U-20女子ワールドカップで決勝に進出したヤングなでしこ [写真]=Getty Images
史上初の連覇に向けて、“ヤングなでしこ”がスペインとの頂上決戦に臨む。
コスタリカで開催されているU-20女子ワールドカップも、残すは決勝戦と3位決定戦の2試合のみとなった。8月10日に開幕した今大会は3週間弱の短期決戦だが、果てしなく長い長い道のりのように感じる。それもそのはずである。日本がアジア予選を戦ったのは2019年11月のことなのだ。
当初、今大会はコスタリカとパナマの共催で2020年に開催予定だった。しかし、コロナ禍の影響により延期を余儀なくされ、その後パナマがホスト国を辞退。そうした紆余曲折を経て、今月ようやくコスタリカで開催されているのだ。グループステージでは、異例の大会を象徴するように、優勝候補のドイツやアメリカが敗退する波乱もあった。それでも逞しく勝ち上がってきたのが日本である。
準々決勝のフランス戦では敗色濃厚となった延長戦の終了間際にPKを獲得。同点に追いつき、その後PK戦を制した。準決勝のブラジル戦も、フィジカルを全面に出して猛攻を仕掛けてくるセレソンに対し、苦しい戦いを強いられながらも84分にFW浜野まいか(18歳)が決勝ゴールを奪い、ファイナルの切符を手にした。
それでは現地時間28日(日本時間29日午前)に行われる決勝戦と3位決定戦を前に、知っておきたい今大会の豆知識を紹介しよう。
[写真]=Getty Images
■ブラジルの悲願ならず
準決勝に残った4か国(日本、スペイン、ブラジル、オランダ)のうち、U-20女子ワールドカップで優勝経験があるのは日本だけ。ブラジルは“サッカー王国”の威信をかけて頂点を目指していたが、準決勝で日本の前に散った。
ブラジルは、男子A代表がワールドカップで5度の優勝を誇るほか、男子U-20代表と男子U-17代表も世界一に輝いたことがある。男子は“3世代”のワールドカップを全て制している限られた国の1つだ(他はイングランド、フランス)。しかし女子チームに関しては、女子A代表がW杯とオリンピックで準優勝しているものの、まだ世界一に輝いたことがない。U-17女子代表も世界の頂点に立てておらず、今大会のU-20ワールドカップでは悲願の“初世界一”を目指したが、日本の前に屈して決勝進出とはならなかった。
■無失点Vは不可能
そのブラジルの今大会の強みは、184㎝のCBタルシアネを中心とした堅守である。実は、この世代のブラジルは絶対的な守備力を誇っており、今年4月の南米予選では7戦全勝、22得点0失点という成績を残した。さらに本大会に入っても準々決勝まで無失点を維持。気づけば、2021年から数えて代表チームとの対戦は16試合で「15勝1分0敗、44得点0失点」という圧倒的な強さを誇っていた(クラブチームとの練習試合では失点もあった)。
そうして迎えた現地時間25日の日本との準決勝だったが、日本の自慢2トップであるFW山本柚月とFW浜野まいかにそれぞれゴールを許して1-2で敗戦。初失点を喫するとともに、優勝の夢を砕かれたのだ。ブラジルにとっては、2019年12月のフランス戦(0-1)以来の敗戦だったという。
そんなブラジルと並び、今大会準決勝まで無失点で勝ち上がっていたもう1つのチームがスペインだ。そのスペインは、ベスト4でオランダを下して2大会連続となる決勝進出を決めたのだが、試合後半に今大会初失点を喫している。実は、U-20女子ワールドカップでは、これまで無失点で優勝したチームがなく、今大会もその偉業はお預けとなった。
■“世界女王”日本が目指す初の快挙
今大会の対戦国が「日本は世界最高峰のチーム」と敬意を払うように、日本は前回の2018年大会を制している“世界女王”なのだ。今大会もグループステージでオランダやアメリカ、決勝トーナメントではフランスやブラジルといったサッカー大国を打ち破って決勝まで勝ち上がってきた。これで日本は2大会連続で決勝に駒を進めただけでなく、出場した最近4大会連続で3位以上の成績を残すことになるのだ。そして現地時間28日の決勝戦では、U-20女子ワールドカップ史上初となる連覇をかけてスペインと激突する。日本は“世界女王”、スペインは今年7月のU-19女子欧州選手権を制している“欧州女王”だ。
■またも決勝の相手はスペイン…
前回の2018年U-20女子ワールドカップ・フランス大会の決勝で、日本はスペインを下して頂点に立った。グループステージで対戦した際には0-1で敗れていた日本だが、ファイナルでは宮澤ひなた、宝田沙織、長野風花がそれぞれネットを揺らして3-1で勝利。U-20W杯での初優勝を飾ると共に、女子サッカー界初の「3世代ワールドカップ制覇(A代表、U-20、U-17)」を達成した。
そして今大会の決勝でも、日本は再びスペインと相まみえることになった。当然、選手は全員変わっているが、両チームの監督(日本の池田太、スペインのペドロ・ロペス)は変わっていないため、手の内を知る両指揮官の采配にも注目したい。
さらに言うと、日本とスペインの頂上決戦は2018年大会が初めてではなかった。実は、両国は2014年にも世界一をかけて激突しているのだ。その時はU-17女子ワールドカップ。初優勝を目指す日本は順調に勝ち上がると、グループステージでも勝利していたスペインと決勝で対戦。そして西田明華と児野楓香のゴールで2-0で勝利を収めて初優勝を遂げたのだ。しかも、その時の開催地はコスタリカ。決勝の会場は、今大会のファイナルでも使用される首都サンホセのエスタディオ・ナシオナル。サンホセでスペインとのファイナル…どうしても運命を感じられずにはいられない。
■ファイナルの注目選手
スペインでは、陸上選手として2019年の欧州ユースオリンピックで「400mハードル」と「4×400mリレー」に2競技で金メダルを獲得しているFWサルマ・パラリュエロ(18歳)のスピードが気になる。しかし、最も警戒すべきはエースのFWインマ・ガバーロ(19歳)だろう。
既にセビージャ(女子チーム)で背番号10を背負ってチームの顔として活躍するガバーロは、今大会も圧倒的な存在感を発揮している。グループステージのオーストラリア戦でハットトリックを達成すると、決勝トーナメントに入ってからもゴールを連発。準決勝のオランダ戦でも2ゴールの活躍でチームを決勝に導いた。特に2点目は、背後からきたロングパスを右足でトラップして反転した瞬間に右足を振り抜いた超ファインゴール。これでガバーロは今大会7点目。2位以下に3点差をつけて得点ランク首位を独走している。
対する日本は、もちろん全ての選手に注目なのだが、一人選ぶとすればFW浜野まいか(18歳)だろう。献身的に走り回ってボールを追いかけ、細い体で大柄な選手たちに飛び込んでいき、何度倒されてもすぐに立ち上がってプレーを続ける。準々決勝のフランス戦では、危険を顧みずにボックス内に侵入してGKと思い切り衝突してPKを獲得した。そんな“頑張る”姿勢ばかりに目がいきがちだが、彼女は動きの中でボールを扱う技術が抜群にうまい。そして頼もしいストライカーでもある。
準決勝のブラジル戦では、前半から動き回って疲労困憊のはずが、そんなことを微塵も感じさせない走力で84分に敵DFラインの裏に抜け出すと、冷静に右足を振った。そして待望の勝ち越しゴールを奪った彼女は、大きくガッツポーズしたあと目頭を押さえた。彼女は見ている人の心を打つ稀有なプレーヤーだ。無論、彼女だけではない。笑顔や涙を見せながら、最後の最後まで走り続ける“ヤングなでしこ”はサッカーの楽しさと感動を与えてくれる。
そんな彼女たちなら、ファイナルでも必ず素晴らしい戦いをしてくれるはずだ!
(記事/Footmedia)
By Footmedia