試合後は愛情たっぷりのブーイングを浴びせていた [写真]=Getty Images
こんなことになるなんて、想像もしていなかった。バイエルンがドルトムントに圧勝すること? いいや、90分間で6ゴールが生まれたのに、一度もガッツポーズをせずに人生初のアリアンツ・アレーナを後にしたことだ。
日本代表のベルギー遠征が終わってからも、私はヨーロッパに残って日本人選手を中心に取材を続けている。せっかくの滞在だからと、ドイツではバイエルン対ドルトムントをスケジュールに組んでいた。しかし事前の取材申請は「turned down」という機械的な一言で却下。それならば、とミュンヘン市内のスポーツバーで観戦することにした。
今回のデア・クラシカーは、他会場の結果次第でバイエルンの優勝が決まる可能性があった。画面越しでしか見たことがないキラキラとした演出や熱狂に沸くスタジアム。前人未到の6連覇達成を現地で体感できる日本人がどれほどいるだろうか……。そんなことを考えていると、いてもたってもいられなくなり、試合当日に諦め9割でチケットを探してみる。ん? まだ余っている?
結論から言うと、チケットは手に入った。でもそれは黄色いチケットだった。そう、ゲットできたのはドルトムント側の席。まさかコアなサポーターの横で、しかも90分間立ちっぱなしで試合を観戦することになるなんて。
キックオフ前からビールという名のガソリンを注入したおじさんたちの野太い声が飛ぶ。開始5分でロベルト・レヴァンドフスキにゴールを決められてしまったけれど、彼らが動じることはない。14分にハメス・ロドリゲスに追加点を許してもまだまだ。その9分後に再び失点すると、さらに声量を上げて選手たちを鼓舞する。
正直、この時点で試合は決まったも同然だった。ドルトムントのパフォーマンスはお世辞にも良いとは言えなかったし、バイエルンには隙がなかった。それでもおじさんたちの心は折れていない。よし、そこまで言うんだったら(実際には何も言われてはいないんだけど)、今日はドルトムントのサポーターと心中しようじゃないか。
ドイツ語はさっぱり分からないけど、繰り返されるチャントのリズムはつかめてきたし、それに合わせて手を叩くことはできる。まだ3点差だ! いけるぞ!
ドルトムントサポになりかけた私の心に水を差したのは、またしても“シュヴァルツゲルプ”(黒と黄色)の誇りを捨てたレヴァンドフスキだった。結局、前半だけで5失点。まさか惨敗気分を味わわされるなんて、想像もしていなかった。
そんな中で、一つ気になったことがある。伝統の一戦だというのに、バイエルンのサポーターからは熱いエネルギーを感じなかったのだ。試合前に優勝の持ち越しが決まった影響かもしれないし、私がバイエルンの応援席からほど遠い位置にいたからかもしれない。一方のドルトムントも、チャントの合間にどこからか諦めのため息が聞こえてくる。試合展開を考えれば無理もないけれど、ダービーマッチならではのピリピリ感を期待していた私は肩透かしを食った。
実は最近、ドイツ紙が「空席が目立っているぞ!」と騒いでいる。今シーズンの第28節終了時点で1試合平均の観客動員数は4万4291人を記録。最終的には2011-12シーズンに記録した4万4345人に匹敵、もしくはそれを上回る動員数になると予想されている。だけど、これは収容人数が大きいスタジアムを持つシュトゥットガルトやハノーファーが1部に昇格したことが大きな要因だ。チケット完売率は2月末時点で31.9パーセントと、直近10シーズンで最低の数字だという。バイエルンがあまりにも強すぎて、少し退屈に感じているのかもしれない、というのだ。
タイトルを獲得するクラブはころころと変わったほうが面白くて、個人的には長くても3連覇くらいがちょうどいいと思っている。今シーズンは1試合も見ていないけれど、「ユヴェントスの連覇を阻止しろ!」という気持ちで無条件にナポリを応援している。毎年のように“激戦必至”と言われるプレミアリーグは、日本でも開幕前から優勝予想で盛り上がるし、2年前にレスターが奇跡の優勝を飾った時はお祭り騒ぎだった。バルセロナとレアル・マドリードのタイトルレースにアトレティコ・マドリードが割り込んできた時は、ディエゴ・シメオネ監督の男泣きに感動したっけ。要するに、一強時代が続くことによってリーグ全体の熱量が失われていくのはもったいないと思う。
だからバイエルンさん、来シーズンはちょっと一息ついてみませんか。
取材・文=高尾太恵子
By 高尾太恵子
サッカーキング編集部