2008年の欧州選手権を制し、胴上げされるアラゴネス氏 [写真]=Getty Images
文=座間健司
ルイス・アラゴネス氏が2月1日6時15分に死去した。75歳だった。アラゴネス氏の訃報はスペイン国内のメディアが大々的に報じた。スペインで最も発行部数が多い日刊スポーツ紙『マルカ』は32ページの追悼特集をつくり、スペインサッカーで最も偉大な人物を偲んだ。
アラゴネス氏はスペインのフットボールを語る上で欠かせない人物だ。現役時代はフォワードとして1部リーグで360試合プレー。特にアトレティコ・マドリードのエースとして活躍し、3度のリーグと2度のカップをもたらした。また1969-70シーズンには得点王にも輝いている。スペイン代表としても11試合に出場し、3得点を記録した。
1974年に現役引退後はアトレティコ・マドリードの監督に就任。監督としても1976-77シーズンにリーグを制覇している。アトレティコだけでなく、バルセロナ、ベティス、バレンシア、エスパニョールなどの監督を務め、監督として1部リーグで757試合を戦った。これはスペインリーグの歴史で1部の最多試合記録だ。
近年最も人々の記憶に残っているのが2008年の欧州選手権制覇だ。アラゴネス氏は実に44年ぶりにスペイン代表にタイトルをもたらした。スペインの象徴であったラウル・ゴンサレスを代表から外し、様々な批判も浴びた。
だがそんな騒ぎに惑わされることなく、自分の信念に従い、シャビ(現バルセロナ)を筆頭に背が高くなくても技術があり、ゲームビジョンに優れたアンドレス・イニエスタ(現バルセロナ)、ダビド・シルバ(現マンチェスター・C)、サンティ・カルソラ(現アーセナル)、セスク・ファブレガス(現バルセロナ)を中心にしたボールポゼッションを高めて決定機をつくるスタイルを確立させた。2010年南アフリカ・ワールドカップ、2012年欧州選手権連覇はビセンテ・デルボスケ現スペイン代表監督が成し遂げたが、スペインフットボールの礎を築いたのはアラゴネス氏だった。
2008年の欧州選手権制覇は、その夏にジョゼップ・グアルディオラ(現バイエルン監督)が就任したバルセロナの黄金期を後押ししたとも言える。グアルディオラもシャビ、イニエスタ、リオネル・メッシら決してフィジカルに恵まれていないが、スキルがあり、広いゲームビジョンを持つ選手たちを中心にチームを構築。スペイン代表同様に魅力的なフットボールを展開し、タイトルを総なめにした。
シャビは2008年欧州選手権まで彼は代表でも、バルセロナでもチームの主役になったことはなかったと回想している。アラゴネス氏がいなければ今の自分のスペイン代表、バルセロナでの成功はなかったと話している。
アラゴネス氏はシャビに「ピッチで指揮をするのは君だ」と全権を委ね「批判があれば私が受ける」と絶大な信頼を寄せた。そうすることでスペインは新たなスタイルを確立させた。そのスタイルはそれ以前、バルセロナにも世界中のどこにも存在はしていなかった。アラゴネス氏がシャビを中心に据えてタイトルを獲得した。だからこそ、バルセロナもグアルディオラと共にそのスタイルを推し進め、発展させることができたのだ。
ルイス・アラゴネスは母国に44年ぶりのタイトルだけでなく、フットボールの革命を起こした人物として、後世に語り継がれていく。
By 座間健司