©Cygames/Juventus
「意気込みは強いです。ポジティブなんですよ」
アルベルト・ザッケローニ元日本代表監督の通訳を務めたことで知られる矢野大輔さんの言葉は明快だった。
ユヴェントスのお膝元トリノに長く暮らす矢野さんに、“老貴婦人”のスクデット10連覇にかける思いを尋ねてみたら、現場のチームはもちろん、フロントやマーケティング・チーム、クラブの職員が一丸となって進む勢いを感じているのだという。
イタリアはCOVID-19による新型肺炎の被害を最も受けた国の一つだが、ユーヴェはグラウンドの上でも、社会の一員である組織としても毅然とそれに立ち向かっている。コロナ禍のシーズンにおける常勝クラブの矜持、そして一スポンサーの領域を越えてそれを支えるCygamesの知られざるサポートについて話を聞いた。
――昨年3月上旬、セリエA初のコロナウイルス陽性反応がDFダニエレ・ルガーニ(※現在はカリアリにレンタル中)に出たときの衝撃は大きかったですね。
衛生管理は徹底していたはずなのに、あれだけ厳重に警戒していても感染するのか、と社会的に大きな衝撃を与えました。その後、陽性が発覚した(パウロ)ディバラのときはスター選手だし緊張の度合いも高かったです。とにかく保健省と行政の指示に従いながら、選手たちやスタッフの健康確保を最優先に置いていたようです。その少し前まで、リーグ中断という非常事態になるとは誰も本気で信じていませんでしたから。
――困難な状況でしたが、迅速な対応にはさすがユーヴェと唸らされました。
コンティナッサ・トレーニングセンターの周辺には、J-ホテルがあり、本社機能もある。(ハイテク医療設備の揃う施設)J-メディカルもある。一つの完結した機能施設を持つユーヴェは、自主隔離の態勢作りという意味ではどこよりも早くできたと思います。アリアンツ・スタジアムがクラブ自前の施設というのも見過ごせません。換気や消毒対策、ソーシャルディスタンスの確保といった対策が自分たちの判断で即実行できる。今季序盤に有観客試合を開催していたとき、実際に足を運びましたが安心感がありました。これはユーヴェならではの強みだと思います。
(※自治体が所有権を持つスタジアムの場合、使用や対策には多数の監督官庁に伺いをたてて許可を得ないとできない)
――『ユヴェントス・フットボール株式会社』の組織としての底力やスタンスが、困難な状況下であらためて浮かび上がった、という印象があります。
コロナ禍の影響によるサッカー界の財政難が叫ばれ始める前に、チームとして給与の自主削減に一番早く動いたのはユーヴェです。おそらく『なんで給料を削らなくちゃならないんだ』というのが選手たちの本音だと思います。それでも(労使双方が)いち早く削減へ合意できたのは、普段から現場とフロントが一体となっているから。クラブの内外に向けて“この危機を協力して乗り越えよう”と訴える、象徴的なアクションだったと思います。
――第2次世界大戦時以来の中断を経て、リーグは6月下旬に再開。9連覇を目指して奔走していたユーヴェに、Cygamesのスポンサー復帰という吉報がもたらされました。
2019年夏に一度、ユニフォームからロゴが消えたのですが、その後も表に出ない形でCygamesのサポートは続いていました。
レジェンドOBがお忍びで日本を訪れるときのアテンドを手伝ったり、ユーヴェの下部組織の子どもたちが日本の大会に来る際の渡航費や大会開催費の支援だったり、日本に拠点を置くユベントスアカデミー東京校のスポンサーなどグラスルーツ活動にも大きく力を注いでくれております。コロナ禍が世界的規模になって、イタリアの深刻な状況が日本でも盛んに報道されました。感染者数が日々増加し不安が高まる中、Cygames社側から『大丈夫ですか?』と安否を気遣う連絡があったとき、ユヴェントスの担当者は非常に感激していました。ユヴェントスの取引先は地理的に近く時差もない欧州拠点の企業がほとんどですが、遠い日本から励ましの連絡が届いた。嬉しかったのは、その“心意気”なんだ、と。
――互いの信頼関係は絶えずあって、コロナ禍を契機に再び絆が深まったということですね。スポンサーというよりパートナーと呼ぶ方がしっくりくるような気がします。
ユヴェントスのマーケティング部門を率いるのはCRO(チーフ・レベニュー・オフィサー)のジョルジョ・リッチさんですが、彼の言葉を借りるなら『ユニフォームは神聖でなければならない』。つまり、“Cygames社のロゴが長期に渡りユニフォームに入っているという事は、一スポンサーという概念を超えた関係値がある”と解釈できると思います。彼らにはユニフォームに対する美学や美意識がありますから。
――ユーヴェのスポンサーになりたい企業は世界中にごまんとあるが、背番号の真下という“1等地”に相応しいロゴはそうそうない。いわば、ユヴェントスは空白期間があっても美学のためにCygamesの復帰を待っていた、ともとれますね。
そこがユーヴェの“心意気”なんだと思います。(独立独歩を重んじる)彼らには困難にあっても安易に助けを乞わないプライドがある。それを越えたところにCygames社はあって、両者の関係は互いに尊重し認める同志なのだ、と。日本からの心意気に応えるために、ユーヴェは今季もグラウンドで結果を出そうと奮闘しています。
ユヴェントスもCygamesも、決してコロナウイルスに屈していない。
世界的災厄の渦中にあって、両者の信頼関係はむしろ強さを増した。イタリアも日本もなく、ただひたすら仲間を思い、ともに戦おうという“心意気”で繋がっている。
スクデット10連覇とコッパ・イタリア奪還、そして悲願のUEFAチャンピオンズリーグ。
ユヴェントスは、その120年の長き歴史の中で唯一背中を任せるパートナー、Cygamesとともに2021年の3大タイトルに挑む。
取材・文=弓削高志
By 弓削高志