25歳の若さでサッスオーロの象徴的存在となっているベラルディ [写真]=Getty Images
キャリアの長くを一つのクラブで過ごすことができる選手は稀だ。それが、決して強豪と言えないクラブにあって、素晴らしいキャリアを築きつつある選手であれば、よりいっそうレアなケースとなる。ビッグクラブへ引き抜かれる可能性は極めて高く、残留は難しくなる一方だ。それでも、愛するクラブに人生を捧げた選手は少なくない。
その代表格はジジ・リーヴァ。イタリア代表通算35得点をマークした、イタリアのサッカーを語るときには絶対に欠かすことのできない偉大なジョカトーレだ。そんな彼がキャリアを捧げたチームは、サルデーニャ島の誇り、カリアリだった。チームがセリエBに所属した1963年にセリエCのレニャーノから移籍。1年目でセリエAへの昇格に貢献すると、69-70シーズンには自身3度目の得点王に輝くとともにクラブ史上初、そして現時点では最後のスクデット獲得に尽力した。その後もユヴェントス、ミラン、インテルといった有力クラブに移ることなく、フランスの国境に近いロンバルディーア州ヴァレーゼ県の生まれでありながら、サルデーニャ島のカリアリでキャリアを全う。14年間、島の町に魅了され、愛された稀有な存在だった。
昨シーズン限りで現役を引退したセルジオ・ペリッシエールも17シーズンに渡りキエーヴォでプレーしたレジェンドだ。ヴァッレ・ダオスタ州アオスタ出身で、トリノの下部組織で研鑽を積んだペリッシエールは、17歳のときに当時セリエBに属していたトリノでプロデビュー。ヴァレーゼ、SPALを経て2002年にセリエA昇格2年目のキエーヴォに加入し、それ以来、人口4500人の小さな集落のクラブのために全身全霊をかけてプレーした。セリエAでマークした112得点はリーグ全体では66位の記録だが、得点数も出場数もキエーヴォの歴代一位に輝く。“ミラクル・キエーヴォ”と呼ばれたクラブのその時代を築いた、かけがえのない選手である。今はテクニカル・エリア・ディレクターに就任し、セリエBに降格したクラブの再建に努めている。
そして、“トトー”の愛称で親しまれたナポリ生まれのアントニオ・ディ・ナターレの名を忘れてはならない。セリエA歴代6位の209ゴールは、ロベルト・バッジョの206ゴール、アレッサンドロ・デル・ピエロの188ゴールを上回るもの。堂々たる記録を作りながらも、国際舞台での活躍の場が少なかったこともあってか、評価が今ひとつだった感は否めない。ディ・ナターレが凄かったのは30歳を過ぎてから。30歳を迎えた07-08シーズンに自身最多の17ゴールをマーク。多くの選手にとって“現役引退”の4文字が脳裏に浮かび始める年齢にもかかわらず20代前半のような成長を遂げ、32歳の09-10シーズンから2連続で得点王に輝くという偉業を成し遂げる。まさに遅咲きという言葉がぴったりと当てはまるストライカーだ。イタリアで最も愛されるユヴェントスのオファーを拒否してまで、ウディネーゼにとどまった。ウディネーゼ史に燦々と輝く、ウディネの町の英雄である。
現代サッカーにおいて、彼らのような“バンディエラ”と呼ばれる選手が何人いるだろうか。
セリエAの新興勢力、サッスオーロにはそんな選手が2人いる。フランチェスコ・マンニャネッリは、セリエC2(当時の4部リーグ)時代を知るチーム最古参のカピターノ。11月に35歳になる大ベテランはサッスオーロの一員として15シーズン目を迎え、クラブの歴代最多出場記録を更新し続けている。
そしてもう一人のバンディエラが、ドメニコ・ベラルディ。1994年生まれの25歳とまだ若いが、これまでに記録した79得点はすでにクラブの歴代最多となるものだ。ベラルディの名をイタリア全土に轟かせることになったのは、2014年1月12日のミラン戦。サッスオーロとしてもベラルディとしても、初めて戦うセリエAのシーズンであった。
この試合は本田圭佑のミラン・デビュー戦ということもあり、日本でも注目度が高い試合であったが、本田から主役の座を奪ったのが当時19歳のベラルディ。1試合4得点のゴールラッシュで圧巻の活躍を見せ、この試合は“ベラルディ祭り”と化した。同時に、彼のサッスオーロに入団することになった経緯もちょっとした話題となった。
当時16歳のベラルディは、地元の強豪クラブ、コゼンツァの下部組織でプレーしていた。そんなある日、モデナで看護科学を学んでいた兄のフランチェスコを訪ねる。そこで兄と一緒にフットサルの試合に出場すると、サッスオーロ下部組織の監督を務めていたルチアーノ・カルリーノの目に留まった。そしてテスト生として受け入れられ、サッスオーロに正式に加入することとなったのだ。
「もし、あのフットサルの試合に出場していなかったら、自分は今でもストリートサッカーをしていただろうね。モデナとSPALのテストはいくつかの理由から通らなかったんだ。友人たちとフットサルをしていて、セリエAでプレーすることになるとは思ってもなかった」と2017年のインタビューで語っている。「サッスオーロと契約したあと、またフットサルをしてね。今度はモデナのスカウトが僕のプレーを見て、契約するようにと誘われたけど、『時すでに遅し』ってところだったね」。こんな逸話も明かした。
こうしてベラルディのサクセスストーリーは始まり、一時はユヴェントスに共同保有される形にまでなった。移籍市場が開くたびに、ベラルディの名はイタリア国内のビッグクラブのリストに浮上する。
しかし、13-14シーズンに16得点、14-15シーズンに15得点をマークしたものの、それ以降は、一桁台の得点に終始。ケガの影響もあって調子を落とすと、17-18シーズンは4ゴールしか挙げられず、もはや消えゆく運命にあるのかとも思われた。それでも昨シーズンはゲームキャプテンを任されリーダーとしての自覚が芽生えると、8ゴールと復調を予感させる働きをみせる。
迎えた今シーズンは、第2節のサンプドリア戦で3得点をマーク。ハットトリックは2015年5月17日のミラン戦以来となるものだった。プロデビュー時の恩師、サンプドリアのエウゼビオ・ディ・フランチェスコ監督の眼前で、完全復活をまざまざと見せつけた。第3節のローマ戦では前半だけで4点を奪われる苦しい試合であったが、一人奮起し後半に2ゴール。第4節のSPAL戦ではゴールこそなかったものの、2つのアシストで勝利に貢献した。
また、5試合を終えて警告は1度だけと、不安視されていた精神面での成長も感じさせる。ゼネラルマネージャーのジョヴァンニ・カルネヴァーリは「ドメニコはとてもよくやっているね。ただ、昨シーズンもとてもよくやっていた。ゴールだけが一年を評価するものではないんだ。プレッシャーを受けずにプレーしている。それは(ロベルト)デ・ゼルビ監督の指導のおかげであり、ベラルディのことをとても信頼しているからだ」と評している。
今夏のメルカートでも強豪クラブへの移籍の噂はあったが「彼が残留してくれて本当に誇らしく思う。彼はカンピオーネ(一流選手)だからね。今季、どのクラブが彼を欲したかって? 最も強く獲得を望んだのは、フィオレンティーナだ。けれども、ベラルディと話し合った上で、残ってプレーすることとなったんだ。彼はサッスオーロをとても大切に思ってくれているし、このクラブを成長させる術を心得ている」と続けた。
今のままのコンディションが維持できれば、来年の夏、ベラルディの名が再び移籍市場を賑わすことは間違いないだろう。メディア嫌いとして多くを語ることはないベラルディが、これからの将来をどのように心に抱いているのかは分からないが、彼がこれからもサッスオーロのために心血を注いでプレーする可能性も十分に考えられる。一つのクラブにとどまりプレーし続けることがどれほど尊いものか。それは、先人のクラブやティフォージからの愛され方を見れば、理解できることだろう。ベラルディがこの先どのような決断を下すのか、今から楽しみでならない。
文=佐藤徳和/Norikazu Sato
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