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【インタビュー】感染広がるイタリアから冨安健洋がメッセージ「無駄な時間ではない」

2020.04.07

ボローニャに所属する冨安健洋。テレビ電話での取材に応じた [写真]=Getty Images

 世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスの影響で、日常からサッカーが消えた。各国のリーグは中断し、多くのクラブが活動を休止している。一日でも早く、サッカーのある週末が戻ってきてほしい。そんなサッカーファンの声が聞こえてくる。

 選手だって同じ気持ちだ。冨安健洋は言う。「いつか戻れる日がくる。その日のために、今できることをするだけ」

 イタリアでは、新型コロナウイルスによる死者数が1万人を超えた。そのイタリアで生活を送る彼は今、何を考えているのか。延期になったリーグ戦や東京オリンピック、そしてイタリアでの近況について語ってくれた。

いつもと違う環境で生まれた「自分の体と向き合う時間」

――冨安選手が住んでいるボローニャ州はどういう状況ですか?

生活に必要なものを買ったり、仕事に行ったりする以外は家にいてくださいという指示が出ています。僕も週2回、スーパーマーケットに行く以外は家にいます。店に入るときは体温をチェックされるほど厳重です。

――ヨーロッパでプレーしている日本人選手とは連絡を取りましたか?

リーグから自宅待機の指示が出たタイミングで(吉田)麻也さんとは一度連絡を取りました。「サンプドリアはどんな感じですか?」みたいな。ほかには、堂安(律)や(中山)雄太くん、(板倉)滉くん、(三好)康児くんたちとLINEで連絡を取っています。

――同年代の選手とはどんな会話をしているんですか?

国によって対応が違うので、「どういう状況?」と確認し合う感じです。完全に家から出られないのか、ランニングくらいはできるのか、リーグがどうなるか、という情報交換をしています。

――終わりの見えない状況のなか、海外で生活することに不安はないですか?

意外と落ち着いて生活できていますよ。スーパーに行くとき以外は家にいるので、感染のリスクはほとんどないと思っています。

――普段の生活で気をつけていることはありますか?

基本的な手洗い、うがいは欠かさずにやっています。外に出るときはマスクとビニール手袋をしています。人との接触を避けることが一番ですし、イタリア政府からも自分の1.5メートル以内に人を入れないようにと言われているので、外出時は一定の距離を保つことを徹底しています。

――今の生活リズムには慣れましたか?

外でボールを蹴れないので、最初の1週間はメンタル的にきつかったですね。今はもう3週間くらい経ったので慣れましたけど。昼食後に英語とイタリア語のレッスンを日替わりでやって、それからトレーニングをするという一日の流れができました。

――練習メニューはどう組み立てているんですか?

チームから選手全員にメニューが渡されているんですけど、僕は日本人のトレーナーが組んでくれたメニューもこなしていて。その辺はチームのトレーナーとうまくコミュニケーションを取りながら進めています。

――新しい生活リズムに慣れてきたとはいえ、自宅でのトレーニングを漠然と続けるのは相当きついと思います。

室内でいくらトレーニングをしても、ピッチでやっているレベルと比べたら負荷も質も落ちますからね。その辺は難しいところですけど、やり続けるしかない。今できることをやって、コンディションを維持することを当面の目標にしています。

――サッカーができないもどかしさがあると思うんですが、そういう気持ちをどう整理していますか?

もちろん、早くサッカーをしたいという気持ちはあります。でも、これからサッカーが一切できないというわけではないし、いつか戻れる日がくると思っています。その日のために、今できることをするだけです。

――いつもとは違う環境でトレーニングを続けることで、新しい発見があるかもしれない。

そうですね。改めて、僕の体はいろんなところが歪んでいるなあと実感しました。前から気付いてはいたんですけどね(笑)。まだ使えていない部分があったり、左右のバランスが悪かったり。自分の体と向き合う時間が増えたからこそ、細かい部分にまで気を使うことができる。だから無駄な時間を過ごしているとは思っていません。

――時間というと、東京オリンピックの開催が延期されました。

まさか延期になるとは思っていなかったので、正直、ショックは大きかったです。でもこういう状況なので、仕方ないですよね。今は準備時間が増えたとポジティブに捉えています。ただ、ほかの国にもレベルアップする時間が与えられたということでもあるので、僕らも負けないようにレベルアップしないといけないと思っています。

待ち望んでいたユヴェントス戦

冨安健洋

ボローニャのレギュラーに定着した冨安。本来のCBではなく、右SBとして起用されている [写真]=Getty Images

――ボローニャに移籍して約10カ月が経ちました。監督のシニシャ・ミハイロヴィチが骨髄性急性白血病を発症して入院治療を行うところからシーズンがスタートして、チームの調子には波があったと思います。改めて、ここまでのシーズンを振り返ってみていかがでしょう?

やっぱり監督がいると練習が締まるんですよ。不在だったシーズンの始めは苦しみましたけど、監督が戻ってくるとチームの結果もポジティブなものに変わっていった。監督の力はすごいと実感しました。全然違うチームになるんだなと。

――冨安選手から見て、ミハイロヴィッチ監督はどんな人ですか?

うーん……厳格な人というか、ブレない人ですね。「俺はこうする」というのをはっきりと持っている監督で、強い人というイメージがあります。

――チームメイトの特長もつかんで、イタリアのサッカーにも慣れたところでリーグが中断という……。

残念ですね。何よりユヴェントスと試合ができなかったのが悔しいです。次だったのに……。昨年10月の対戦時はケガをしていて、出場できなかったんです。なかなかユヴェントスと試合をさせてくれないなと思って(笑)。

――たしかに(笑)。仲のいいチームメイトは?

特定の選手はいないですね。ただ、全く話をしないというわけじゃないし、サッカーをするときはちゃんとコミュニケーションを取っていますよ。

――リッカルド・オルソリーニとの連係はどうですか? 自由にプレーする彼のサポートは大変なんじゃないかと思って。

まあ、そうですね(笑)。(ジョゼップ)グアルディオラ監督のことを研究しているコーチングスタッフから、攻撃時は同じレーンに入らないようにとプレシーズンから言われていて。オルソリーニが外に張っていたら僕は中に絞る、オルソリーニが中に入ったら僕は外に張る。常に彼の動きを見ながらバランスを取っています。あとはもう少し守備をしてくれたら助かるんですけどね(笑)。彼は守備があまり好きじゃないので、僕ができるだけカバーしたいと思っています。あ、でもローマに3-2で勝った試合では、びっくりするほど守備をしてくれて。

――上位クラブとの対戦ではやる気を出すっていう。

どこが相手でもゴールを奪ってやるという気迫は常に感じられます。でもやっぱり上位クラブとやるときっていうのは、全選手に言えることですけど、自然とモチベーションも高くなりますし、その分パフォーマンスにもいい影響が出ることは間違いないですね。ただ、あの試合の勝因は彼が守備をしたことです(笑)。

ウイルスを舐めてはいけない。今はできることを

――多くの時間を自宅で過ごす子供たちのために、室内でできるトレーニングを教えてください。冨安選手が子供の頃に自宅でやっていたメニューはありますか?

小さいときはペットボトルを足で蹴ってゴミ箱に入れるっていうのをやっていました。キャップのほうをバンって踏むと、ペットボトルが跳ねるんです。それをコントロールしてゴミ箱に入れる。

――不安定なものを足で触って、コントロールするみたいな。

そうです。練習として意識的にやっていたわけじゃなくて、遊びの延長でやっていました。

――じゃあ、その動画を楽しみに待っています。

いやあ、最初はアップしようと思っていたんですけど、これ結構下に響くんですよ(笑)。

――ああ、なるほど(笑)。

なので、一軒家でやってください(笑)。

――では最後に、改めてファンにメッセージを。

僕が住んでいるイタリアは深刻な状況ですし、日本でも少しずつ感染が広まっていると聞いています。ウイルスを舐めずに、油断せずに、一人ひとりが責任を持った行動をしてほしいと思います。僕はサッカーが一生できなくなるとは思っていません。またピッチでプレーできるようになったときに、思い切ってサッカーを楽しめるように今はできることをやります。この苦しい時期をみんなで乗り越えていきましょう。

インタビュー・文=小松春生(編集長)、高尾太恵子(編集部)

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