チリ代表とのPK戦を前に円陣を組むブラジル代表 [写真]=Getty Images
ブラジルが、ついに鬼門を迎える。
4日に控えるのは、5度目の優勝を果たした2002年大会以降、2大会連続で敗退を余儀なくされている準々決勝。今大会は開催国ということもあり、是が非でも鬼門突破を果たしたいところだが、一筋縄ではいきそうもない。
相手は同じ南米のコロンビア。同国はベスト8入りが史上初ということもあり、実績ではブラジルが断然上回るが、過去の成績など関係ないかのように快進撃を続けている。
これまで4戦全勝で、ベスト8の中では12得点のオランダに次ぐ11得点で、最少の1失点と攻守ともに絶好調。なかでも、背番号10を背負う22歳のハメス・ロドリゲスが出色の出来でチームを引っ張っている。
これまで得点ランクでトップに立つ5ゴールを挙げているが、中でも圧巻だったのがウルグアイとの決勝トーナメント1回戦。胸トラップからの左足ボレーで衝撃的な先制弾を含む全2ゴールを叩き出す活躍で、優勝2度の伝統国を大会から追いやった。一気にスターダムを駆け上がった感もあるが、王国を沈めた時、本物のスーパースターの座は揺るぎないものになるはずだ。
何しろ、ワールドカップで第1回から唯一連続出場を続けるブラジルだが、5度の優勝を誇る栄光の一方で、敗退時は常にセンセーショナルなものばかりだ。
自国開催だった1950年には決勝リーグ最終戦でウルグアイに逆転負けを喫したマラカナンの悲劇があり、ジーコら黄金のカルテットで魅了した82年には、イタリアのパオロ・ロッシにハットトリックを許して、大会から姿を消した。また、86年にはミシェル・プラティニ、98年と2006年にはジネディーヌ・ジダンを擁するフランスの前に散り、90年にはディエゴ・マラドーナからクラウディオ・カニーヒアのホットラインで奈落の底に突き落とされた。
中でも、衝撃的な敗北は前回王者として臨んだ74年大会。ヨハン・クライフを中心とするオランダのトータルフットボールに完敗を喫した際、サッカー新時代の突入が明確となった歴史がある。
クライフ、ロッシ、プラティニ、マラドーナ、ジダン。サッカー史に名前を刻んできたレジェンド達によって、王国打倒が果たされてきたことは決して偶然ではないだろう。
しかし、何と言っても王国である。開催国ということを差し引いても、地力は揺るがない。加えて、現在の世界は小さくなる一方である。
74年に世界を席巻したオランダだが、当時はチャンピオンズカップで3連覇を達成したアヤックスの選手を多数抱え、快進撃の下地はあった。ところが、当時のブラジルは実際に相対するまで、大した情報を得ていなかったともいう。新旧のスタイルが真っ向から衝突した結果、時代の転換が訪れることになった。
今は違う。対戦国の情報は当時と比較にならないほど収集可能で、ハメスはあろうことかブラジルサッカーの殿堂であるマラカナンで世界の度肝を抜いた。警戒しないものは、まず皆無のはずだ。実際にフェルナンジーニョは、「僕らだって無策ではない。内容は明かさないけど、ハメス・ロドリゲスの対策については、綿密に話し合っている」と口にする。
また、ウルグアイのオスカル・タバレス監督が敗戦後、ハメスを「マラドーナに並ぶ才能」と絶賛したところも過去の出来事をフラッシュバックさせる。
82年に、現在のハメスより1歳若く、同じ左利きで背番号10を背負った青年が、ワールドカップで初出場を果たしていた。大会前にバルセロナに移籍することが決まっており、大きな注目を受けていた若者だったが、2次リーグでブラジルと対戦した時には完全に封じ込まれてしまう。挙句の果てには、報復行為で退場を命じられた。
4年後はアステカの地でワールドカップを掲げたマラドーナでも、辛酸をなめたブラジル戦である。
ブラジルに対するプレッシャーが強調されるが、大会を盛り上げる存在だったアイドルが一転して開催国の敵となった時、降りかかってくるプレッシャーは相当なものだろう。勝負の行方は、予想できそうもない。
PK戦までもつれたチリとの一戦を制し、6大会連続のベスト8入りを決めたが、死闘による燃え尽き症候群も懸念されるブラジル。隣国のコロンビアとは長年、鎬を削り合ってきたが、ワールドカップ本大会では初顔合わせとなる。
南米決戦となる鬼門の先にはあるのは、終わらない王国の宴か。それとも、新たなスーパースターの誕生か。
悩ましいことにふたつは選べない。答えは、常にひとつである。
文=小谷紘友