ローマの指揮官に就任したラニエリ [写真]=Getty Images
ローマは一日にして成らず。ここでいうローマはローマ帝国ではなく、カルチョのローマの話だ。エウゼビオ・ディ・フランチェスコ監督が解任され、クラウディオ・ラニエリが新監督に就任した。これで2010-11シーズン以降、8度目の監督交代劇。いかに、ローマでの仕事が困難かを物語る数字だ。
監督解任の決定打となったCL敗退
監督解任時、ローマは今シーズンのセリエAで、勝ち点44の5位につけていた。4位インテルとは勝ち点3差で12試合を残しているのだから、十分にチャンピオンズリーグ出場権獲得を狙える位置にいた。リーグ戦の順位だけを見れば、いささか厳し過ぎる措置のように思える。しかし、ローマは1月30日のコッパ・イタリア準々決勝、アウェイでのフィオレンティーナ戦に1-7と惨敗し、辱めを受けた。3月2日には、永遠の宿敵・ラツィオに0-3と大敗。リーグ戦に限るが、アウェイでのローマ・ダービーでは2012年11月11日以来の黒星となってしまった。
そして、その4日後、チャンピオンズリーグ(CL)・決勝トーナメント1回戦セカンドレグでポルトに敗戦。ファーストレグに新生ニコロ・ザニオーロが挙げた華々しい2ゴールを打ち消してしまう敗退を喫し、これがディ・フランチェスコ監督解任の決定打となった。
昨シーズンのCL決勝トーナメト準々決勝で、バルセロナを相手にクラブ史上に残る大逆転劇を演じたディ・フランチェスコだが、2年と持たずにクラブを去ることとなった。そして、ディ・フランチェスコを指揮官に任命したモンチSD(スポーツディレクター)も職を退任。セビージャでは、選手の取引でクラブに3億ユーロ(約378億円)もの売却益をもたらし、一時代を築いたモンチも、ローマではその能力の半分も出すことができなかった。
“ミラクル・レスター”の立役者が復帰
後任は瞬く間に決まった。レスターをプレミアリーグの頂点に導いたクラウディオ・ラニエリだ。2019年6月30日までという今季限りの契約。アッジュスタトーレ(修理工)の異名を持つが、仮にもプレミア制覇を成し遂げた指揮官だ。しかも、弱小クラブを奇跡の優勝に導いた将である。なぜ、これほどの厳しい条件をあっさりと呑んだのか。それはいたってシンプルだ。ラニエリは、生粋のローマ人であり、現役時代にローマでプレーし、このクラブですでに監督を経験した根っからのロマニスタであるからだ。
「ローマに戻ることができて幸せだ。ローマから声がかかれば、ノーと言うのは不可能だ」。ローマ復帰が決まった直後の第一声。ローマへの愛が、凝縮された言葉だ。ローマの象徴で、現在は幹部職を担うフランチェスコ・トッティも再会を歓迎。「クラウディオは単なるサポーターではない。ローマの街に生まれ、育った男。世界で最も経験豊富な指揮官の一人だ」と自身と同じローマ人としての血が流れるラニエリの復帰を喜んだ。
ラニエリは1951年10月20日生まれ。幼少期の頃から遺跡で有名なカラカラ浴場の近く、サン・サバ広場のオラトーリオ(教会の集会所)でサッカーをしていた。ドディチェージモ・ジャッロロッソでプレーしていた16歳のとき、当時ローマを率いていた世界的な名将、エレニオ・エレーラによって発掘された。
「少年の頃は、FWに強いこだわりがあったけれど、一向にゴールを奪えなくてね。ニルス・リードホルム監督の助監督を務めていたルチャーノ・テッサリに『DFをやらないか』と勧められた」と過去のエピソードを明かす。「じっくりと考え、絶対に後悔はしないという思いで受け入れた。後ろからはすべてが見て取れる。状況、プレー、サッカーが非常に良く分かるものだ」とセンターバックにコンバートしたことを明かした。
しかし、ローマでは6試合に出場しただけで、1974年に活躍の場を南部カラーブリア州のカタンザーロに移す。そこでは守備の中心選手として活躍し、このクラブでのセリエA出場数128試合は、クラブの歴代記録。これは今も破られていない。1982年にはメッシーナ海峡を越えカターニャに。シチリア島のパレルモが現役最後のクラブとなった。
指導者としてのラニエリ
現役を引退した1986年、カタンザーロの小クラブ、カンピオナート・インテッレッジョナーレ(当時の5部リーグ)に属していたヴィゴール・ラメーツィアで監督業をスタート。いきなり地域リーグで優勝を勝ち取る。レスターをプレミア王者に導くまで、タイトルに縁のない監督というイメージが焼き付いていたが、事実は異なる。その2年後に指揮したカリアリでもセリエCでリーグとコッパのW優勝を成し遂げているし、バレンシアでは国王杯も制した。しかし、トップリーグでは結果を出せなかった。
もっぱらの印象は「良いところまで導くが、優勝には届かない」というもの。これまで16チームの指揮を執り、シーズン途中からの就任は7回。解任は、辞任も含めて9度。修理工には、得意とする仕事もあれば、苦手とする仕事も多々あった。ただ、どんな監督にもふさわしいタイミングというものがある。今回、ローマから打診を引き受けたこともそうだが、ラニエリはオファーが届けば多くを要求せずに、たとえ満足がいかない条件でも引き受けてきたと推測できる。事実、33年にも及ぶ監督業のキャリアで、年間を通して休業したのはバレンシアを解任された2005年2月からの2年間だけ。あとは、シーズン開幕時に仕事場がなかったことはあっても、1年間休業することはなかった。根っからの働きものだ。
復帰戦となった3月11日のエンポリ戦。ラニエリはロマニスタに熱い歓迎を受けた。スタンディングオベーション、そして、クルヴァ・スッドゥ(ゴール裏のウルトラス)は、「ラニエリ監督に幸運を」と横断幕を掲げた。結果は格下に2-1と辛勝だったが、今のローマにとっては喉から手が出るほどほしかった白星だった。今季、ローマは得点こそリーグ3位の51だが、上位10チームの中で失点はアタランタの56に続くワースト2位の51。これからラニエリは守備のテコ入れに着手し、今季の唯一の目標となったCL出場権獲得を目指すこととなる。老練な修理工としての、腕の見せ所だ。
文=佐藤徳和/Norikazu Sato
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