昨シーズンのインテルは、前半戦で首位争いを繰り広げながらも中盤以降に失速し、最終的にはチャンピオンズリーグ(CL)出場権圏外の4位でシーズンを終えた。クラブは名門復活に向けて、6月に中国の蘇寧ホールディングスへ経営権を売却。巨額なチャイナマネーを後ろ盾とした“新生インテル”が誕生した。一方で、ロベルト・マンチーニ監督との関係が悪化し、セリエA開幕を2週間前に控えて契約解除。フランク・デ・ブールが新指揮官に就任する混乱に見舞われた。
■中盤の軸となるバネガ、カンドレーヴァを補強
インテルはメルカート(移籍市場)解禁早々に、アルゼンチン代表のエベル・バネガを獲得し、マンチーニ前監督がチーム作りを始めた。得点力もあったマルセロ・ブロゾヴィッチの残留がはっきりせず、移籍の意向もあったためとみられる。バネガはアメリカ遠征のインターナショナル・チャレンジ・カップ(ICC)などでもセンターハーフのポジションで役割をこなした。開幕まで2週間を切ってから就任したデ・ブール新監督もその才能を認めており、2-0と勝利を収めたセルティック戦後には「レジスタの能力がある」とコメントした。
また、イタリア代表のアントニオ・カンドレーヴァの補強も大きい。フィジカル的にも恵まれ、運動量の多いプレースタイルで、プレスをかけながらボールをキープし前線へつなぐ、もしくは自分自身でゴールを決めることもできる重要な存在だ。2列目の逆サイドのイヴァン・ペリシッチとともに攻撃面でチームを引っ張る存在となるのは間違いないだろう。
そして新しいサイドバックの2人、クリスティアン・アンサルディとジャネル・エルキンを早い時期にチームへ合流させた。ディフェンスにはこだわっていたマンチーニ前監督だが、この2人よりも長友佑都らもともとインテルにいた選手たちのコンディションの方がよい様子だ。それについては後ほど詳しく触れたい。
■イカルディへチャンスボールを出す役割
“まるで三流テレビドラマ”と皮肉られたマウロ・イカルディのドタバタ移籍劇。何かとゴシップに取り上げられるワンダ・ナラ夫人は、プレミアリーグやリーガ・エスパニョーラのクラブへ必死の売り込みを図った。ナポリにまで移籍話を持っていく騒動にまでなったが、どの話もまとまらず、最終的にこのインテルの点取り屋は残留する運びとなりそうだ。デ・ブール監督はイカルディについて「ファンタスティックなプレーヤー。残ってほしい」と慰留する意思を示しながらも、もっと自分でボールを取りに行き、キープする力が必要と課題を与えている。また、カンドレーヴァとのコンビネーションもカギとなりそうだ。
昨年同様、プレシーズンマッチでトッテナムを相手に6失点するなど、ディフェンス面でのもろさが気になるところ。しかし、本格的にシーズンが開幕すればセンターバックのミランダとジェイソン・ムリージョは昨シーズン序盤と同様に安定した守備を見せるだろう。現役時代はDFとして活躍したデ・ブール監督が、守備陣をどう立て直していくか注目だ。
■長友はまずレギュラー争いから
完全に戦力外と言われた昨夏ほどではないものの、長友にとっても厳しいシーズンの幕開けとなる。サイドバックの2ポジション争いは昨年以上に激化しそうだ。アンサルディ、エルキンが有利と予測されているが、ダニーロ・ダンブロージオらとともに2つのポストを狙う。ただし、アンサルディが開幕10日前に左ひざをねん挫して全治1カ月といわれていることから、21日のセリエA開幕戦のキエーヴォ戦には長友が先発出場する可能性も十分にある。
いずれにしても、長友にとってはデ・ブール監督に認められるようにアピールしていくしかない。ポジションを確保できるかは、アンサルディが復帰するまでの間に、実戦でプレーするチャンスを与えられた時、どれだけチームに貢献できるかにかかっている。ほとんどケガや故障もなく、シーズン途中からはマンチーニ前監督の信頼を再び勝ち得た長友。1カ月後に30歳を迎える今シーズンが、CL出場をかけて勝負する大事な1年となるだろう。
■デ・ブール体制をどれだけチームに浸透させられるか
マンチーニ前監督との契約を劇的な形で解除したインテル。バトンを受けたデ・ブール監督がどれだけチームをまとめ上げて第1節を迎えるかがカギになる。第1節はアウェーでキエーヴォ、続く本拠地サン・シーロでの第2戦はパレルモ、そして代表ウィーク明けの第3節がペスカーラと、比較的戦力差のあるクラブが相手となっており、つまずかず確実に勝ち点を取って行きたい。スタートダッシュに成功できれば、余裕を持ってその後も戦っていけるのではないかと予想する。同監督も「2試合が終わってから微調整したい」と話しており、場合によっては監督が最も好む4-3-3の布陣への変更もあるかもしれない。
また選手としてはヨーロッパの名門を含む数クラブでプレーしたデ・ブール監督だが、指導者としてイタリアサッカーの経験はない。ゼロからどうアプローチして、セリエAをどのようにして戦い抜いていくか。新人監督であってもCL出場権圏内の3位確保はミッションだ。クラブ上層部やサポーターからのプレッシャーも相当大きくかかってくる。
文=赤星敬子