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【コラム】窮地に立たされたユーヴェ…伝統の“10番”を背負うディバラはチームを救えるか

2019.03.08

ユヴェントスで10番を背負うディバラ [写真]=Getty Images

 セリエAといえば、戦術的で自由度が少ないリーグというのが一般的なイメージだ。最近では攻撃に比重を置く指揮官やアグレッシブなチームも現れてきたが、やはり他の欧州リーグと比べると守備的なリーグという印象は拭えない。サッカーにおいて自由度を象徴させるプレーはドリブルだ。その数が多ければ多いほど、戦術とはかけ離れ、個人の技量がモノをいうことになる。セリエAでドリブルを仕掛けようものなら、数人が束になって潰しにかかる。時には、ユニフォームを両手で掴み、ドリブル突破を阻止するなどという光景を目にすることも珍しいことではない。まさにイタリアはドリブラーにとって“受難の地”と言えるだろう。

イタリアのドリブル・キング

ディバラ

[写真]=Soccrates/Getty Images

 実際、データの上でもセリエAでは、ドリブルにチャレンジする数字が少ないことが明るみになった。サッカー関連調査機関「CIESフットボール・オブザーバトリー」が 、欧州5大リーグ(セリエA、プレミアリーグ、リーガ・エスパニョーラ、リーグ・アン、ブンデスリーガ)で最もドリブルを行ったプレーヤーのランキングを発表した。調査対象となった期間は、2018年2月28日から2019年2月17日までの約1年間。最低でも1800分、試合に出場した選手が対象となっている(ただし、ブンデスリーガの対象出場時間は1500分)。

 結果を発表するまでもないが、5大リーグのドリブルキングに君臨するのはバルセロナのリオネル・メッシだ。19.2分ごとにドリブルし、成功率は67パーセントとなっている。それに続く2位はニースのアラン・サン・マクシマン(19.8分、成功率60パーセント)、3位はチェルシーのエデン・アザール(21分、同73パーセント)、4位がディジョンのナイム・スリティ(21.4分、同72パーセント)、5位はバルセロナのウスマン・デンベレ(21.7分、同63パーセント)となっている。6位にはドルトムントのジェイドン・サンチョ(24.1分、同61パーセント)が入り、6位までにセリエAを除く4つのリーグでプレーする選手が登場したわけだが、セリエAでプレーする選手で最上位は一体誰なのか?

 昨夏、レアル・マドリードからユヴェントスに移籍したクリスティアーノ・ロナウドだろうか? 答えはノーだ。驚くことにトップ50にも彼の名前はない。答えは、そのチームメイトであるパウロ・ディバラだ。29.9分ごとにドリブルし、成功率は66パーセント。データの上では、ディバラがセリエAのトップに立つこととなった。ともかく、セリエAにおけるドリブラー・トップの選手が5大リーグ全体で13位というのだから、やはりこのリーグはドリブラーにとって厳しい環境であることは間違いないようだ。

先発を外れる試合も…

ディバラ

[写真]=LightRocket via Getty Images

 セリエAにおけるドリブルキングに立ったディバラだが、今季の出来は決して良いものではなく、現地メディアは“危機にある”と煽るほどだ。その理由は、得点数の少なさによる。昨シーズンはリーグ戦でキャリア最多の22得点を挙げたものの、今シーズンは26試合を終えてわずか4得点。二桁得点にも遠く及ばない数字となっている。リーグ戦で9試合連続得点がなかった2月2日の第22節、パルマ戦では先発を外れ、マッシミリアーノ・アッレグリ監督が3人の交代カードを切り終えると、怒りを露わにしてベンチを立ち去った。アッレグリ監督が試合後に「謝罪を受けた」ことを明らかにしており、幸いにも事態は深刻な状況には陥らなかった。その後、“怒れるディバラ”はフロジノーネ戦、ボローニャ戦で連続ゴールを挙げて自らの価値を示す形となったが、第26節のナポリ戦では先発を外れた。

 今季のセリエAでのアシスト数は、これまでに6を記録。チャンピオンズリーグでは自己最多の5ゴールを挙げており、数字の上ではそれほど悲観するものではないのかもしれない。そもそも、シーズン途中からは中盤と最前線をつなぐ“リンクマン”としてのタスクを担っており、数字だけで評価することはできない。とはいえ、ディバラが背負う背番号は、オマール・シボリ、ミシェル・プラティニ、ロベルト・バッジョ、アレッサンドロ・デル・ピエロらのレジェンドが身にまとった10番。すなわち、エースナンバーだ。パヴェル・ネドヴェド副会長は「ディバラには特別なことを期待している。彼は10番を背負っているのだからね。10番を背負う者は常に何か多くをもたらさなければならない」と大きな期待を寄せていることを明言している。これまでのところC・ロナウドとの共存は、成功しているとは言い難い。かつてのバロンドーラー、ネドヴェドだけでなく、今季のディバラのパフォーマンスに物足りなさを感じている人は少なくないだろう。

苦難を乗り越えセリエAの“顔”に

ディバラ

[写真]=LightRocket via Getty Images

 1993年11月15日生まれのディバラが母国アルゼンチンでプレーしたクラブは、インスティトゥートという日本ではあまり馴染みがない名前だ。だが、1978年ワールドカップの得点王で優勝の立役者、マリオ・ケンペスや清水エスパルスなどで指揮を執った経験があるオスバルド・アルディレスを輩出している育成の名門である。ただ、1990年までの10年はトップリーグを主戦場としていたが、91年以降は99-00シーズンと2006年の2シーズンを除き、ナシオナルB(2部リーグ)が定位置となっており近年は低迷している。ディバラは、父、アドルフォの助言により、このインスティトゥートで10歳のときからプレー。そして17歳のときにトップチームでプロデビューを成し遂げる。しかし、アドルフォが愛息、パウロのプレーを目にすることはなかった。パウロが15歳のときに他界したからだ。思春期に父を亡くし、寮生活を強いられ、プロプレーヤーになるために多くの犠牲を払ってきた。

 インスティトゥートでの活躍がパレルモのマウリツィオ・ザンパリーニ会長の目に止まり、クラブ史上最高額の1200万ユーロ(約15億円)の移籍金が支払われる。この規模のクラブにとっては、支払われることはあっても、支払うことは稀。しかも、18歳の若者の獲得に投資する額としては破格だ。そして、パレルモ入団から3年後、“イタリアの恋人”と呼ばれる名門ユヴェントスに総額4000万ユーロ(約50億円)の移籍金で入団する。すぐにユーヴェの看板選手となり、入団3年目の17年夏には21番から10番に背番号も変わった。C・ロナウドが加入するまでは、セリエAの顔といえば、このディバラがそうだったと言っても過言ではない。しかし、今季の不調に加え、0-2で敗戦した2月20日のチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦、アトレティコ・マドリードとのファーストレグで低調なパフォーマンスに終わると、移籍の噂が噴出。インテルのマウロ・イカルディやレアル・マドリードのイスコとのトレード説、マンチェスター・Uからは1億3500万ユーロ(約168億円)の破格移籍金が用意されつつあるという話まで浮上している。

ディバラ

[写真]=NurPhoto via Getty Images

 活躍ではなく、不振により自らの名前がメルカートに出たことは本人にとっては不本意に違いない。それを払拭するには、窮地に立たされたA・マドリードとのセカンドレグで本来のプレーを披露し、チームをベスト8に導くしかない。極めて厳しいミッションではあるが、それを果たせるだけのポテンシャルを秘めた存在である。そのために10番を託されたプレーヤーなのだから。

文=佐藤徳和/Norikazu Sato

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