表FWパトリック・クライファート氏も、ドイツのタイトル獲得に太鼓判を押している。

「現状では、ドイツより強いチームは見当たらない。2014年のW杯は順当な結果になったし、その時のメンバーの大部分は現在もチームに残っている。ユーロでも同じような成績を収められるのは当然だ。私は、全てのタイトルが選手を大きく変えてくれると思っている。W杯優勝であれば、その効果はおそらく絶大だろう。きっとドイツ代表の選手は、『自分たちは頂点に到達できる』という非常に大きな自信を持っているはずだ。『僕たちにはできる』、『僕たちは素晴らしい』、『フランスでもブラジルと同じような戦いができる』といった具合にね」

ドイツ代表

ドイツ代表は再び優勝カップを掲げられるだろうか [写真]=Getty Images

 開催国フランス、実力者スペイン、若手の台頭が著しいイングランド、そして堅守が武器のイタリアなど、頂きに到達するまでには数多くの難敵を倒さなければならない。しかし、本来のパフォーマンスを発揮することができれば、ドイツが優勝に最も近い国の1つであることに、変わりはない。

文=鈴木智貴

By 鈴木智貴

ドイツ在住。ライター兼サッカー指導者

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