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2006年W杯優勝メンバー最後の現役戦士…42歳を迎えた“生ける伝説”ブッフォン

2020.01.31

 イタリア人実況アナウンサー、ファビオ・カレッサによって「カンピオーニ・デル・モンド(世界チャンピオン)!」と4度、絶叫が繰り返された2006年7月6日のベルリンの“あの夜”から13年半の月日が過ぎた。すでに、ほとんどの選手が現役生活に別れを告げ、その多くが指導者の道を歩んでいる。

イタリア代表

[写真]=Getty Images

 ジェンナーロ・ガットゥーゾは、昨年12月に恩師カルロ・アンチェロッティの後任としてナポリの監督に就任。一時は勝ち星に恵まれず苦しんだが、コッパ・イタリア準々決勝で絶好調のラツィオを撃破し、リーグ戦ではユヴェントスも倒した。ファビオ・グロッソは、ブレシアの監督に途中就任したが、3試合で解任と手腕を発揮できず。フィリッポ・インザーギは、昨シーズン途中でボローニャの指揮官を解任される憂き目にあったものの、昨夏からセリエBのベネヴェントを率い、快進撃を見せている。21試合を消化したところで勝ち点50を積み上げ、2位ポルデノーネに勝ち点15差をつけての独走態勢。ほぼ確実に、来シーズンはセリエAの舞台で“スーペル・ピッポ”の咆哮が再び見られるだろう。

 ペスカーラやウディネーゼを指揮した実績を持つマッシモ・オッドは、今シーズンからセリエBのペルージャで監督を務めていたが、1月を持ってクラブを去った。そのペルージャを昨シーズンまで率いていたアレッサンドロ・ネスタは昨年夏にセリエAから降格したフロジノーネの監督に抜擢され、プレーオフ出場圏内の5位と奮闘している。カテゴリーをさらに下げてセリエCに目を向けると、セリエAの黎明期に7度の優勝を成し遂げたプロ・ヴェルチェッリではアルベルト・ジラルディーノが古豪復活を目指し、チームを先導している。だが、セリエBから降格したばかりで、チームも下位に停滞。悪戦苦闘が続く。ユース年代の育成に励むのはシモーネ・バローネだ。モデナやパルマ、ユヴェントス下部組織の指導を経て、今シーズンからサッスオーロU-17の指導にあたっている。23人のメンバーで唯一、イタリア国外のアルゼンチンで生まれたマウロ・カモラネージは1月にスロヴェニア1部のNKターボル・セジャーナの指揮官に就任したばかりだ。冒頭で記した2006年ワールドカップ決勝のフランス戦後、優勝を祝して“斬髪式”を行ってからは一時的に短髪だったが、現在はまた少し伸びて毛が耳にしっかりとかかるほどになっている。

 アンドレア・バルザーリは、昨シーズンまでユヴェントスの一員としてピッチに立っていたが、2018-19シーズン限りで現役を引退。38歳で現役生活に別れを告げ、この夏にUEFAライセンスBを取得し、9月にユヴェントスの監督補佐に就任した。2006年のW杯グループステージのアメリカ戦でオウンゴールを献上してしまったクリスティアン・ザッカルドは、キャリアの終盤にマルタ、サンマリノと渡り歩き、昨年7月9日にスパイクを脱ぐことを表明。これからの人生を模索しているところだ。

 そして今年1月6日、36歳のダニエレ・デ・ロッシも現役生活に終止符を打った。昨夏、愛するローマを離れ、世界で最も熱狂的で、美しく、魂を撼わすボンボネーラを本拠地に持つボカ・ジュニオルスで戦っていたが、挑戦は半年で終わった。W杯優勝メンバーで最も若いデ・ロッシが去り、これで残りは1人となった。ユヴェントスのGKジャンルイジ・ブッフォン。アッズーリ最後の2006年ワールドカップ戦士だ。

■優勝メンバーでただ一人残った現役戦士

ブッフォン

[写真]=Getty Images

 2018年夏には、現役を終える可能性もあった。だが、パリ・サンジェルマンからのオファーを受け入れ、新たな冒険を求めた。40歳だった。パリが現役生活最後の地となる――。誰もがそう思っただろう。ところが昨夏に、ユーヴェへの帰還を果たす。41歳にして驚きの選択だった。2006年W杯のイタリア代表メンバー最年長で、ブッフォンの控えを務めたアンジェロ・ペルッツィ(現ラツィオ・クラブマネージャー)も驚きを隠さない。「1997年にコヴェルチャーノ(イタリア代表トレーニングセンター)にいたときだった。ブッフォンが私に『何歳までプレーするのか』って聞いてきてね。『最低でも36歳まではプレーしたい』って返答したんだ。そうしたら彼は『自分はもう少し早く引退するだろう』と言ったんだ。それが42歳なのにまだ現役を続けているじゃないか(笑)」と20年以上前のエピソードを明かした。

 ユヴェントスに引き抜かれる前はパルマでプレーし、ユース時代にエルメス・フルゴーニGKコーチの教えを受ける。ブッフォン自身が「今の自分があるのはフルゴーニ・コーチのおかげだ」と語る名伯楽である。そのフルゴーニは、「頭の回転が非常に速かった。GKをやる前は中盤の選手だったのだが、教えたことがすぐにできてね。しっかりと聞き、よく質問してきて、できるだけ学ぼうと、とても意欲的だった」とブッフォンが13歳だった当時を回想する。こうしてパルマで研鑽を重ね、2001年にユーヴェへ移籍。移籍金5200万ユーロ(約62億5000万円)はGKとして当時最高額であり、ゴンサロ・イグアインをナポリから9000万ユーロ(約108億円)で獲得するまではクラブ史上最高額だった。

 パルマ、ユヴェントス、パリ・サンジェルマンでプレーしてきたブッフォンだが、実はこれ以外のクラブに移籍する可能性があったという。昨年夏にローマ幹部を辞職し、今は新しい挑戦を模索中のフランチェスコ・トッティが語る。「W杯で優勝して祝勝会のステージに向かう途中、ジジ(ブッフォンの愛称)は、初めてあれほどの群衆を目にしたんだ。俺とダニエレ(デ・ロッシ)は2001年にローマでスクデットを獲得して体験済みだったから、俺たちはローマに来るようにと説得し始めた。『君がローマに来れば、スクデットを獲得して、もう一度こういう体験ができるだろう』ってね。そのすぐ後にカルチョ・スキャンダルの影響で、ユーヴェはセリエBに降格した。本当に説得できるんじゃないかと思っていたよ。もう獲得は決まったと思えたんだけど、ジジはユーヴェ残留を選んだ。もし、俺たちが彼を説得できていたら、どうなっていただろうね」と、ブッフォン獲得を目論んでいたことを打ち明けている。

■誰からも愛される人間性

ブッフォン デル・ピエロ

[写真]=Getty Images

 40歳で1982年W杯王者に輝いたディノ・ゾフは、41歳に現役を引退した。ブッフォンは1月28日に42歳の誕生日を迎え、偉大な先輩を超えた。イタリア代表の最多出場記録を誇り、セリエAでは昨年12月のサンプドリア戦で647試合目の出場を果たし、パオロ・マルディーニの持つ最多出場記録に並んだ。足元のプレーは決して優れているとは言えないが、彼ほどのカリスマを備えたGKは今の現役GKには見当たらない。

 プレーだけでなく、ブッフォンはその人間性も素晴らしい。「最初に対戦したとき、ジジはすでにユーヴェの一員で、自分はリヴォルノでキャリアを始めたばかりの20歳だった。そんな僕に試合後、『君のキャリアの成功を祈っているよ』と言って、ハグしてくれたんだ。彼は誰にでもこうするけど、まさにこれが彼を偉大にしている。僕にたくさんのことを与えてくれた行為だった」と語るのはブッフォンより4歳下のマルコ・アメーリア。ブッフォンから強く影響を受けたことを明かしている。

 ユヴェントスでは、アレッサンドロ・デル・ピエロの持つセリエA出場478試合を上回り、クラブ史上最多出場選手となった。盟友デル・ピエロは、「“ブッフォン”は辞書に載っている“GK”と同じ意味だ。何年もの間、ピッチで後ろを振り向けば、そんな彼の姿が見れるという幸運にあったよ。そして彼は、僕とチームメイトになったことで僕からゴールを奪われずに済むという幸運に恵まれたね(笑)。しっかり鍛えてやったから、まだ現役として食っていけるだろう」と笑いを誘いながら、ブッフォンの偉大さを強調している。

 W杯やスクデットを始め、数え切れないほどのタイトルを獲得してきた。パルマ時代には、UEFAカップも手にした。だが、たった一つ、手が届いていないものがある。チャンピオンズリーグのタイトルだ。3度、決勝に進みながら、3度とも叶わなかった。それが、ブッフォンの現役続行を支える原動力となっているのだろう。2006年にバロンドールを獲得したファビオ・カンナヴァーロは、「ブッフォンが国際タイトルを獲得したときは、必ず俺がチームメイトだった。UEFAカップ(パルマ時代)、U-21ヨーロッパ選手権、そしてW杯。もし、チャンピオンズリーグのタイトルを獲得したいのなら、俺を呼ばなきゃいけない(笑)」と戦友に訴えた。

 42歳の誕生日に守護神は、「ある年齢を過ぎると、誕生日を迎えることは素晴らしい祝い事ではなくなってしまう。でも、避けられないことだからね。笑顔で受け入れないと」と語ると、今年6月30日に切れる契約については、「まだ続ける準備はできている」と話した。ヴォイチェフ・シュチェスニーの控え役に甘んじているが、今シーズンはリーグ戦7試合、チャンピオンズリーグ1試合に出場。チームはチャンピオンズリーグ決勝トーナメントに駒を進め、ブッフォンはビッグイヤーを手にするチャンスを持っている。けれども、たとえまた欧州王者となる夢が実現できなかったとしても、ピッチに立ち続け、大きなグローブを叩いて味方を鼓舞し、時には親指を立てながら満面の笑顔で仲間をリラックスさせるブッフォンの姿を、これからも見ていたいものだ。ペルッツィから「まだ現役を続けているじゃないか」とからかわれたとしても。

文=佐藤徳和/Norikazu Sato

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