2人のレジェンドが現役ラストマッチに臨む [写真]=Getty Images
フィリップ・ラームと、シャビ・アロンソ。5月20日、ブンデスリーガ最終節のフライブルク戦で、バイエルンが誇る2人の偉大なリーダーが華々しい現役キャリアに幕を下ろす。
11歳からバイエルンに在籍する33歳のキャプテン、ラームは万感の思いでアリアンツ・アレーナを見つめるのだろう。下部組織で実力を磨き、シュトゥットガルトへの武者修行で自信をつかむと、ケガの苦難も乗り越えて、超一流がそろうバイエルンでレギュラーの座をつかんだ。
だが、ラームはまさに「遜色なく」プレーできる選手だった。ビセンテ・リザラスやマルセル・ヤンセンが左にいれば、右でバランスを取った。左の誰かがケガをすれば、右をウィリー・サニョルに任せてそちらをカバー。右にクリスティアン・レルのような若手が台頭すれば、また左に回る。大男がひしめくブンデスリーガで、170cmの小柄な男は頭脳とテクニックをフル稼働しながら自分の役割をまっとうし、チームを助けてきた。
また、ラームがデビューした2000年代初め頃のサイドバックと言えば、元ブラジル代表のロベルト・カルロスやカフーに代表される超攻撃的なアスリートタイプが花形だった。圧倒的な運動能力でタッチライン際を絶えずアップダウンし、スピードやパワーといった“一芸”でウインガーのように攻撃でも主役になる。そんなタイプが主流の中で、ラームは他の選手とは違う一芸、つまりサッカーIQの高さを武器に、次のトレンドを作った選手ではないだろうか。ポジショニングやタイミングの妙を熟知し、巧みに試合の流れを読み、影ながら試合をコントロールする。サイドバックは戦術のキーマンであり、影の司令塔————。昨今はそんな表現もしばしば聞かれるようになったが、その先駆けこそラームだったように思える。
2013年、バイエルンにやってきたジョゼップ・グアルディオラ監督の“アンカー起用”が、その評価を確固たるものにした。「これまで出会った中で最も聡明な選手」とラームを評した天才指揮官は、その知性をより引き出した。サイドバックに戻った後も、左のダヴィド・アラバと共に、タッチライン際ではなく中央に動いてボランチのように振る舞うラームの姿はすっかりお馴染みになり、彼は近代フットボール史における「サイドバック進化論」の1ページにその名を刻んだのだ。
もう1人、近年のフットボール界で“知の巨匠”として名を馳せた選手を挙げるなら、シャビ・アロンソだろう。生まれ故郷バスクのビーチで幼馴染みだったミケル・アルテタと一緒にテクニックを磨き、レアル・ソシエダでプロになると、2002-03シーズンに大きな転機を迎える。このシーズン、ダルコ・コヴァチェヴィッチ&ニハト・カフヴェジの“凸凹2トップ”にヴァレリ・カルピン、フランシスコ・デ・ペドロの両翼が素晴らしい攻撃力を発揮したR・ソシエダは、銀河系軍団レアル・マドリードに真っ向勝負を挑んだ。熾烈な優勝争いの末、惜しくもあと一歩で優勝には届かなかったが、そのサクセスストーリーは昨年の“ミラクル・レスター”を思わせるものだった。
そんなチームで、弱冠20歳にして絶対的な司令塔を担っていたのが、シャビ・アロンソだった。長短のパスを自在に操る姿にはヨーロッパ中のビッグクラブが注目し、そんな彼を2004年の夏に射止めたのが、ラファエル・ベニテス監督のリヴァプールだった。
プレミアリーグでは、フランク・ランパードのハードタックルを食らって足首を骨折するなど、“イングランド式”の洗礼も浴びた。それでも、加入1年目からUEFAチャンピオンズリーグ決勝に出場し、ゴールを決めて「イスタンブールの奇跡」に貢献すると、その後もプレミアのフィジカル主義に屈することなく、多彩なパスでファンを魅了し続けた。在籍中、実に2度も決めたセンターサークル付近からの“超ロングレンジゴール”は、今もプレミアのファンにとっては語り草だ。
「ピッチ上ではエレガント。ピッチ外ではジェントルマン。隣で一緒にプレーできて光栄だったし、君がレッズを去ってからは寂しい毎日だった」
これはスティーヴン・ジェラードがシャビ・アロンソの引退発表を受けて寄せたコメントだ。盟友に先駆けて昨年末に引退したマージーサイドの英雄も、常に冷静沈着で知性にあふれたシャビ・アロンソのプレーに首ったけだったのである。
その後も、R・マドリードではジョゼ・モウリーニョ監督、バイエルンではグアルディオラ監督やカルロ・アンチェロッティ監督と、仕事を共にした名将たちは誰もが彼の技術と知性に惚れこんだ。とりわけ、シャビ・アロンソ自身が“ピボーテ”としてお手本にしてきたペップのチームでプレーした2014年には、1試合のボールタッチ数でブンデスリーガ新記録を樹立したことが記憶に新しい。彼もまた、小柄なラームと同じように、決してスピードや身体能力に恵まれた選手ではなかった。それでも、インテリジェンスとスキルがあれば、どれだけ年齢を重ねたとしても、試合のリズムを完璧に支配できるということを証明してみせたのだ。
ともに、2014年ブラジルワールドカップを最後にドイツ、スペインの代表を退いていたから、シューズを壁にかける日もそう遠くないことは想像できていた。しかし、今シーズンもそろって公式戦30試合以上に出場し、まったく衰えを感じさせないパフォーマンスを見せてきたことを考えれば、やはり彼らの引退には寂しさを感じざるをえない。
それでも、ワールドクラスのままキャリアの幕を引くことを決めたからこそ、その勇姿はファンの心に鮮明なイメージとして残り続けるのだろう。2人の名手が、ピッチで見せるラストダンス。しっかりとその目に焼き付けよう。
(記事/Footmedia)
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