シャヒンがドルトムント復帰やバス襲撃事件について語った [写真]=Dortmund/Getty Images
トルコ代表MFヌリ・シャヒンがドルトムントとの“真実の愛”、レアル・マドリード移籍やドルトムント復帰の裏側を明かした。
シャヒンは14日、アスリートの生の声を届けるメディア『プレイヤーズ・トリビューン(The Player’s Tribune)』に寄稿。ツイッターに「シーズンが始まる前に、1つのストーリーを共有したい」と投稿し、『Echte Liebe』(ドイツ語で、真実の愛の意。ドルトムントのモットー。)というタイトルの文章を紹介した。
生粋の“フットボールオタク”というシャヒンは、ドルトムントの下部組織で育った。念願のプロデビューを飾ると、本拠地ジグナル・イドゥナ・パルクにできる“黄色の壁”を見上げた。そこは自分の家以上の存在であり、自分の人生だった。しかし同時に、幼い頃に抱いたレアル・マドリードへの憧れを捨てることができなかった。ボールボーイを務めたドルトムント対レアル・マドリードの試合で、シャヒンはルールを破って選手に近づいた。銀河系軍団の白いユニフォームに触れて、シャヒン少年は「いつかこのチームでプレーする」と誓った。
唐突に舞い込んだ代理人からのレアル・マドリードへの移籍話。愛するクラブでブンデスリーガを制覇したシャヒンは幸せの中にいた。もうすぐ新しい命が生まれるという状況で、シャヒンは悩んだ。ユルゲン・クロップ監督との忘れられない会話を経て、マドリードに行くことを決めた。しかし異国での新生活は望んだようにはいかない。
🇪🇸少年の夢🇩🇪
シャヒン、レアル移籍の裏側を語る…「一生忘れない」というクロップ監督の言葉とはhttps://t.co/3QTLHmf2aN🗣️編集部より
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— サッカーキング (@SoccerKingJP) August 15, 2017
「妊娠4カ月だった妻と一緒にマドリードに行った。それはどこか人生をやり直すようなものだった。スペイン語は話せたけど、妊婦が異国で生活することは簡単ではなかった。そして初めての練習でケガをしてしまった。スペインでの生活は思ったようには始まらなかった」
「2011年の9月、僕たちに子供が誕生した。元気な男の子だった。父親になれることを感謝した。僕の母や義理の母もマドリードまで訪ねてきてくれたが、彼女たちが居る間、どれだけあの街に恋い焦がれていたか気づかされた。ドルトムントはただの街やクラブではなく、とても大事な人たちがいる場所だった」
「復帰のためにできる限りを尽くした。しかしレアル・マドリードは順調にポイントを積み重ねていて、良い状態のチームに入るには簡単なことではなかった。僕は6カ月間離脱した。復帰まであとわずかに迫ったとき、ドルトムントが電話をくれて、戻る気はないかと尋ねてきた。ただ諦める訳にはいかなかった。あのときのレベルに戻るため、リヴァプールにレンタルで行くことを選んだ」
「イングランドではさらに故郷から遠ざかっているように感じた。上手く、フットボールができなかった。何かがフットボールから失われていた。なぜだか理解できなかった。ふと、答えが降ってきたような気がした。フットボールは何一つ欠けていなかった。失ったのは、僕の人生だった。再びドルトムントで、家族の一員にならなくてはと感じた。そこにいる人たちこそが、僕がプレーする理由だった」
「代理人が何回か電話を掛けてくれた。数週間して、僕は家路についていた」
「あの“黄色い壁”がどう受け入れてくれるかは正直分からなかった。レアル・マドリードへの移籍が彼らを傷つけたことも分かっていた。復帰して初めての試合は途中から出場した。サイドライン際でウォーミングアップをして、ピッチに入ろうかというときに、ユルゲンが僕を呼んだ」
『ヌリ、目を閉じてみろ。聞こえるか?』
「黄色の壁を向いて、目を閉じた。彼らは僕の名を歌っていた」
「『みんな、君を嫌いになったと思っていたよ』とユルゲンはそう言ってあの豪快な笑顔を見せた。それから僕の髪をもみくちゃにして、ピッチへポンッと背中を押した。スタジアムは爆発しそうだった」
「僕は理解した。ドルトムントのみんなと僕の結びつきは、誰にも壊せない」
「“Echte liebe” これは真実の愛、いかなるときも愛する、ということを意味する。これがドルトムントの魂であり、強さの源だ」
「そしてそれをあのバス襲撃事件のあとに強く感じた」
「僕たちはあの次の日に試合をしなくてはならなかった。分かって欲しい。ボルシア・ドルトムントのためにチャンピオンズリーグを戦うことずっと夢見てきた。どの試合だって僕には特別なものだった。それが僕がピッチに立つ理由だった。でもその夜は…違った。試合前はまともに集中することができなかった。ずっと、息子と妻のことを考えていた。彼らは大丈夫か? 僕が家に居た方が良かったかな? 僕は散り散りだった」
「ピッチにでて、いつも通り、黄色の壁を見上げた。その夜、今まで見たもので一番、美しいものを見た。みんなが一体となって、スタンドの一番上から一番下の人まで“BVB”の文字を作り上げていた。ただひたすら、美しかった。そしてそれは、ほんの少しかも知れないけど、『きっと全部、うまくいく』と思わせてくれた」
「その試合の最初はベンチに座っていた。後半に出るまで、試合のことは考えられなかった。家に帰って、家族に会いたかった。スタジアムのみんなに家に戻って、愛する人と過ごして欲しかった。試合に入ってようやく集中できたが、それはいつもとは違った。今までで一番難しい試合だった」
「家に着いたとき、妻が昨日のことについて話したいかと聞いてきた。僕はあの事件が僕の一部になったと伝えた。あのバスでの出来事は一生僕について回る。あれは僕という人間を変えてしまった。これからの自分も」
「あの瞬間の恐怖は一生忘れることができない。ただ同時にクラブと街の対応をとても誇りに思う。モナコのファンの温かさ、街の連帯、事件から24時間も経っていない状況でのスタジアムのサポート。ただただ素晴らしかった。」
「僕たちみんなが知っていたからできた」
「愛すること、いついかなるときも」
「Echte liebe」
By サッカーキング編集部
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