24年ぶり4度目のワールドカップ優勝を果たしたドイツ。決勝のアルゼンチン戦こそ、どちらが勝ってもおかしくない拮抗したゲームとなったが、準決勝で開催国ブラジルを相手に衝撃の大勝(7-1)を収めたことも含め、一貫して安定した戦いを見せたドイツは、「勝つべくして勝った」大会だったと言えるだろう。今大会、なぜドイツはこれほどまでに盤石の戦いを見せることができたのか。ここでは、ドイツの優勝が「必然」だった理由として、6つの理由を挙げておきたい。
<1>ドイツ代表史上最高の中盤のタレントたち
トーマス・ミュラー、トニ・クロース、メスト・エジル、サミ・ケディラ、マリオ・ゲッツェ、フィリップ・ラーム、バスティアン・シュヴァインシュタイガー。中盤ならばどこでもこなせるユーティリティーかつ運動量も豊富なタイプが揃い、オフ・ザ・ボールの質も高く、FW顔負けの得点力を誇る。ドイツ代表史上最高のタレントが揃った中盤は、最大のストロングポイントだろう。前線の選手も含めて、流動的に動くことで相手の守備を混乱に陥れる攻撃スタイルも、これだけのタレントを抱えているからこそ。
<2>他の強豪国を寄せつけないチームの成熟度
自国開催の2006年ドイツ大会ではアシスタントコーチとして分析を担当し、2006年7月からドイツ代表を率いているヨアヒム・レーヴ監督。実に8年間に渡り同じ監督が率いている点は、他の強豪国にはない大きなストロングポイントだ。主軸メンバーも、ほとんどが30試合以上の代表キャップがあり、ミロスラフ・クローゼ、ラーム、シュヴァインシュタイガー、ルーカス・ポドルスキ、ペア・メルテザッカーの5人は代表キャップ100試合以上という実績の持ち主。まさに、今大会が総決算のタイミングだったと言えるだろう。
<3>チームに守備意識を徹底させたレーヴ監督の手腕
レーヴ監督は、グループリーグの全試合&ラウンド16のアルジェリア戦で、最終ラインに4人のセンターバックを並べた。右サイドバックにジェローム・ボアテング、センタバックにメルテザッカー、マッツ・フンメルス、そして左サイドバックにベネディクト・ヘヴェデス(フンメルスが体調不良により欠場となったアルジェリア戦では、シュコドラン・ムスタフィが右サイドバックに入りボアテングがセンターバックにスライド)。通常ならば、右サイドバックにはラームが入るところを、ラームをアンカーのポジションに入れ、最終ラインにセンターバックが本職の4人を並べることで、より守備の意識を徹底させたのだ。準決勝以降はラームを右サイドバックに起用したものの、バイエルンでのラームとは違い、かなり守備に重きを置いたプレーぶりだった。短期決戦の場合、試合によってはどうしても気が抜けてしまいがちなところを、しっかりとした守備意識で乗りきったことは大きく評価できる。
<4>マヌエル・ノイアーという次世代GKの存在
「ゴールデングローブ」(最優秀GK)に輝くまでもなく、今大会のGKでベストのパフォーマンスを見せていたのがノイアーであることに異論のある人はいないだろう。全試合で相変わらずの安定したセービングを見せ、最終ラインにフンメルスが不在で、ラインコントロールに不安があったアルジェリア戦では、通常ならば飛び出さないボールにも思いきりの良い飛び出しを敢行し、これまでのGKと比べて圧倒的に守備範囲の広いGKとしての実力を証明した。また、ノイアーの特殊能力としては、セービングだけではなく、パントキックの精度も見逃せない。優れたセービングだけでなく、攻撃の起点となるキックもノイアーの大きな武器の一つでである。
<5>バイエルン勢を多く抱えることのメリット
決勝戦でスタメンとしてピッチに立った11人のうち、GKノイアー、DFラーム、ボアテング、MFミュラー、クロース、シュヴァインシュタイガーの6人、そして途中交代から決勝弾を挙げたゲッツェを含めた7人が、バイエルンで一緒にプレーしているチームメートである。バイエルンは、今シーズンこそ、欧州チャンピオンズリーグではレアル・マドリードに敗れてベスト4で終わったものの、2012-13シーズンはチャンピオンズリーグ優勝を含む3冠を達成するなど、現在、最もクラブレベルで成功を収めているクラブの一つである。拘束時間が限られてしまう代表チームにとって、代表選手たちが同じクラブでプレーすることが及ぼす好影響は、改めて言葉にするまでもないはずだ。
<6>状況によって戦い方を変えられる選手層
この要素が、トーナメントを勝ち抜く上では絶対に必要かつ、ブラジル、アルゼンチンという南米の強豪には少し足りなかったものではないかと思う。前述したように、ドイツの中盤の選手は複数ポジションをこなせる選手が多く、けが人等の影響でベストの布陣が組めなかった時でも、さほど問題なくその穴を埋めることができる(ラームしかり、ケディラしかり)。また、ゲッツェ、クローゼ、アンドレ・シュールレ、ポドルスキといったスタメンでも何ら遜色のないプレーを見せる選手を時には控えに置き、後半の勝負どころで起用する、という戦術も多用。選手たちもその起用にしっかりと応えた。途中交代のシュールレが、同じく途中交代のゲッツェの決勝弾をアシストしたアルゼンチンとの決勝は、まさにその戦術がピタリとハマった例だと言えるだろう。
以上のように、ドイツ代表の優勝は、決して偶然ではなく、必然的なものだったと言えるだろう。このドイツ代表の台頭は、2年後のフランスで開催されるEURO、そして2018年のロシア・ワールドカップまで続く可能性も十分にある。レーヴ監督率いるドイツ代表がどこまでいけるのか。その挑戦を最後までしっかりと見守りたいと思う。
文=岩本義弘