目を瞑り、亡き父にゴールを捧げるディバラ [写真]=Getty Images
ゴールからおおよそ25メートルの位置で得たFK。パウロ・ディバラの左足から放たれたボールは鋭いカーブを描き、壁の左上をかすめるように越えてネットを揺らした。GKとの駆け引き、ボールスピード、狙ったコース、カーブのかかり具合――。どれをとっても完璧だった。壁上を狙ってくると踏んでいたウディネーゼの守護神オレスティス・カルネジスは、完全に逆を突かれて一歩も動くことができず。真新しいスタンドは静まり返り、ゴール裏のアウェーサポーターとユヴェントスの選手たちだけが歓喜に湧いた。ディバラはこの日も静かに目を閉じて、故郷コルドバに続く空を両手で指差した。
2016年1月17日、ウディネーゼの本拠地スタディオ・フリウーリはサッカー専用スタジアムとして生まれ変わり、ユヴェントス戦で初めて全スタンドを開放しての公式戦を迎えた。試合前からチケットは完売し、スタジアムに詰めかけた観客の多くは、現役引退を噂されるウディネーゼのキャプテン、アントニオ・ディ・ナターレが新スタジアムの記念すべき初ゴールを決めることを期待していた。しかし、そんなファンの期待をあっさりと打ち砕いたのは絶好調のユヴェントスをけん引する若きホープの左足だった。その後もディバラを止められる者はおらず、2ゴール1アシストの独壇場。チームも4-0の大勝で開幕戦のリベンジを果たし、怒涛の10連勝を飾った。
類まれな才能を評価され、“ラ・ホジャ(宝石)”のニックネームで知られるディバラは、2度目の挑戦となった昨シーズンのセリエAで34試合に出場し、13ゴール10アシストを記録。シーズン終了後、パレルモからリーグ4連覇中の王者ユヴェントスへの移籍を勝ち取った。移籍金は現キャプテンのジャンルイジ・ブッフォン、パベル・ネドヴェド副会長、リリアン・テュラムに次いでクラブ史上4番目に高額な3200万ユーロ(約44億6000万円)。さらに成績によって最大で800万ユーロ(約11億円)のボーナスが追加される。パレルモのマウリシオ・ザンパリーニ会長は「ディバラは未来の(リオネル)メッシだ。4000万ユーロ(約55億8000万円)の価値は十分にあるね」とその活躍に太鼓判を押した。“メッシの再来”や“セルヒオ・アグエロ2世”と評される22歳には並々ならぬ期待がかけられていた。
昨年6月、ユヴェントスはチャンピオンズリーグ決勝でバルセロナに敗れ、19年ぶりの欧州制覇を逃した。決勝2日前にユヴェントスへの入団が発表されたディバラは、新たなクラブの一員としてVIPルームでファイナルを観戦。試合後、第3キャプテンのクラウディオ・マルキージオからは「しっかりと準備しておけ。来シーズンは全てを勝ち取るんだからな」と激励の言葉をかけられた。ビッグクラブで戦うことに胸を躍らせながら新シーズンの開幕を待ったが、その夏の移籍市場でチームの柱であったカルロス・テベス(現ボカ・ジュニオルス)、アルトゥーロ・ビダル(現バイエルン)、アンドレア・ピルロ(現ニューヨーク・シティ)の3人が退団。特に10番を背負ったエース、テベスと同じポジションを務めるディバラの肩にかかるプレッシャーはますます強まっていった。
迎えたシーズン最初の公式戦、スーペルコッパ・イタリアのラツィオ戦で早々に初ゴールをマーク。順風満帆なスタートを切ったかに思われたが、現実はそれほど甘くない。ウディネーゼとのセリエA開幕戦、マリオ・マンジュキッチの相棒として2トップの一角に起用されたのは、ディバラではなく19歳のキングスレイ・コマン(現バイエルン)だった。65分から途中投入されたディバラは巧みな足下の技術を披露しながらも、どこかチグハグなプレーが目立つ。最後までゴールをこじ開けることはできず、チームも78分に一瞬の隙を突かれて失点し、史上初めてホーム開幕戦で黒星を喫する屈辱を味わった。試合終了のホイッスルが鳴ると、無得点に終わったディバラは腰に手を当てながら、ただただうなだれるしかなかった。
続く第2節のローマ戦でリーグ戦初ゴールこそ奪ったが、シーズン序盤はチームへの適応に苦労して途中交代や途中出場の試合が多かった。チームもケガ人の多さと新加入組の順応が遅れた影響で、リーグ戦10試合を終えて3勝3分け4敗の12位という低調な成績が続いた。毎試合のように試合を支配しながらも決定力を欠いた戦いぶりに、一部のメディアやファンは新戦力の実力不足を指摘。ディバラにも“テベスの幻影”が常につきまとった。それでも若きダイアモンドの原石は屈することなく「まだまだ改善すべきことがたくさんある。僕はユヴェントスを欧州のトップに導きたいんだ」と高い志を持ち続けた。
アルゼンチン期待の星は、いつも真っ直ぐに前を見据え、端正な顔つきに似合わない負けん気の強さを垣間見せる。彼の一貫した姿勢の裏には常にある人への思いがあった。ゴールネットを揺らし、チームメイトとひとしきり喜びを爆発させた後、彼は天に向けて人差し指を差す。空の先ではいつも亡き父アドルフォ・ディバラが微笑みかけていた。
父アドルフォはディバラが15歳の時にすい臓がんで亡くなった。家族は多感な時期のディバラに心配をかけさせまいと、父の病気について詳しく教えなかった。「家族は何も言ってくれなかった。だから自分自身に『きっと治るだろう』と言い聞かせていたんだ。今でも時々、父の夢を見て枕を濡らすことがあるよ」。
そんな父がいつも3人の息子に言い聞かせていたのは「誰か一人でもサッカー選手として成功してほしい」という夢だった。兄のグスタボとマリアーノは大成せず、三男のパウロにその使命が託された。
「僕がやるしかなくなった。父との思い出を誇りに、彼の願いのためにね」。
パウロは16歳で家族の元を離れて寮生活に移ると、翌年には地元クラブ、インスティトゥート・コルドバでプロデビュー。マリオ・ケンペス氏が持つクラブ最年少得点記録を更新し、アルゼンチン2部リーグで公式戦通算40試合17ゴールを記録する圧巻の活躍を見せると、あっという間にイタリアへと旅立っていった。そして今シーズン、ディバラのサッカー人生は再び大きく加速する。
老貴婦人の“宝石”が真の輝きを放ち始めたのは第13節のミラン戦だろう。シーズン初のリーグ戦連勝を飾り、徐々にチームの勢いが戻りつつある中、一つ上の6位につける“かつてのライバル”は、今のチームの実力が本物なのか、それとも単なる一過性の勢いだったのかを見極めるには絶好の相手だった。試合は立ち上がりからホームのユヴェントスが圧倒したものの、なかなかゴールを割ることができないまま後半に突入する。またしても勝ち切れない悪癖が顔を覗かせたかに思われたが、均衡を崩したのはディバラだった。65分にアレックス・サンドロの左クロスを受けると、胸でやさしくボールの勢いを殺し、ワンバウンドしたところを左足のハーフボレーで叩き込んだ。重要な場面での鮮やかな一撃に、チームメイトもファンも感情を爆発させた。これが決勝点となり、ユヴェントスは連勝を3に伸ばした。
この試合でマッシミリアーノ・アッレグリ監督やチームメイトから全幅の信頼を勝ち取ったディバラは、それから8試合連続でスタメン出場を勝ち取り、カルピ戦を除けば全試合でゴールまたはアシストを記録(8試合で7ゴール5アシスト)。ディバラの“覚醒”とともにチームも連勝街道を走り続け、完全に王者の風格を取り戻した。
「誰かと比較されるのはあまり好きじゃないんだ」。アルゼンチンの若き青年は、メッシ、アグエロ、テベスと偉大なる同郷の先輩たちと比較され続けた。恐らくそれはしばらく続くことだろう。ディバラはまだ若く、まだまだ完成された選手ではない。それでもテベスの不在を嘆くユヴェントスのファンは減り、今や新たなエースの名前を大声で叫んでいる。
「ヌメロ、ヴェントゥーノ(背番号21)! パウロ・ディバラ!」
スタジアムにその名前がこだまする時、輝き始めたユヴェントスの“宝石”は、屈託のない笑顔を見せながら、亡き父の夢と誇りを胸に、コルドバへと続く空を指差している。
文=清水遼
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By サッカーキング編集部
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