チェーザレ(左)、パオロ(右)に続いてプロデビューに期待がかかるダニエル(中央) [写真]=Getty Images
「キエーザの息子と対戦した時、現役を引退しようと思った。困惑し、その時が来たと思っていた」と話すのはパリ・サンジェルマンでプレーするGKジャンルイジ・ブッフォン。キエーザの息子とは、ブッフォンのパルマ時代の盟友エンリコの息子、フェデリコのことだ。
セリエAでは、いわゆる2世プレーヤーの台頭が珍しいものではなくなってきた。彗星のごとく出現したローマのニコロ・ザニオーロも、ジェノアをはじめ、プロフェッショナルとしてプレーしたイゴールの息子である。彼もまた2世プレーヤーだ。しかし、2世代を飛び越え、3世代に渡り、極めて厳しいプロフェッショナルの道を歩もうとする一家がある。イタリア・サッカー界の名家、マルディーニ・ファミリーだ。
チェーザレ、パオロに続き、3世代目のダニエルもまさに今、プロフェッショナルの世界に足を踏み入れようとしている。パオロの次男ダニエルは、2001年10月11日生まれの17歳。現在はミランのプリマヴェーラでプレーする。すでに、祖父チェーザレと父パオロがサッカー選手としての歩みをスタートさせた名門に所属。そして、この3月にはU-18イタリア代表に選出され、22日にU-18オランダ代表のテストマッチで途中出場を果たしデビューを飾った(0-2で敗戦)。カテゴリーの違いはあるものの、マルディーニ家はこれで3世代に渡り、誉れ高きアッズーリのユニフォームに袖を通したこととなった。

U-18イタリア代表デビューを果たしたダニエル・マルディーニ [写真]=Soccrates/Getty Images
チェーザレは1932年2月5日、イタリア北東部の異国情緒溢れるトリエステの生まれだ。両親は、隣国スロヴェニアにルーツを持つ。キャリアをスタートさせたのは1952年。地元のプロクラブ、トリエスティーナだった。そしてミランでは1954年から12年間に渡りプレー。両サイドバックをこなし、やがてリベロにコンバートしている。現役最後の1年間はトリノで戦い、そしてユニフォームを脱いだ。35歳の時だった。偉大なミランのカピターノであり、イタリア代表としても14試合出場の実績を誇る。
引退後すぐにミランで指導者の道を歩み、1972年から2シーズン、トップチームを指揮。そしてイタリア代表の助監督を経て、1986年からU-21イタリア代表の指揮官を務めた。この時、息子パオロを自らのチームに招集している。1992年からは3大会連続でU-21イタリア代表を欧州の頂点に導いた。その実績が評価され、1996年にイタリアA代表の指揮官に任命される。1998年のフランス・ワールドカップでは、主将パオロとともに挑んだが、準々決勝でフランス代表にPK戦の末に敗れ去り、父子鷹での世界一の夢は叶わずに終わった。

フランスW杯でイタリア代表を指揮したチェーザレ・マルディーニ [写真]=Bongarts/Getty Images
ミラン一筋で25年間に渡りプレーし、セリエA最多出場647試合の記録を持つパオロは、1968年6月26日にミラノで生まれた。3人の姉妹を持ち、ドナテッラはバスケットボールの2部リーグでプレーした実績を持つ腕前。2人の弟も、名を上げることはできなかったが、アレッサンドロはミラノの名門バスケットボールクラブのユースに所属。ピエルチェーザレもサッカー選手としてプロクラブでプレーした。パオロの長男、クリスティアンは現在22歳で、レーガ・プロ(3部リーグ)のファーロで活躍の機会をうかがっているところだ。
そして、イタリアが注目するのが次男のダニエル。サイドバックやセンターバックとして名を馳せたチェーザレやパオロとは異なる攻撃的なポジション、トップ下やセカンドトップでプレーし、エースナンバーの10番を背負っている。一躍注目を浴びたのは、3月2日のリーグ戦(パレルモ戦)で見事なFKを直接ねじ込んだためだ。今季のカンピオナート・プリマヴェーラで19試合に出場し、7ゴールの実績を挙げている。すでにジェンナーロ・ガットゥーゾ監督が指揮するトップチームへの帯同も経験済だ。

名門ミランの下部組織でプレーするダニエル [写真]=Getty Images
「僕にとってイタリア代表のユニフォームを着ることは誇りだ。とても幸せに思う。父と祖父がやってきたように、いつかフル代表に辿り着ければと願っている」。ダニエルはU-18に招集を受けた直後のインタビューでこう答えた。そして、現在ミランでスポーツ戦略及び開発ディレクターという肩書きを持つ偉大な父、パオロについてはこう語っている。
「たくさんのことを僕に教えてくれた。アドバイスをくれ、たくさん助けてくれたよ。いつも言ってきたことは、常に謙虚であれということ。地に足をつけてやっていかなければならないということだった」。そのパオロも2016年4月3日に他界した父についてこう回想している。「古いタイプの親父でね。学校で良い成績を出さないと遊ばせてくれなかったんだ。自分は兄弟の中で一番上で、それをしっかりとやってみせなければならなかったんだ」
マルディーニ家に共通している教えは、チェーザレの時代から、決して傲ってはならないというものだったようだ。 ダニエルがU-18代表入りを受けて、筆者は、昨年11月に行ったロベルト・バッジョのインタビューを思い起こした。「ご自身の息子に『サッカー選手になってほしい』と思わなかったか?」という問いの答えだ。バッジョの息子ということで過度のプレッシャーがかかり、息子に「もしお前がサッカーをやりたいならやりなさい。お前がしたいようにすればいい。サッカーを続けるか、それとも別のことをするか」と告げたという言葉だ。二世というだけで色眼鏡で見られ、そんな酷な選択を強いられるとは露ほども思わなかった。
ダニエルもパオロの息子ということだけで、一般人では考えられないようなプレッシャーを受けてきたに違いない。時には、理不尽な扱いを受けたこともあっただろう。バッジョの息子のようにサッカーに別れを告げる可能性もあったのかもしれないが、幸運なことにダニエルは、プロの世界に手が届きそうなところまできている。U-18イタリア代表入りをしても、大成しなかった選手は数多くいる。それでも、パオロの教えである「謙虚さ」があれば、この年代に起こりがちである世間の過大な評価に惑わされることなく、プロフェッショナルへの階段を着実に登っていけるだろう。
文=佐藤徳和/Norikazu Sato
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