警告を受けるダルムシュタットMFラウシュ [写真]=Bongarts/Getty Images
20日のブンデスリーガ第22節で、首位をひた走る王者バイエルンに挑んだ昇格組ダルムシュタット。ミュンヘンの地で先制点を決めるという驚きをもたらしたものの、後半バイエルンに3得点を決められ、1-3の敗戦に終わってしまった。ただし、この結果もダルムシュタットからすれば、極めて予定通りの事だったのかもしれない。
彼らに“ある疑惑”が生じたのは、13日に開催された第21節レヴァークーゼン戦のことだった。
37分、MFジェローム・ゴンドルフがスイス代表FWアドミル・メフメディにファウルを犯し、同選手は今シーズン通算5枚目の警告を受けた。ただしこれはあくまで、その試合における戦術的なもの。ダルムシュタットが1-0でリードしていたため、ゴンドルフの頭には「先制点を死守する」という考えがあったと見るのが妥当だろう。
しかしその後、DFアイタク・スルのオウンゴールで同点になると、77分にはMFユリアン・ブラントに逆転弾を許し、レヴァークーゼンに試合をひっくり返されてしまう。すると84分のスルに始まり、85分にMFマルセル・ヘラー、88分にMFペーター・ニーマイヤー、そして90分のMFコンスタンティン・ラウシュと、ダルムシュタットの選手たちは、故意に見えなくもない不用意なファウルを連発。たった6分間で4選手が、今シーズン通算5枚目、ないし10枚目のイエローカードを受けている。(※累積警告5枚で次節が出場停止になる)
主将のスルは「終盤は慌ただしかった」と試合後に語ったが、「慌ただしい」の一言で片付けるにはいささか無理がある。また、ニーマイヤーがファウルを犯した後、レヴァークーゼンのロジャー・シュミット監督が「ありえない!」と憤慨していると、ダルムシュタットのディルク・シュスター監督は怒り心頭の敵将に近寄り、耳元で何かをささやいていた。もちろんそのシーンもTVカメラにばっちり捉えられている。
同監督は試合後、CS放送『Sky』のインタビューで、「彼(シュミット監督)に『ビールを1杯おごる』と伝えただけだよ」とほほ笑み、『ビルト』紙の「警告をもらうように命令したのか?」という問いかけには、「ノー」と答えるだけだったが、真相は推して知るべしといったところだろうか。
残留を至上命題とするダルムシュタットが、バイエルン戦よりも、その翌節にある16位ブレーメン戦や、それ以降の戦いに重きを置くのはむしろ当然のこと。今後迎えるだろう1部残留の正念場でベストメンバーを揃えるため、今のうちに累積警告を消化しておきたいと考えるのは、ある意味で筋が通っている。
現地サッカーファンもダルムシュタットに対しては寛容な姿勢を見せている。ドイツ紙『ビルト』のオンライン調査では約1万9000の投票があり、そのうち71パーセントが彼らを「クレバー」と判断。「アンフェア」の29パーセントを大きく上回る結果となった。ファウルを犯し警告をもらうことは、もちろん褒められたものではない。だが、そこが過酷なプロの世界である以上、こういった“グレーゾーン”を利用することも少なからず必要となってくる――そんなファンの声が聞こえてきそうだ。
文=鈴木智貴
By 鈴木智貴