6月のU-22日本代表活動時の松岡大起 [写真]=藤丸リオ
近年、若くしてヨーロッパに渡る選手が増えている中、パリオリンピック世代の常連メンバーの一人である松岡大起が3月に下した決断は大きな驚きを与えた。
ブラジル2部、グレミオ・ノヴォリゾンチーノへの移籍。
ヨーロッパのチームを探していたのは間違いなかった。だが、「自分の力が足りないところで(行き先が)なかった」ため移籍は実現せず。そのまま日本でプレーすることが現実的な状況となっていた。
そんな松岡に一報が届く。ブラジルからオファーが舞い込んだのだ。簡単には選べない選択肢だったが、海外挑戦を目指していた松岡にとっては目の前のチャンスを掴むことにためらいはなかった。
「チームとしてしっかり受け入れてくれていること、自分を求めてきてくれたので、ここに行ってしっかりやれば自分自身成長できるんじゃないか、より上に行けるんじゃないかという強い意志を持って決断しました」
ブラジルでの日々は刺激に溢れていた。今までとは違うサッカー、文化、環境…。そのどれもが新鮮なものとして自身の目に映った。これまではいかに恵まれていて、どれだけ不自由なくサッカーができていたのか。日本にいてはわからなかったサッカーのありがたみを知った。
また、ブラジルに来たからこそわかる、サッカーの違いにも強い印象を受けている。
「本当にタフなリーグだと思います。気候も地域によって暑いところや、肌寒いところといったような違いがありますし、ブラジル自体が広いのでアウェイに遠征するのもかなり大変。練習より移動時間の方が長いんじゃないかというくらいの時もあります(苦笑)。今まで自分は練習が終わってから自主練することが多かったですけど、試合の中で100%を出すため、体力的に考えないといけない部分もたくさんあって、そこの調整の仕方は日本とはすごく違いますね」
加えて、ブラジル人選手たちの意識の高さ、レベルの高さにも驚いている。まだ公式戦に出場することはできていないが、ユースの選手たちと練習試合に出場すると、何部リーグかもわからないようなチームと対戦することもあるという。ただ、そんなチームにも「日本だったら同じ年代の代表レベルなんじゃないかという選手がゴロゴロいたりする」。それほどに能力の高い選手であっても簡単に上にあがっていくことができない現実を目の当たりにし、上を目指そうとギラギラしている選手たちを見て、自分自身ももっとやらないといけないと言い聞かせている。
「言い方が正しいかわからないですけど、ブラジル人選手は家族が本当に大事で、お金にすごくシビアなところがあります。だから『日本でプレーしたいからちょっと言っておいてくれ』と言われたりすることもあって(笑)。ただ、そのくらいの野心を持っていて、練習の中でも相手を本当につぶしてでもボールを奪ってやるというところを、ひしひしと感じます。そういった状況でやれているのはすごくプラスだと思います」
6月中旬に実施したU-22日本代表のヨーロッパ遠征参加は、そんなブラジルでの成長を示す場としても意義のある機会だった。
「与えられた時間でどれだけ自分のパフォーマンスが出せるかを常に考えている。どんな状況でも、どういうタイミングでもチャンスは来ると自分の中で思っているので、与えられたチャンスの中でどれだけ自分という存在を出せるかだと思っている」
イングランド戦では途中出場し、「ボールを奪う際の足の出し方だったり、どこでパワーを使うかのところは自分の中で出せたと思う」と、ブラジルで学んでいる確かな変化をピッチで示した。一方で、イングランド戦ではゴールを奪うチャンスがあったようで、「そこを決め切れば得点者のところに名前も出てきたと思う。悔しさと反省と、じゃあどうやったら次は決められるかを考えながらトレーニングしていきたい」と口にし、さらなる進化を自身に求めている。
ブラジルに渡って約3カ月。濃密な時間を過ごしてきたが、まだまだ経験できることは多くある。
「やはり自分自身、もっと能力を上げないといけないと思います。日本にいたときよりもっと力強さをつけないと今後難しいなと改めて(ブラジルに)行って感じるところもある。今やっていることが絶対に自分の血となり肉となると思うので、しっかりやっていきたいと思います」
異国の地で一歩一歩前に進む松岡。誰とも違う道を選んだ男が、ここからどんな成長を遂げていくのか楽しみにしたい。
取材・文=藤丸リオ