来シーズンからライプツィヒに移籍するゼルケ [写真]=Bongarts/Getty Images
文=鈴木智貴
先日、ブレーメンから驚きのニュースが届いた。
U-19ドイツ代表として2014年のU-19欧州選手権優勝を果たし、今シーズンはブレーメンの主力にまで成長したFWダヴィー・ゼルケの、RBライプツィヒ移籍が決定したのだ。契約は2015年7月1日から2020年6月30日まで、移籍金は800万ユーロ(約11億4000万円)だという。
同クラブのファンが「期待の若手」と暖かく見守ってきただけに、トップチーム定着からたった1年での移籍、それも資金に恵まれ近年急激に力を伸ばしているブンデスリーガ2部ライプツィヒへの移籍は、彼らにとって裏切り以外の何物でもなかった。移籍の一報が流れると、フェイスブックのゼルケ公式ページはたちまち炎上。『地獄に落とす』、『金の亡者』、『2部がお似合い』などといったファンからの書き込みで溢れかえり、クラブハウス付近ではボディーガードもつく有様だった。
ファンの怒りは首脳陣の予想をはるかに超えていたため、スポーツディレクターのトーマス・アイキン氏は「ダヴィーを守ることが我々の任務」と急遽コメントを発表。またヴィクトール・スクリプニク監督も「サポーターのみんなには理解してほしい」と懇願しているが、この騒動はなかなか収束する気配がない。
しかしドイツ紙『ビルト』はこの移籍劇について、「実はブレーメンにとっても良かったはず」と見ている。その理由はこうだ。
【1】移籍によって得られた利益
ブレーメンは2013年、当時ホッフェンハイムの育成部門にいたゼルケを5万ユーロ(約650万円)で購入。今回の売却が800万ユーロであったことから、その金額は2年で160倍にまで膨れ上がっている。もちろん今後、同選手の価値がさらに上がる可能性もあったわけだが、20歳の若者に同等の価値が付く例は決して多くない。「サッカーも商売の1つだ」と話すアイキンSDにとっては、願ってもない金額だっただろう。
【2】ブレーメンの哲学
2000年代中頃、ドイツ代表FWミロスラフ・クローゼ、同MFトルステン・フリンクス、ブラジル代表MFジエゴ、フランス代表MFヨアン・ミクー、ブラジル人FWアイウトンら、各国代表を擁し、超攻撃的なサッカーでブンデスリーガを席巻したブレーメンだが、現在は優勝を争うどころか、若手が経験を積み、名前を売るためのクラブになってしまった。【1】に通じてくる点であるが、才能あふれる選手をいかに高い値段で移籍させることができるかが、今やブレーメンの哲学になっている。
【3】FWディ・サントの存在
ブレーメンにとってFWのファーストチョイスがアルゼンチン人FWフランコ・ディ・サントであるのは疑いようのない事実。同選手に移籍の噂がないわけではないが、今シーズン終了後には、2016年まで結ばれている契約を延長するか、もしくはゼルケ以上の大金を残してチームを去るだろう。“育成型クラブ”ブレーメンにはどちらに転んでもプラスに作用する。
2部ライプツィヒの王様のままで終わるのか、それとも数年後にまたそこから羽ばたいていくのか。来シーズン以降ゼルケが見せるパフォーマンスに注目したい。
By 鈴木智貴