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【ユーロ総括】ユーロ決勝で見えたフランス代表の課題と将来展望

2016.07.13

 ユーロ2016準決勝でワールドカップ王者のドイツを2-0で退けた瞬間、ファンやメディア、そして選手やスタッフたちの「フランスの優勝が見えた!」という期待のバロメーターは一気に上がった。

 もう一方の準決勝から勝ち上がるのは大会初出場のウェールズか、今大会でこのウェールズ戦まで90分での勝利が一度もなかったポルトガル。史上稀に見る激戦のトーナメントを勝ち抜いたフランスが「この両国ならば決勝で勝つことは十分可能」と考えるのも当然だった。

 しかし、“レ・ブルー(フランス代表の愛称)”は決勝戦でポルトガルに敗れた。

 「与しやすい相手」ということが慢心となって足元をすくわれたわけではない。リーダーが不在で、25歳のアントワーヌ・グリエスマンがけん引する現在の代表チームには、まだそんな余裕はないからだ。

 試合後に話を聞いた何人かのフランス人記者たちは、敗戦直後のショックもあったのだろうが、口々に、「弱者が優勝した。ポルトガルは自分たちからは何もせずに、待ち受けただけで勝ち逃げした」「フランスの方がチャンスは作れていたのに……」と批判的だった。下馬評では圧倒的に有利と見られていたフランスはなぜポルトガルに敗れたのか?

 まず最初に挙げられるのは主力選手が心身両面で疲弊していたことである。フランスにとって決勝進出へ、どうしても越えなければならなかった山場が準決勝のドイツ戦だった。選手は持てる精神力と体力をすべて出し尽くして戦い、事実上の決勝戦と言われた大一番を制することに成功した。

 しかし、勝利の代償は予想以上に大きいものだった。ポルトガルとの決勝戦では、グリエスマンやオリヴィエ・ジルーディミトリ・パイェにも明らかにいつものキレがなかった。

事実上の決勝戦と言われたドイツとの準決勝を制したフランスだがその代償は大きかった[写真]=Getty Images

事実上の決勝戦と言われたドイツとの準決勝を制したフランスだがその代償は大きかった[写真]=Getty Images

 そして、クリスティアーノ・ロナウドが早々に離脱したことも、フランスにとっては思わぬ痛手となった。絶対的な存在であるロナウドがいることを想定して組み立てられていたデシャン監督のプランが狂ってしまったからだ。

 ここで差が出たのが両指揮官の采配力だった。ポルトガルのフェルナンド・サントス監督は、25分にロナウドが退場した際、「ナニも下がる場面が多くなるだろうから、前線に残って、空中戦でもやりあえる選手が必要」と判断して、すぐにエデルを入れずにあえてリカルド・クアレスマを投入。79分になってサンチェスに代えてエデルを投入したが、その読みどおり彼は、延長戦後半、値千金などという言葉以上に価値のある決勝ゴールを決めた。

 一方でデシャン監督はすぐには動かなかった。フランスが終始試合を支配していたこともあったが、エンゴロ・カンテを送り込みブレーズ・マテュイディポール・ポグバに高い位置でより攻撃的なプレーをさせたり、アンドレ・ピエール・ジニャクやアントニー・マルシャルをもっと早い時間で投入するという選択肢もあったはずだ。

 もう一つ敗因を上げるとすれば精神的な支柱になれるリーダーの不在だ。延長戦になってベンチに戻ってきたロナウドが、サントス監督を押しのけてまで(スタッフに注意されながらも)指示を飛ばしていたが、フランスにはピッチで味方を鼓舞するリーダーがいなかった。今大会のMVPとゴールデンブール賞をダブルで受賞したグリエスマンはリーダーとしての素質はあるが、精神面でリーダーシップを発揮することはできなかった。

グリエスマンはピッチ上でのプレー面でも期待の面でも多大なものを背負っていた [写真]=Getty Images

グリエスマンはピッチ上でのプレー面でも期待の面でも多大なものを背負っていた [写真]=Getty Images

 しかし、今回のフランス代表には確実にポテンシャルと魅力がある。現地メディアの報道でも、時間がたつにつれて「もっとこのチームを見続けたい」「終わってみれば収穫の多い大会だった」と、ポジティブなものばかり。ここまで国民に愛されている代表は98年のW杯優勝メンバー以来だろう。

 2年後のW杯ロシア大会へ向けての課題は、グリエスマンのリーダーとしてのさらなる成長。より実質的な点では、両サイドバックの補強だ。

 35歳のパトリス・エブラは代表引退が噂されており、33歳のバカリ・サニャもとっさの反応で遅れをとる場面が目立つ。センターバックには負傷中のラファエル・ヴァランも戻るし、今大会でA代表デビューしたサミュエル・ウムティティという有望株もいるが、サイドバックの人材難は現フランス代表の泣き所なのだ。

 この大会前、方々から「人種差別」と批判されながらも、信頼を置いていたFWカリム・ベンゼマを外す苦渋の決断をしたデシャン監督の判断も正しかった。

 この決勝戦に関しては采配面でもサントス監督に軍配が上がったが、そういった責任を背負えるデシャン陣営のまま次回のW杯に臨めるなら、レ・ブルーはその時こそ本当に揺るぎない力を携えて優勝候補として挑めるはずだ。

 挫折とは、さらに大きくジャンプするための、助走なのだから。

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