ユーロ決勝で敗れたフランス代表だが今大会の戦いぶりは将来へ向けて大きな期待を持たせるものだった [写真]=Getty Images
月曜日の朝、フランス人の多くが、改めて悲しい現実をつきつけられた。前夜の出来事は、決して悪夢ではなかった。テレビでは、フランス代表の決勝敗退が、繰り返し語られていた。全国のあらゆる新聞は、一面に、悲鳴のような大見出しをつけた。
「打ちのめされた者たち」(全国スポーツ日刊紙『レキップ』)
「あまりに残酷な」(南部地方紙『デペッシュ・デュ・ミディ紙)
「夢破れて」(北部地方紙『ヴォワ・デュ・ノール』)
「心が砕け散った」(南西部地方紙『シュド・ウェスト』)
「青い夢は飛び去った」(東部地方紙『クリエ・ド・ルェスト』)
「なんという失望か」(北中部地方紙『クリエ・ピカール』)
「まるで青あざのように」(全国日刊紙『リベラシオン』)
ただ、ひとつだけ、こんな見出しも。
「このひと時を、ありがとう」(全国日刊紙『リュマニテ』)
そしてこれが、フランス国民の、ほぼ総意に違いなかった。決勝の翌日、フランス代表の選手・スタッフ全員を官邸に招待した際に、共和国大統領フランソワ・オランドは国民を代表してこんな言葉を告げた。
「君たちは賜杯を持ち帰ることはできなかったが、我々の心を勝ち取った。これは値段がつけられないほど、価値あることである。本当にありがとう」
官邸裏口で出待ちをしていた何百人もの熱心なファンたちも、ひっそりと走り去るミニバンに向かって、惜しみない拍手とともに、こんな声援を飛ばした。
「ありがとう、レ・ブルー!」
誰もが悲しみに打ちひしがれていたけれど、そこに怒りの感情はなかった。2006年ワールドカップ決勝敗戦後は、フランス国内に批判の嵐が吹き荒れたものだ。2010年W杯では、練習「ストライキ」のいざこざの果てにグループリーグ敗退となり、国民は怒りを通り越して選手たちに憎しみを抱いた。ただし、今回のフランスは、むしろ感謝の気持ちでいっぱいだ。
フランスがこれほど代表を愛したのには、複数の理由が考えられている。やはり一番は、複数のテロで痛めつけられた国民の心に、明るい話題を振りまいてくれたこと。また1998年・2000年の栄光の時代を築いたフランス代表が、「ブラック・ブラン・ブール(黒・白・茶)」と呼ばれ、なんとなく政治的に利用されてしまったのに対して、今回の代表は純粋なスポーツチームとして扱われてきたこと。2010年大会以降失った信頼を取り戻すため、代表が「全国巡業」を熱心に行ってきたこと。パリや大都市だけでなく、小さな都市でも試合を行うことで、フランスの隅々まで「われらの代表」という意識が根付いたと言われている。
なにより、2年後のワールドカップに向けても明るい希望が見えた。アントワーヌ・グリーズマンが現在25歳、ポール・ポグバは23歳と、2人のリーダーが非常に若い。2018年はさらに経験を積み、成熟したリーダーになっているはずだから。
「あとたったの17試合で、フランス代表は世界チャンピオンになるのだ」(日曜新聞『ジュルナル・ド・ディマンシュ』)
さらに日刊紙『ル・モンド』も、バルセロナの新聞『ラ・バングアルディア』から、こんな一節を抜き出した。
「このフランス代表は、将来、トロフィーを掲げ上げる機会を幾度となく持つことだろう」
サッカーメディアの大家『フランス・フットボール』紙は、さっそく読者アンケートを開始した。「フランス代表は2018年ワールドカップを勝てる?」、そんな問いかけに、53%がOui(YES)と前向きに答えた(7月12日現在、回答者数7594人)。
ロシアまでの旅を指揮する、監督のディディエ・デシャンも、確かな口調で述べている。
「今回のユーロをスタッフと共にしっかり分析して、2年後に待つ大会に向けて再スタートを切る。なによりこの大会は、将来に向けて、素晴らしい見通しをいくつも感じさせてくれた。そのことを僕は忘れない」
By WOWOW