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“最低のシーズン”を糧にリスタートを切る伊藤達哉「この1年が勝負」

2019.08.17

不完全燃焼に終わったというシーズンを振り返った伊藤 [写真]=NIKE

 伊藤達哉にとって、18-19シーズンは想像以上に過酷なものだった。ピッチに立ったのはわずか14試合。シーズン終盤はベンチ入りすることすらできなかった。

 理由はいくつかある。トレーニング不足、初めての2部リーグ、監督交代……。「こうやって話をしていても、しっかりと覚えている。それを次に生かしたい」。投げ出したくなるような環境下でも自分を客観視して、冷静に分析できるのは、伊藤の強みだ。

 ただ、“最初の1点”が入っていれば――。少なくとも彼のキャリアで最低のシーズンにはならなかっただろう。
(編集部注:インタビューは7月10日に実施)

「あの時期があったから今の自分がいる」と言えるようにしたい

――昨シーズンはとても難しいものになったと思います。
成功か失敗かで言ったら失敗だし、合格か不合格かで言ったら不合格です。不完全燃焼の一言に尽きるシーズンでした。自分の中でターニングポイントはいくつかあったんですよ。

――というと?
1つ目はオフシーズンです。ブンデスリーガ2部は開幕が早いので、トレーニング期間が短かった。いつもならもう少し時間をかけて体を作り上げていくんですけど、それができないままシーズンに入ってしまいました。正直、トレーニング不足だったと思います。それでも試合には出られるだろうって思っていたんです。試合に出ていたら、調子も上がっていくだろうって。クリスティアン・ティッツ監督はユース時代からお世話になっていたし、信頼関係が築けていましたから。どこかで甘えていたんだと思います。

――そのティッツ監督が解任されてしまった。
はい。そこから一気に風向きが変わりました。それが2つ目のターニングポイントです。実は開幕前にいくつかオファーをもらっていたんですけど、ティッツ監督がいるから残ろうと思った。それなのに僕は、シーズンが始まってから監督の期待に応えられませんでした。

――前回お話を伺ったのは監督が代わって2カ月が経った頃でした。「ハネス・ヴォルフ監督の求めていることが自分の中で消化できていない」、「何が問題なのかを言語化できないからモヤっとしている」と話していましたね。
そのモヤモヤはシーズンが終わるまで残っていました。

――モヤモヤを解消するために、ヴォルフ監督と直接話をすることはなかったのでしょうか?
それは絶対にしたほうがいいし、いつもなら積極的にコミュニケーションを取ります。でも、ヴォルフ監督とはちょっと難しかったですね……。

――何か一つでもきっかけがあれば、状況を打開できたかもしれない。
はい。1点取れていたら変わっていたと思います。序盤は試合にも出ていて、得点してもおかしくないような場面がいくつかありました。実力不足と言われればそれまでですけど、ちょっと運が良かったら入っていたかもしれない場面はあった。やっぱり最初の1点が入れば、気持ちが軽くなります。どんな形でもいいからゴールを決める。それができたら、一気にポンポンといけるんじゃないか。そう思いながらシーズンを送っていたんですけど、なかなか……。周りからいろいろな声が聞こえてきて、ヤバいなと焦って、でもゴールを決められなくてまた焦って……その繰り返しで。

――悪循環ですね。
変に力が入っていたんだと思います。僕みたいなタイプはリラックスしているときのほうが力を発揮しやすいのに、ガチガチになってしまった。

――シーズン後半は、練習試合でゴールを決めて調子が上がってきているという報道もありました。
でもやっぱり試合は別です。だからどんな形でもいいから試合で1点を決めたかった。今シーズンはその1点を早く決められるようにしたいですね。

伊藤達哉

シーズン序盤は出場機会を得ていたが、今年3月の第26節ダルムシュタット戦以降は試合から遠ざかった [写真]=Getty Images

――フィジカル勝負が増える2部での戦いは難しかったと思います。
国が違うんじゃないかと思うくらい、1部のサッカーとは別ものでした。アフリカ系の選手が50メートルくらいをスプリントするんですよ。1部だったらそんなスペースはない。細かいところで技術が求められる1部とは違って、一人でやり切ってしまうような力が必要というか。それまで2部の試合を見ることはほとんどなかったので、最初は手探りの状態でプレーしていました。

――ユースチームでプレーしているときともまた違う?
違いますね。ユースには各国の世代別代表がそろっているので、うまい選手が多い。でも2部は、うまいというより戦う選手が多くて、最初の1分から90分まで気持ちを前面に出してくるチームが多かったです。それにハンブルガーSVは対戦相手からすると格上なので、相当気合いを入れてくる。試合をこなしながら、慣れていくしかないという感じでした。だから継続的に出ることができれば、試合のなかで成長できたと思う。僕は試合が終わったあとに必ず自分のプレーをチェックして、「次はこうしよう」というイメージを持って試合に臨みます。昨シーズンはそのサイクルが作れなかったので、今シーズンはいいサイクルを作れるようにしたいですね。

――日本代表についても聞かせてください。トゥーロン国際大会ではシャドーのポジションでプレーしました。
回数を重ねるごとにポジショニングが良くなっているという実感がありました。自信を持って仕掛けられる場面が増えたし、シャドーが自分のできるポジションだと言えるようになった。それは大きな変化だと思います。

――味方からボールが出てくる回数も増えましたよね。
そうですね。ボランチの選手がいてほしいと思うポジションに立つことを意識するようになってからボールが出てくるようになりました。自分がボールを持ったときも周りが動いてくれるのでプレーしやすいです。

――トゥーロンの前にはAFC U-23選手権予選にも出場しました。普段ヨーロッパでプレーする伊藤選手がアジアの選手と対戦して気づいたことはありますか?
単純に「いつもと違う」と感じました。普段は自分よりもサイズの小さい選手と対戦することはないですからね。すばしっこい選手が多いので、大柄な選手がこのプレーをやられたら嫌だろうなあって。

――なるほど。客観視できたわけですね。
不思議な感覚でしたけど、僕がドイツでどう見られているかが分かったというか。おもしろい経験でしたね。

――来年は東京で大舞台が待っています。
出場するためにも、この1年が勝負だと思っています。昨シーズンは、これまでのキャリアで最低でした。だからこそ、「あの時期があったから今の自分がいる」と言えるようにしたい。これ以上、悪いシーズンを絶対に作らないように、気持ちを切り替えて新シーズンに臨みます。

インタビュー・文=高尾太恵子
取材協力、写真=ナイキジャパン

伊藤達哉が語るスパイクへのこだわり

伊藤達哉

――新しい『マーキュリアル』は鮮やかなブルーが印象的です。

きれいな色ですよね。僕は青が好きなのでうれしいです。

――スピードに乗ったドリブルが武器の伊藤選手にとって、踏み込んだときに地面をつかんでくれるか、足を出しやすいか、はスパイクに求めるポイントだと思います。

そうですね。『マーキュルアル』は走りやすいですし、このスタッドがしっかりと地面を捉えてくれます。前より軽くなった点もいいですね。

――やっぱり軽さは大事ですか?

試合中は何キロも走るので、その一歩の軽さは大事です。重いと試合終盤のプレーに響いてきてしまうので。

――たしかに1試合で十数キロは走りますからね。柔軟性はどうでしょう?

柔らかいほうが好きなので、満足しています。僕は練習前にスパイクを温めたり、反ったりしてから使います。片手で持って反れるくらいぐにゃんぐにゃんにするので、チームメートには驚かれますね(笑)。

――普通はそこまでぐにゃんぐにゃんにはしない?

好き嫌いもあると思いますけど、ここまでする選手は少ないですね。僕もチームメートのドウグラス・サントス選手(現ゼニト)がやっているのを見て、「何それ?」となって。試してみたら、そっちのほうが履きやすかった。
伊藤達哉

――他にチームメートとスパイクについて話すことはありますか?

クラブハウスに届いたスパイクを勝手に見られていることはよくあります。

――勝手に?

選手宛ての荷物がクラブハウスにたくさん届くんですよ。本人が通販で買い物したものも含めて。そこにナイキの大きなダンボールが届いていたら、「タツ、新しいの来たんじゃない? 時期的にもそろそろだろう」って(笑)。勝手に箱をバーっと開けて、中を見ちゃうんですよ。あー、また見てるなあって(笑)。

――そうなんですね(笑)。では最後に、中高生に向けてスパイク選びのアドバイスをお願いします。

自分がかっこいいと思うものを選ぶのが1番だと思います。僕は小学生の頃から好きな選手が履いているスパイクが1番かっこいい、同じスパイクを履くことで一歩でも近づきたいと思っていました。『マーキュリアル』を履いているかっこいい選手はたくさんいるので、そういう選手に一歩でも近づくという思いで、これを選んでくれたらうれしいですね。

――伊藤選手って、形から入るタイプですか?

はい、よく言われます(笑)。憧れている人と同じものを身につけたらテンション上がるし、モチベーションになるんです。

By 高尾太恵子

サッカーキング編集部

元サッカーキング編集部。FIFAワールドカップロシア2018を現地取材。九州出身。

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