“レヴィア・ダービー”開始前、両チームサポーターを隔てる警備員 [写真]=Bongarts/Getty Images
文=鈴木智貴
ビール片手にサッカー観戦――そんなありふれた光景が、一部で見られなくなるかもしれない。
ドイツ誌『レビア・シュポルト』など複数メディアが伝えたところによると、ドイツ内務省が再び、同国サッカー界における暴力根絶に向けて動き始めたという。マインツで開かれた会議の中で、「アルコール類の販売禁止、そしてアウェーファンの数を削減する」という案について議論したのだ。
ラインラント・プファルツ州の内務大臣ロガー・レベンツ氏は「仮にアウェーファンが少なくなれば、ホームのファンとの緩衝帯が広く保たれ、暴力沙汰が起こりにくくなる。さらにアルコールの販売も禁止すれば、スタジアム内及び周辺での安全につながるはずだ」と話し、日本代表MF香川真司が所属するドルトムントと日本代表DF内田篤人のシャルケによる“レヴィア・ダービー”や、日本代表FW大迫勇也とMF長澤和輝所属のケルン対ボルシアMGの“ライン・ダービー”、ハンブルガーSV対ブレーメンによる“北部ダービー”などの因縁の対決に加え、ドルトムント対バイエルンなど注目度が高い試合についてのみ対象とする予定だ。
しかしこの案に反対するのは、ドイツサッカー連盟(DFB)やドイツ連邦政府の援助も受けている団体『ファンプロジェクト・コーディネーション(KOS)』のミヒャエル・ガブリエル氏。
同氏は「その方法で効果があるとは思えない。むしろファンとの対立を生むだけだ。そもそも暴力を振るいたい人間は、基本的にアルコールを飲まずに暴力を犯す。大多数のファンは、1回のサッカー観戦で1杯しかビールを飲まないんだよ」とコメントし、悪質なサポーターは酔っ払った状態ではなく、あくまでシラフの時に、いわば確信犯的に問題行動を起こすとしている。
またDFBの安全課でトップを務めるヘンドリク・グローセ・レファート氏も「我々のスタジアムは世界で最も安全だ。それを確保する能力に長けていることは間違いない」と自負しており、レベンツ大臣の意見に反対姿勢を貫く構えを崩さない。ただし、昨今ベンガル花火や爆竹の使用が増加傾向にあることは認識しているようで、「クラブもファンも警察も、まずはサッカーを第一に考えてほしい」と、スタジアムの平和を継続するよう、各自へ理解を求めている。
ドイツのファンはアウェーの地にも“応援旅行”に行くのが慣例で、チャンピオンズリーグなどの国際大会でも、3000~5000人のサポーターがユニフォームを身にまとい国境を越えていくことも珍しくない。ブンデスリーガでも、収容人数の10%以上をアウェーファンに与えなければならないと定められているほどだ。しかし(危険度の高い試合に限り)内務省はこれを5%から、最悪の場合には0%まで削減することも予定している。
観戦文化を守るのか、安全第一を貫くのか、それらをうまく両立させられるのか――好景気に沸くブンデスリーガにとって1つの試練となりそうだ。
By 鈴木智貴